今回ご紹介する一冊は、
柏井 壽(かしわい ひさし)著
『鴨川食堂もてなし』
です。
作者「柏井壽」氏は生粋の京都生まれです。
生粋の京都人であることを生かして、
エッセイや小説などを歯科医院を営むかたわら
執筆しています。
他には雑誌やテレビなどで京都特集の
監修なども務めています。
柏木圭一郎のペンネームでも小説家として
活躍しており
『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ、
『建築学者・京極要平の事件簿』シリーズなどがあり
『名探偵・星井裕の事件簿』は
『美食家カメラマン・星井裕の事件簿』
としてテレビドラマ化されています。
本書の『鴨川食堂』もシリーズ化されており、
テレビドラマ化もされていますので、
知っている方も多いと思います。
流石、生粋の京都人として活躍しているだけあって
会話は京都の言葉で書かれていて料理
とともに京都らしさがちりばめられた
内容となっています。
目次
京都と料理と謎解きと
京都にある看板のない食堂には、思い出の料理を捜し求め、悩める人々が数多く訪れる。食堂の主人・鴨川流と娘のこいしが、今回も温もりあふれる接客と料理でもてなします。
第一話 ビフテキ……認知症の父が交わした約束
第二話 春巻……身勝手で淡い思い出
第三話 チキンライス……おばちゃんに謝りたい
第四話 五目焼きそば……あの頃に戻れたら
第五話 ハムカツ……料理人の原点
第六話 ちらし寿し……親の心子知らず
第7巻となる今作では、流と深い関わりのある
“あの人”との過去も明らかに!?
ますますボリュームアップした料理の数々に癒やされてください。
(2020年6月発行作品)
鴨川食堂シリーズの最新作『鴨川食堂もてなし』は、
鴨川食堂の広告を掲載してくれている
雑誌の編集者が、
鴨川食堂を訪れます。
この鴨川食堂は店主の鴨川流と娘のこいしが営んでいて、
食堂兼探偵事務所があり
探してほしい料理を求めて人々が訪れます。
第一話はビフテキにまつわる話。
編集者の父と一緒に鴨川食堂を訪れます。
認知症が進んだ父に娘が食べさせて
あげたいのは父がテレビで野球を見ながら
つぶやいた「テキ」というものでした。
この編集者の父が食べた「テキ」イコール「ビフテキ」
はどんなものなのか、
どんな思い出があるのか
鴨川食堂の店主と娘は解き明かしていきます。
他には『春巻き』『チキンライス』『五目焼きそば』
『ハムカツ』『ちらし寿司』のまつわる話が
収められています。
店主が依頼の前に作って出す料理の数々が、
依頼者と同じ反応をしてしまうくらいおいしそうで、
今すぐ食べてみたい衝動にかられます。
加えてお酒やお茶もためしてみたくなります。
食への思いや思い出はひとそれぞれに
思い出の料理ときかれて思い出すのは
どのような料理ですか。
お母さんの料理、おばあちゃんの作ってくれたもの、
それとも友達や大切な人と食べた料理でしょうか。
その料理にまつわる思いや、
思い出はどのようなものでしょうか。
この本ではそんな料理にまつわる思い出と
ともにその料理と再会する物語が描かれています。
『ビフテキ』では、認知症の父にまつわる思い出の料理に、
父と亡くなった母が交わした
約束があったことを娘は知ります。
本当かどうかは父と母ふたりが知るだけですが、
今後も認知症が進んでいく父を看ていく娘に、
ほんのりとした光が見えたように
感じるのには不思議です。
『春巻き』では少し身勝手な男性の思い出が語られます。
結末は厳しいものになりましたが
『カステラ』を買うであろう依頼者に、
店主とその娘がしたようにほっと胸を
なでおろしてしまいます。
依頼者の話を聞くのは店主の娘のこいし、
依頼を調査し料理を再現するのは店主なのですが、
まだ若々しい娘こいしの瑞々しい感情や、
どこかつかめない飄々とした店主と
娘のちらりと見える関係も気になるところです。
再会した料理が背中を後押しする
人にはその時には気づかず今になって後悔
してしてしまうことがあるかもしれません。
『五目焼きそば』は無くなってしまった
ご主人に対して後悔の思いを持つ奥さんのお話です。
このお話を読んでいつもの日常がいかに大切なことか
を気づかされます。
何気ないひとことが、
行動が先々後悔につながるかもしれない、
大切な人への後悔の思い出になるかもしれない
と思いました。
その奥さんへ依頼された料理の再現をし、
その料理にまつわることを語り、
前に向く勇気を持てるように後押しする店主に、
ほっこりとじんわり暖かい何かをもらったような
思いにしてもらえます。
人と食は切っても切れないものです。
その分その食にまつわる出来事も
たくさん出てきます。
鴨川食堂は、鴨川食堂の店主と娘は、
その食にまつわる思いに、
少しだけほんのりとした光を
導き出してくれるのかもしれません。
京都を訪れたことがある人はその情景を、
食べたことがある人はその味を思い出しながら、
おいしそうな料理とほっこりした暖かさを
この本で感じてみてはいかがでしょうか。
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