森絵都『無限大ガール』あらすじと感想!眩いほどまっすぐで甘酸っぱい青春物語

 

今回ご紹介する一冊は、

森絵都(もりえと)

『無限大ガール』

です。

 

森絵都さんは、

児童文学を中心に活躍している

女性の小説家です。

その作品の多くは、

子供から大人まで大きな支持を得ています。

森絵都さんが作家を目指したきっかけは、

高校3年生の進路を選ぶ時。

かつて作文をほめられた経験から

作家になろうと決意をします。

その後、日本児童教育専門学校児童文学科を卒業し、

早稲田大学第二文学部を卒業しています。

児童文学創作の傍ら、

「エースをねらえ!」や

映画「ブラックジャック」など

アニメーションのシナリオ制作を手がけました。

1990年に「リズム」で

第31回講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー、

2006年に「風に舞い上がるビニールシート」で、

第135回直木賞を受賞しています。

その後も続々と人気作品を発表し、

数多くの作品を受賞しています。

 

 

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失恋から始まった「ハケン部員」

こうと決めたら猪突猛進! 眩しいぐらいまっすぐな高校生女子が大活躍する、爽やかで甘酸っぱい青春小説の短編。

高校二年生の相川早奈(あいかわ・さな)は「日替わりハケン部員」。きょうはテニス部、あすは水泳部、ソフトボール部、園芸部に写真部……。頼まれれば、臨時の助っ人として参加する。去秋、重要な試合を翌日に控え、レギュラーが捻挫したバレー部の友達に泣きつかれたのがきっかけだった。父親の長身と母親の器用さを受け継ぎ、運動神経に恵まれた早奈は以来、ひっきりなしにくる依頼に喜んでこたえ、〝ハケン〟を楽しんでいた。

次に早奈に舞い込んだのは、演劇部部長からのSOS。10月末の文化祭でミュージカルを上演するのに、主演女優が演出家ともめて急遽降板し、代役をと懇願する。その演出家こそ、昨夏、早奈がたった4カ月だけの交際でフラれた元カレの先輩・藤見(ふじみ)だった! 失恋の痛みを引きずる早奈は引き受けるか、悩むが……。

 

主人公の相川早奈は、

八方美人で何でも器用にそつなくこなしてしまう

高校二年生の女の子。

彼女は色々な部活を転々としながら、

助っ人を引き受ける「ハケン部員」をしています。

高校一年生の秋、友達に泣きつかれ一日だけ

バレー部の試合に参戦したことをきっかけに、

他の部からも引く手あまたとなり

欠員代行を引き受け続けるようになります。

そんな中、演劇部から文化祭のミュージカルの

主人公代役を頼まれますが、

その演出家は早奈の元カレ・藤見仁平だったのです。

大好きだった彼氏から「自分がない」と言われ、

その失恋のショックから立ち直るきっかけと

なったハケン奔走記の果てに、

再びセンパイと再会してしまいます。

「自分がない私」とは真逆の、

「ネズ美」という主役を務めることに

戸惑いを感じながらも、

予期せぬセンパイとの再会に嬉しさを感じる早奈。

「ネズ美」を演じるうちに、

「自分がない」からこそネズ美を受け入れる隙間

があることに気付き、

次第にミュージカルに夢中になっていきます。

 

 

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「自己評価の低い私」と「プライドの高い藤見センパイ」

 

早奈は、失恋したショックにより

「自分がない」「ゼロ」だと思い込んでしまいます。

けれど、それはあくまでもセンパイの理想像である

「本音をぶつけあい、互いを刺激しあって、

日々高めあっていけるような男女の関係」

でなかったことに過ぎなかったのではないでしょうか。

大好きな人との恋が実った。

それを壊したくない。

嫌われたくない。

そう思うが故の「うん」「そうだね」

だったのではないでしょうか。

一方で、彼の方は「とりあえず…」

という若干冷めた気持ちで付き合っているにも関わらず、

理想の女性像があったため、

その理想とのギャップを埋めることができないまま

早奈に対し「自分がない」と言い放ち、

別れを告げてしまう結果となってしまいました。

付き合い始めの時点で、

すでに両者の間でかなりの温度差

があったのかもしれません。

結果的に、演劇を通じた早奈の成長過程を

垣間見た藤見が惚れた、という形ですが、

実際早奈自身「自分がなかった」のではなく、

演じたい自分が分からなかったけれど、

ネズ美という彼の理想像を演じたことによって

「意思のある自分」になれたのでしょう。

 

 

 

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演じる力は無限大

 

演じることでなりたい自分になれた早奈は、

ネズ美に後押しされるように自信をつけていきます。

早奈の中にある「自分」が、演じることによって開花した。

それが、藤見の理想像だったのです。

だから、そもそも早奈は

「自分がない」わけではないのです。

色々な部活で欠員代行を務められたのも

「代役を演じる器用さ」ゆえのことです。

「自分を上手く表現できない」ことが

コンプレックスだったのではないでしょうか。

自分について悩む学生時代、

「自分ってそもそも何なんだろう」という漠然とした疑問に

私もぶち当たった時期がありました。

周りの人達がとても輝いて見えて、

それに引き換え自分は何もない、

と卑屈になったりしてしまっていました。

けれど、そういう時って迷ってばかりで

前に進めてなかったなぁと振り返ってみると思います。

もし同じクラスに早奈がいたら、

私だったらきっと憧れていたに違いありません。

早奈は、大好きなセンパイと再会し、

恋愛よりも大切なものを手に入れることができました。

だけど早奈自身が変わったのではなく、

空虚な自分を認めることができたという成長

だと思います。

実験用ネズミとしての条件反射で

しっぽを振ってしまうネズ美が、

それさえも受け入れて、

それが私。これが自分だと

認められることこそが真の強さを手に入れたように。

 

 

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