今回ご紹介する一冊は、
遠野遥(とおのはるか)著
『破局』です。
デビュー作が第56回文藝賞を受賞した
遠野遥の2作目である本作は、
先日第163回芥川賞受賞となりました。
タイトルから想像できるように、
すべてまるっとハッピーエンドという
ストーリーではありませんが、
細かでリアルな描写に共感したり
心えぐられたりと、
読み応えのある1冊になっています。
目次
遠野遥『破局』1人の男の子と、2人の女の子
【第163回芥川賞受賞作】
私を阻むものは、私自身にほかならない。
ラグビー、筋トレ、恋とセックスーー
ふたりの女を行き来する、いびつなキャンパスライフ。
28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無。2019年文藝賞でデビューした新鋭による第2作。
物語は全体を通して、
1人の男の子の視点で描かれています。
大学4年生で公務員試験に向けて勉強の毎日。
とてもストイックで筋トレは毎日欠かさない。
部活は引退したがOBとしていまだに顔を出し、
心を鬼にして新入社員にも厳しく接していく。
彼女はいるけど女の子がいればつい見ちゃう。
そんな感じの、
ごくごく普通の体育会系男子です。
そして「破局」するには相手も必要。
物語の中では2人の女の子が出てきます。
1人は男の子と同じ大学4年生。
政治塾に通ったり議員手伝いで
走り回ったりと忙しい日々を送っています。
そしてもう1人は大学1年生。
地方から出てきたばかりで
右も左も分からない、
そして何にもまだ染まっていない
純粋な女の子です。
1人の男の子と、2人の女の子。
この3人をめぐる恋愛関係が
繰り広げられていきます。
『破局』というタイトルからも
想像がつくとおり、
すべてが順風満帆とはいきません。
3人それぞれが自分の心に素直に従いつつ、
時には大胆に、時にはじれったくなるくらい
殻に籠りながらも、
ストーリーが展開されていきます。
遠野遥『破局』恋愛モノだけど結末から逆算する
この本を最後まで読んで
一番に感じたことは
「結末から逆算してストーリーが
作られているのでは」
ということです。
推理小説や殺人事件モノなどでは、
ストーリーの中に散りばめられた
トリックや伏線を結末ですべて回収できるように、
結末から逆算して話が組み立てられていること
は良くあると思います。
ですがこの本は恋愛モノです。
にも関わらず、
読みながら「どういうこと?」と
思うポイントが
最後に綺麗に回収されていく。
その様は、推理小説や殺人事件モノと
似たような感覚です。
この本を手に取った誰しもが、
タイトルから結末を想像すると思います。
結末が想像できるからこそ
「この話はこのあとどうやって、
結末のオチに向かっていくのか」を
どうしても想像しながら
読んでしまうことでしょう。
ぜひ、様々な描写が結末で
どう回収されていくのか、
楽しみながら読んでみるのがおすすめです。
遠野遥『破局』細かな描写にも注目してみよう
全体的に、
細かくリアルな描写が多いというのも、
この作品の特徴でしょう。
ただし、中にはストーリーから
ズレるような描写があったり、
展開がコロコロ変わったりと、
ストーリーを追いかけるのが
難しくなるような描写も多く出てきます。
まるで、結末を予想しながら
読んでいる読者を惑わせるような描写だ、
と感じたほどです。
ですが、想像してみてください。
20歳とかそこらの大学生とは、
まだ社会的な責任もあまりなく、
それでいて思考は大人に近づいてきています。
素直に思うまま生きていると、
ちょっとしたことで感情が揺さぶられたり、
数分あるいは数秒のあいだに
考えていることがコロッと変わったり、
そんなことが日常茶飯事では
なかったでしょうか。
自分に正直に生きようとすればするほど、
世の中の矛盾にぶち当たったり、
何を選べば正解なのか分からずに
困惑してしまったりすることも
多かったことでしょう。
そんな20代前半を思い出しながら読んでみると、
細かな描写が本当にリアルに
感じられることと思います。
結末に向けてストーリーが
どう進んでいくか楽しみにしながら読んでいると、
少し煩わしく感じられる場面も
あるかもしれません。
あまりストーリーを追いかけすぎず、
昔の自分と重ねながら
読んでみるのも面白いかと思います。
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