今回ご紹介する一冊は、
馳 星周(はせ せいしゅう) 著
『少年と犬』です。
犬は好きですか?
一緒に暮らしたことはありますか?
『少年と犬』はそのタイトル通り、
犬の物語です。
大の愛犬家として知られる馳星周さんが、
これまでご自身の愛犬のことを
綴ったいくつかの作品を経て、
満を持して書かれたのがこちら『少年と犬』。
馳さんが『不夜城』で
鮮烈なデビューを果たしたのは、
もう20年以上も前のことになるのですね。
その後、暗黒社会に生きる人々を描き出す作品を
次々と発表されてきましたが、
馳さんのそういった持ち味も存分に
うかがえる犬の物語。
何度も候補に選ばれた直木賞にこちらも候補作
として上がっています。
犬は最も古くから人間の相棒として
生きる動物のひとつだと言われていますね。
この小説を読むと、
それがなぜなのか紐解けるような気がします。
目次
馳星周『少年と犬』あらすじ
【第163回直木賞 候補作】
傷つき、悩み、惑う人びとに寄り添っていたのは、一匹の犬だった――。
犬を愛するすべての人に捧げる感涙作!2011年秋、仙台。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしていた。
ある日和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾う。多聞という名らしいその犬は賢く、和正はすぐに魅了された。
その直後、和正はさらにギャラのいい窃盗団の運転手役の仕事を依頼され、金のために引き受けることに。
そして多聞を同行させると仕事はうまくいき、多聞は和正の「守り神」になった。
だが、多聞はいつもなぜか南の方角に顔を向けていた。多聞は何を求め、どこに行こうとしているのか……。
仙台で震災のために職を失った男が
犯罪に手を染めかけていた時、
この犬と出会います。
認知症の母、介護する姉。
疲弊する家族に見ず知らずの一匹の犬が
心の絆をもたらしてくれました。
犬は常に南の方を向いていました。
その後、犬は外国人強盗犯の手に渡り、
行動を共にします。
強盗犯には母国でのつらい幼少時代
がありました。
犬は強盗犯に寄り添いながら
やはり常に南を気にしていました。
ある夫婦に出会った犬は、
妻と夫から別々の名前を付けられ
別々の名前で呼ばれました。
壊れかかった夫婦に犬がきっかけを与えました。
犬は常に南西の方角を見ていました。
さらに、ギャンブルに明け暮れる男に
金を貢ぐ為、
体を売る女がこの犬と出会います。
にっちもさっちもいかないどん底生活を犬に癒され、
自分のとるべき道を見出します。
犬は南西を気にしていました。
次に犬は、余命いくばくもない
元猟師の元へ現れました。
まるでひとりぼっちの元猟師の最期
を看取るためにやってきたかのように。
そして犬は南西を見つめていました。
釜石で震災に遭った一家は
熊本に引っ越して暮らしていました。
一人息子は震災の衝撃で
言葉を発せなくなっていました。
そんな中、この犬と出会い、
少年には笑顔と言葉が戻りました。
しかしそれはただの出会いでは
ありませんでした。
馳星周『少年と犬』ただそこにいる、それだけで
この物語の中で、
6つの出会いが犬にはあるのですが、
その一つひとつどの出会いにも
犬は特別何をするわけでもありません。
しかし人間たちはそんな犬の存在に癒され、
体を撫でれば心温まり、
「ありがとう」と犬に自然と感謝してしまう。
犬とはなんて不思議な生きものなんでしょう。
「人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。こんな動物は他にはいない。」
犬と暮らしたことのある人は、
きっと同じことを感じると思いますが、
犬は何でもわかっているようなのです。
飼い主の喜びも悲しみも苦悩も何もかも。
そして、黙ってただそこにいてくれる、
そのけな気さに私たち人間は
心を打たれるのでしょうね。
思わず抱きしめます。
犬はただただそれを受け止めてくれます。
従順にやさしく、愛情深く。
犬はいつも飼い主である人間を信頼し、
守ってくれるのです、無償で。
飼っていると、
ごはんや水を与え、シャンプーを施し、
寝床を整え、散歩に連れていき、
犬を世話していることで
大きな気になってしまいますが、
本当は逆なのです。
それだけのことで、
逆に犬からどれだけのもの
をもらっているか
日々の生活に追われて気づかなくなって
しまっていることを反省し、
愛犬に改めて心から「ありがとう」
と言いました。
馳星周『少年と犬』犬を愛するからこそ書ける物語
馳さんはとても男っぽい文章を書かれます。
内容も男っぽいです。
そんな馳さんが描く犬は、
気高さと強さに満ちています。
悲惨な目にも遭います。
それでも誇り高く生きる犬。
とにかくかっこいいです。
愛犬家でもあり、犬のことを熟知する馳さんの、
犬への愛情と尊敬と感謝の気持ちが、
ここに描かれている犬の態度や姿に
如実に表現されています。
そしてこの作品では、
犬の持つ不思議な能力や計り知れない才知も
描かれています。
犬は素晴らしい動物です。
物語は6つが別々のものとして展開しますが、
1匹の犬によって一つにつながる設定。
最終章では謎が解けそうなあたりから
一気読みでした。
登場する人間たちはみな、
それぞれの苦悩と闘って生きています。
ですがこの犬に関わった人たちは
みな心優しいことに、
読んでいてほっとします。
犬は飼い主を100%信頼しています。
犬を愛する馳さんだからこそ描ける犬と人間の絆。
犬好きの皆さんはもちろん、
そうでない皆さんにも、
ぜひ手に取っていただいて、
犬の素晴らしさを感じていただきたい。
そんなふうに思える1冊です。
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