【感想】『十の輪をくぐる(小学館)』秘密とは!?あらすじと書評(辻堂ゆめ著)

 

今回ご紹介する一冊は、

辻堂 ゆめ(つじどう ゆめ)

『十の輪をくぐる』です。

 

著者は1992年生まれ。

2015年、

第13回「このミステリーがすごい!」

大賞優秀賞を受賞し

『いなくなった私へ』

でデビューします。

 

他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』

『あなたのいない記憶』

『悪女の品格』『僕と彼女の左手』

『卒業タイムリミット』

『あの日の交換日記』などがあります。

 

本作は認知症である母、

万津子の介護をしながら

スミダスポーツで働く泰介が主人公です。

 

ある日テレビを見ていた母が呟いた

「私は……東洋の魔女」

「泰介には……秘密」

という一言から

今まで何も知らなかった母の過去

を探っていく物語です。

 

人には誰でも秘密があると思いますが、

万津子が貫いたまっすぐな想いは

厳しく愛情に満ち溢れたものでした。


辻堂ゆめ『十の輪をくぐる』 二つの時代とオリンピック

 

2021年へ!時代を貫く親子三代の物語

スミダスポーツで働く泰介は、認知症を患う80歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校2年生の娘とともに暮らしている。あるとき、万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は・・・・・・東洋の魔女」「泰介には、秘密」と呟いた。泰介は、九州から東京へ出てきた母の過去を何も知らないことに気づく。
51年前――。紡績工場で女工として働いていた万津子は、19歳で三井鉱山の職員と結婚。夫の暴力と子育ての難しさに悩んでいたが、幼い息子が起こしたある事件をきっかけに、家や近隣での居場所を失う。そんな彼女が、故郷を捨て、上京したのはなぜだったのか。
泰介は万津子の部屋で見つけた新聞記事を頼りに、母の「秘密」を探り始める。それは同時に、泰介が日頃感じている「生きづらさ」にもつながっていて――。
1964年と2020年、東京五輪の時代を生きる親子の姿を三代にわたって描いた感動作!前作『あの日の交換日記』が大好評!!いま最も注目を集める若手作家・辻堂ゆめの新境地となる圧巻の大河小説!!

 

この小説は二つの時代が交互に描かれます。

一つは万津子が福岡から名古屋へ出て

紡績工場で働く女工時代から、

結婚後の生活を描く過去の部分。

 

もう一つは泰介が母を介護する

現代の話です。

 

1958年万津子は田舎から名古屋へ出て

女工として紡績工場で働く日々

を送ります。

その後結婚し泰介を育てていきます。

 

オリンピックへと向かう時代ですが、

東京以外の田舎では生活は何も変わらず

ニュースでしかその様子を知ること

ができません。

 

そして2019年泰介は

スミダスポーツという会社で、

自分に不向きな仕事を定年までするだけ

の毎日を過ごしています。

 

万津子の介護は煩わしく、

泰介の心ない態度で妻の由佳子とも

ぎくしゃくしています。

 

娘の萌子は高校二年生でスカウトの声も

かかるほどバレーボールが上手く、

泰介は自分も万津子から仕込まれたのに

芽が出ずやりきれない思いを抱いています。

 

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辻堂ゆめ『十の輪をくぐる』 万津子の愛情と、泰介の心情変化

 

子供の頃の泰介はとにかくやんちゃで

手がかかります。

 

友達とはすぐにケンカになり

家でも暴れ回るため、

周りの人間はみんな厄介者として扱います。

 

そんな泰介を万津子も叱り、

しつけようとしますがまったく

言うことを聞きません。

 

子育てに何度もくじけそうになりながらも、

泰介を守り根気強く前に進んでいきます。

 

その姿はまさに「無償の愛」そのものです。

 

現代での泰介は初め万津子の介護を

面倒に感じていました。

昔の厳しく強かった母と今のギャップ

に嘆息します。

 

妻にも八つ当たりをして、

常にイライラしながら生きています。

しかし認知症の母が時折発する言葉

から少しずつ過去が明らかになっていきます。

 

そして娘の萌子から指摘されたあることが

きっかけで自分を見つめ直し

変化していきます。

 

大切な人に注ぐ愛情には

力が込められています。

みんな誰かを想う気持ちがあります。

そして愛する人に注ぐ気持ちが

自分自身を強くしていきます。

 

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辻堂ゆめ『十の輪をくぐる』 バレーボールが繋ぐ心の絆

 

昔の東京オリンピックの試合や、

萌子の春高バレーの様子が臨場感

いっぱいに描かれます。

 

この物語の人物はバレーボールで

繋がっています。

万津子は厳しい女工時代に

バレーをしているときが

何よりも幸せでした。

 

母親になりやんちゃな泰介にも

バレーボールを教えると、

純粋な心でひたむきに

ボールを追いかけます。

 

大人になった泰介は母の教えもあり、

大学までプレーを続けますが

芽が出ずに辞めてしまいます。

 

そして自分のふがいなさを

引きずっています。

しかし、バレーを通して

妻の由佳子と出会い萌子を授かります。

 

そんな萌子もまたバレーボールが

大好きで将来は選手となりオリンピック

に出たいと思っています。

 

それぞれの想いがバレーボールとともに

繋がります。

 

万津子が泰介を想う気持ち、

それに遅まきながら気づき感謝する

泰介の心の変化が丁寧に描かれます。

 

二つの時代を巡り、

母と息子それぞれの視点という構成が

物語に厚みと深い余韻を与えます。

 

すべてが繋がるラストには

胸がいっぱいになります。

 

 

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