今回ご紹介する一冊は、
吉川 英梨 著
『新宿特別区警察署 Lの捜査官』
です。
私はこの本を手に取るまで、
吉川英梨さんについて知りませんでした。
この書評を執筆するにあたり、
『海蝶』という本の作者さん
だと知りました。
『海蝶』は本屋の新刊コーナーで
見たことがあったからです。
舞台は東京歌舞伎町のゴールデン街の近く、
電力会社のビルを間借りしている警察署です。
そして管轄する範囲が、歌舞伎町、
新宿二丁目、新宿三丁目という歓楽街を管轄し、
地図上で見るといびつなLの形になることから
通称「新宿L署」と呼ばれているのです。
タイトルもここからきています。
子持ちの女性幹部・琴音と
レズビアンの部下・六花が事件を
解決していく話です。
女性ならではの生きづらさや
社会的問題を浮き彫りにさせています。
LGBTを扱っていて、
子供が居ながら仕事をする母親、
などエンタメ警察モノでありながら
社会問題にも深く掘り下げている作品です。
目次
吉川英梨『新宿特別区警察署 Lの捜査官』 吉川英梨さんの作品の魅力
まったく新しい、『女』の警察小説!
子持ちの女性幹部と、「警察官らしくない」レズビアンの部下が、
新宿歌舞伎町と二丁目で起こった猟奇事件に挑む!歌舞伎町、新宿二丁目、三丁目を管轄する「新宿特別区警察署」。その担当区域の地図上の形から、「新宿L署」と呼ばれている。
その「L署」に本日着任の新井琴音警部は、小3の息子のインフルエンザで初出勤すら危ぶまれていた。
夫の敦は警視庁本部捜査一課の刑事だが、琴音のほうが階級は上で、夫婦仲はぎくしゃくしている。
大幅に遅刻しつつも琴音がなんとかL署に到着した途端、個性的な服装の女性部下・堂原六花巡査部長から管内で殺人事件が発生と聞く。
歌舞伎町のホテルで全裸の中年女性の遺体が発見され、その女性の息子がノコギリを持ち逃走中というのだ。
琴音は、レズビアンであることをカミングアウトしている六花から、L署が管轄するこの独特な界隈の歴史や情報を聞き、捜査に入る。
その夜、二丁目のショーパブで六花に会った敦だが、上階のイベントスペースで無差別殺傷事件が発生。犯人はその場で自殺したが……。母であり妻であり警察署幹部である琴音と、レズビアンの異色捜査官として男性中心組織の中で闊歩する六花。
L署の他の面々と共に、事件解決に向けて奮闘する!いまの世の中の、全ての「生きにくい」と思っている方々に読んで欲しい――(著者より)。
猟奇事件の捜査を縦糸に、二人の女性刑事の生き様を横糸に、エンタメ性たっぷりの物語の中、現代日本を生きるうえでの「息苦しさ/生き苦しさ」をリアルに抉っていく、新しいタイプの警察小説です!
吉川さんは推理作家であり、
恋愛小説家です。
2008年には『私の結婚に関する予言38』で、
第3回日本ラブストーリー大賞
エンタテインメント特別賞を受賞し
デビューされた方です。
そのため、登場人物の心理描写が鮮明に、
繊細に描かれていると読んでいて
感じました。
これはただの推理小説だけではない感情
という面を恋愛小説の立場から
描写させることが可能な、
吉川さんならではの魅力です。
また、ハラマキシリーズ、
新東京水上警察シリーズ、
十三階の女シリーズ、
警視庁53教場シリーズなど、
シリーズものを書くのが得意な作家さん
とも言えます。
一巻完結の本も面白いですが、
シリーズで続いていく話の方が
楽しみが多く長く読み続けることができる
と思うのでそういった点も強みだと思います。
この作品もまだ一冊しか出ていませんが、
続編やシリーズ化をしてほしいという
読者の声も見受けられます。
私も琴音と六花の二人が今後
どうなっていくのか気になるので是非、
シリーズ化してほしいです。
吉川英梨『新宿特別区警察署 Lの捜査官』 の面白い所
私はこの作品を読んでいて、
何となくですが、ドラマ『MIU404』
を思い浮かべました。
共通点といえば警察モノという点と
社会問題と読者または視聴者になにか
考えるきっかけになるようなところ
が共通点だと感じました。
堅物の琴音と誰に対してもフランクな
話口調の六花という歪なコンビの組み合わせ
が面白いと感じました。
会話が多くテンポがよくてスラスラ
と読むことができました。
六花の性格は型にはまらない性格で、
型破りの行動をすることから
周りや琴音を驚かせますが、
それが新たな発見や事件解決の糸口
になっていきます。
そして、実際にある街が舞台に
なっていることからも、
実際の建物や地名が登場しているところも
臨場感やリアリティを出す材料に
なっているのではないかと思います。
例えば、歌舞伎町は日本一の歓楽街として
外国人向けには有名で観光に来る外国人は多いが、
主な店は日本人向けで外国人との
トラブルになることも多い。などです。
このことから話の中で外国人がキーになる
可能性があるのではないかと考えました。
吉川英梨『新宿特別区警察署 Lの捜査官』 社会的な問題
また、メインキャラである
子持ちの女性幹部・琴音と
レズビアンの部下・六花、
二人の存在は読者と今の社会に
訴えかけている存在でもあると考えました。
琴音の夫も違う署に勤める刑事である為、
夫婦揃って多忙を極めていました。
仕事をしながら家事と子育てを
しなければならない女性がいるということ、
また恋愛対象が同性であるという人
がいるということ。
この二つは今後、社会問題に
どんどん発展していく現代社会の課題
だと思います。
この二人の存在がよりこの作品を
リアリティにしたのではないでしょうか。
また、琴音の立場として女性ですが
夫や知っている同僚が今では
自分よりも階級が低いという、
警察の階級社会ならではの問題
に苦悩している点は女性としてだけ
ではない苦労が見受けられます。
何か問題を抱えた登場人物と
いうのは物語の中にいると
作品として盛り上がり、
また今作のようにリアリティのあるものだと、
読者自身もその問題について考える機会
が生まれると思います。
この作品はただ推理、
警察モノとして楽しむだけでなく
そういったことも考えられますし、
物語としてもとても面白い作品でした。
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