【書評】垣根涼介『信長の原理』文庫化(角川)!あらすじと感想・直木賞候補作品

 

今回ご紹介する一冊は、

垣根 涼介(かきね りょうすけ)

『信長の原理』です。

 

織田信長の幼少期から

最期を迎える本能寺の変まで、

信長の思考や心情など、

いわゆる信長を形成している

「原理」にフォーカスして

ストーリーが展開していく

新感覚の歴史小説です。

 

幼少時代に発見した蟻の奇妙な

法則をずっと忘れることなく、

天下統一を目指す立場になっても

自分の家臣にその法則を

当てはめるという作者の

アイディアが、

実にシンプルで面白く、

作者の魅力を一層引き出すもの

となっています。

 

その蟻の法則を紹介すると

「餌を巣に運ぶ蟻で、真面目に働くのは全体の二割、漫然と働いているのが六割、やる気のないのが二割。つまり、二・六・二の割合であり、この割合
は何度確認しても変わることはない。」

 

というものです。

信長はこの法則が人間にも

当てはまることに気づき、

戦国の世でもこの法則を

基に様々な事象を検証

していくのです。

 

これだけでも独自の視点での

ストーリーで興味を

そそられるのですが、

さらに信長や明智光秀など

登場人物の感情や葛藤など

本当にそう感じていたのでは

ないかと想像できるほどの

描写がいくつも登場し、

 

それもまたその人物に感情移入

できるきっかけを与えてくれて、

歴史を知る、そして歴史を

好きになるきっかけを

与えてくれます。

 

私自身が特に印象的だった描写を

いくつかご紹介していきたい

と思います。

 

 

 

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垣根涼介『信長の原理』 神の存在

 

信長の渇望と、家臣たちの焦燥。信長の内面を抉る、革新的歴史小説!

「垣根涼介の時代小説こそ
真に『独創的』という言葉がふさわしい。」
――恩田陸氏

何故おれは、裏切られ続けて死にゆくのか――。
斯界の絶賛を受けた歴史長編、ついに文庫化!

織田信長は、幼少時から孤独と、満たされぬ怒りを抱えていた。
家督を継ぎ、戦に明け暮れていた信長はある日、奇妙な法則に気づく。
どんなに鍛え上げた兵団でも、働きが鈍る者が必ず出る。その比率は、幼い頃に見た蟻と同じだ。人間も、蟻と同じなのか……と。
信長は周囲の愚かさに苛立ちながらも、軍事・経済の両面で戦国の常識を次々と打破。怒濤の血戦を制してゆく。
不変の“法則”と史実が融合した革新的エンタテインメント!

 

 

おれたち人間の性懲りのなさ、ある意味での救いようのなさは、自分たちの存在に本来は何の意味もなく、この世に自分が生まれてきたことに何の理由も必然もないことに、薄々どこかで気づいてしまっているということだ。石ころと同じようなものだ。(中略)しかし、その不安や寄る辺の無さ、
存在の無意味さに耐えられない。(中略)やはり神などは存在すべくもない。あくまでも人の心の一時の安らぎの方便として、存在するだけだ。

 

神の存在について

信長が突き詰めて考えた結果

の引用です。

 

孤高に生きた信長は、

神のみを信じて生きていたと

私自身勝手に考えていたのですが、

神すらも信じず、

自分の存在すらも意味を

見いだせないほどの

孤独だったことに、

さらに驚きを覚えています。

 

その一方で、漠然とした不安を抱えて

いるという部分には、

信長も同じ人間なんだと、

急に親近感が湧きました。

 

この描写を読んだことで、

ますます信長という人物が

好きになりました。

 

 

 

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垣根涼介『信長の原理』 人から愛される

 

…信長は、昔から密かに自覚している。このおれは、人に愛される人間ではない。気性が荒く、癇癪もちで、容赦なく人を罵倒し、時にはその怒りを
抑えきれず家臣を手討ちにする。人としての可愛げも、和を重んじる気持ちも、優しさもない。最悪だ。(中略)それなのに三年前の春、常なら裏切り
の常習犯であるはずの松永は、その利害を平然と度外視して、自分の命を救った。(中略)やはり松永を殺すことは、どうしても気が進まない。

 

信長は一度でも裏切った外部勢力は、

誰であろうと徹底して

潰してきたのですが、

ひとつだけ例外を作って

しまったのです。

それが松永秀久なのです。

 

何度も信長を裏切ってきた過去が

あるのに、

信長を救うような動きをした一度の

出来事が信長の心に残り、

あの冷徹な信長の心を動かしたのです。

 

自分でも自覚しているほどの

人間味の少ない性格であるはずの

信長にもこういった人間らしさが

あることに私はとても

嬉しくなりました。

 

 

 

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垣根涼介『信長の原理』 信長の最期

 

復元する力だ。他の生き物同士の拮抗を、常に均して維持しようとする。ある特定の生き物だけを、この世界に突出させない。それ以前の状態に絶えず
戻そうとする。人もまた、そうだ。優秀で忠実な人間ばかりが存在する状態を、常にこの世から排除しようとする。(中略)だから、敵は光秀であって
も、光秀ではない。(中略)おれは、自ら死を招いたのだ。しかし、仮に天道がそうであれ、このおれにも末期の意地がある。

 

いわゆる本能寺の変と

呼ばれる最期のシーンの

信長の心情を描写したものです。

 

ずっと信じて手をかけてきたはずの

光秀の裏切りであるにも関わらず、

悪いのは光秀ではなく、

世の中の摂理であるから

仕方のないものであると

この状況を受け入れ、

かつ自分にも原因があるという

捉え方をしているところは、

人間・織田信長を尊敬して

しまうほどです。

 

そして本当の最後には

「おれの骨は、誰にも渡さぬ」

と意地を見せるあたりは、

感動すら覚えました。

 

この本によって、

信長の色々な感情の動きが読み取れ、

本当は一番人間らしい人間

だったのではないかと

思ってしまうほどです。

 

 

 

 

 

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