【感想】寺地はるな『どうしてわたしはあの子じゃないの』小説あらすじ

 

今回ご紹介する一冊は、

寺地 はるな (てらち はるな)

『どうしてわたしはあの子じゃないの』

です。

 

コロナ禍が続く中、

誰もがしんどい思いをしているこの時代に、

寺地はるなさんの小説は

とても勇気を与えてくれます。

 

どの登場人物をとってみても、

その一面が自分にもきっとあるように思える、

そんな普通に私たちが抱く感情や事情が、

ねじれたり真っ直ぐに伸びたりしながら、

切々と訴えられています。

 

寺地さんは2014年にポプラ社小説新人賞

を受賞され、

2015年『ビオレタ』でデビューされました。

 

佐賀県唐津市の出身で、

田舎のしがらみを描いた物語

も多く見られます。

 

『どうしてわたしはあの子じゃないの』

も佐賀県が舞台。

 

田舎の古いしきたりや風土の中で

若者が生きる息苦しさや反発や

都会へのあこがれや嫉妬。

 

そういったものを軸にして、

3人の中学生の思いと彼らを取り巻く人々、

そして16年後の彼らの現実が、

それぞれの立場から描かれています。

 

寺地はるな『どうしてわたしはあの子じゃないの』

が、こちらからすぐに読めますよ♪↓

寺地はるな『どうしてわたしはあの子じゃないの』 あらすじ

 

閉塞的な村から逃げだし、身寄りのない街で一人小説を書き続ける三島天は、ある日中学時代の友人のミナから連絡をもらう。
中学の頃に書いた、大人になったお互いに向けての「手紙」を見つけたから、30才になった今開封しようというのだ――。
他人との間で揺れる心と、誰しもの人生に宿るきらめきを描く、感動の成長物語。

 

天とミナと藤生は中学の同級生。

 

天と藤生はここ肘差村の出身ですが、

ミナは小学生の時に東京から

引っ越してきました。

 

とはいえミナは、父親が祖父の跡を

継ぐために戻ってきた形ですから、

もともとは地元の名士の家柄です。

 

東京育ちのミナはこの田舎を

気に入っていました。

しかし天は、ここの古臭い人間関係や

封建的な考え方、狭い村での息苦しさ

などにうんざりし、

早くこの村を出たくてたまりません。

 

藤生はそんな天を見ながら、

東京に行きさえすれば夢はなんでも

叶うなんて甘いぞと思っています。

 

この村には昔から浮立という伝統行事

がありました。

ある年の浮立の日、社が火事に遭います。

それと時を同じくして、

日ごろから父親と折り合いの悪かった天

が家出を図ります。

 

天は藤生や大人たちに連れ戻されますが、

そのあとから藤生とは

険悪になってしまいました。

 

見かねたミナはお互いに宛てた手紙

を書こうと提案します。

 

しかも20歳になった相手に宛ててです。

20歳になった時、3人でまた会って、

手紙を読み合おうと。

 

そしていよいよその日がやってきました。

3人は何を書いていたのでしょうか。

 

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寺地はるな『どうしてわたしはあの子じゃないの』 伝えなければわからないことと伝えなくていいこと

 

人と人が関わっていく上では、

コミュニケーションは必須です。

しかしそれは、

そう簡単なことではありません。

 

というのは、なんでも伝えれば良い

というわけではないからです。

 

伝えなければならないこともあるけど、

伝えない方がいいこともある、

とても日本人的な発想だと思いますが、

激しく同感です。

 

本書には、

言葉とは相手にぶつけてしまったら

取り消せないものだ、

という表現が何度も登場します。

 

きっとこれは作者である寺地さんご自身

の心の声なのでしょう。

 

そして

「なにを言葉にして伝えるか。あるいは、伝えないか。わたしたちはいつもその選択に迫られる。そうしてたいていの場合、まちがった方を選ぶ。」

 

ああ、とてもよくわかります。

そのために人と分かり合えなかったり

すれ違ったり、

そんなことばかりして後悔して反省して、

また次にも同じことをする、

 

そうやって生きているのが

私たちなのだなぁと実感します。

 

天とミナと藤生、そして3人の親たちや

3人を取り巻く遠藤さんや五十嵐さん

といった大人たちも、

みなそうして生きています。

好きだとか、そういうこともです。

 

このもどかしさは、

言葉というコミュニケーションツール

を持ってしまった人間という動物の宿命

としかいいようがない気がします。

 

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寺地はるな『どうしてわたしはあの子じゃないの』 わたしはあの子になれないし、あの子もわたしにはなれない

 

今の自分が嫌なのは、環境のせいだとか、

違う場所に行けば自分は

きっと輝けるはずだとか、

そういうことは若いうちは特に、

よく思いがちなのではないでしょうか。

 

主人公の一人、天がまさしくそうで、

安藤針というミュージシャンに憧れて、

四六時中、彼女の曲を聴いたり、

服装を真似したり、彼女が読むという本

を読みあさったり、

だけどそうしてみても安藤針には

なれるわけではありません。

 

閉鎖的で古臭い田舎のしきたりが嫌だからと、

東京へ行けば安藤針になれるのかというと、

それもまた違います。

 

天は、自分の境遇を恨み、

どうしてわたしはあの子じゃなんだろう、

といつも誰かを羨んで生きてきました。

 

が、ある時ふと気が付くのです。

わたしはわたしでいい。

というよりも、わたしには誰もなれないんだ、と。

 

これは素晴らしい発想です。

Mrs. GREEN APPLE というバンドの

『僕のこと』という曲の中に

「僕は僕のまま生きていく とてもいとしいことだ」

という歌詞があるのを思い出しました。

 

自分であることを仕方なく思い、

あきらめて生きていくのではなく、

自分が、他の人が誰もなれない

たった一人の自分であることを愛し、

誇りに思って生きていくのだ、

という希望に満ちたメッセージです。

 

それを本書からも同様に受け取りました。

とても勇気づけられます。

 

 

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