米澤穂信『本と鍵の季節』あらすじと感想!【このミス2020年第9位】「青春はほんのりビター」

 

作者の米澤穂信さんは「氷菓」などの

古典部シリーズで知られるミステリー作家です。

第27山本周五郎賞を受賞したほか、

これまでに2回、直木賞候補に選ばれています。

「氷菓」はアニメ化や映画化もされ、

話題になりました。

他にも「インシテミル」や「満願」などの

作品が映像化されています。

今回取り上げる作品の

「本と鍵の季節」は、

図書委員の男子高校生2人を

主人公とした青春ミステリーです。

作者の2年ぶりの新刊として刊行されました。

「このミステリーがすごい!2020年版」では、

第9位に選ばれています。

 

米澤さんの描く青春小説は、

爽やかでありながらほろ苦い余韻を

残すところが特色であり、魅力でもあります。

「本と鍵の季節」では、

主人公2人が「日常の謎」を推理し、

解き明かしながら、成長していきます。

 

 

 

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助け合いながら謎を解く

 

堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!

 

 

「本と鍵の季節」の主人公は、

高校2年生の堀川と松倉です。

この2人が様々な謎を推理していくのですが、

どちらが探偵、

どちらが助手と決まっているわけではありません。

一番最初に収録されている

「913」では、

図書委員の先輩である女子生徒が

頼みごとを持ち込みます。

内容は、開かずの金庫を開けてほしいというものでした。

先輩の祖父が亡くなり、

その金庫を開けられる人が誰もいなくなってしまったのです。

先輩は、2人が以前ちょっとした暗号を

解いたことを覚えていて、頼みに来たのでした。

2人は日を改めて、先輩の家に行くことになります。

金庫が開いたら、中身によっては

アルバイト代も出すという先輩。

はたして、その中身は……。

頼られてまんざらでもない堀川と、

何か裏がありそうだと睨む松倉。

性格が対照的な2人は、

謎を持ち込まれたときの反応も対照的です。

ミステリー小説では探偵役と助手役が

きっちりと分かれている場合がほとんどですが、

この作品では役割が流動的なところが面白いです。

高校生の2人は未熟な部分も多いので、

1人では依頼人の事情を汲みとれなかったり、

大事なことを見落としたりします。

互いを補い合いながら推理を進めていくのです。

 

 

 

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ほろ苦い青春

 

ほろ苦い青春は、

米澤穂信作品の醍醐味です。

謎を解くごとに、

友人や依頼人の知らなかった一面が覗き、

読者である私たちもドキリとしたり、

身につまされたりします。

謎を持ち込む相手は、

堀川たちにすべてを話すわけではありません。

言いたくない事情や、

できれば秘密にしておきたいこともあります。

「ない本」では、

自殺した3年生・香田にまつわる謎が持ちこまれます。

香田の同級生が

「香田が最後に読んでいた本を知りたい」

というのです。

図書館や図書室では、

利用者が借りた本を第三者に教えてはいけない

という決まりがあります。

2人は依頼人の生徒に質問しながら、

該当する本を探そうとするのですが、

辻褄の合わないことがいくつも出てきて……。

謎を解くことは、

相手の秘密や知られたくない部分まで

暴くことにもつながるのです。

その過程をごまかさずに書くことで、

登場人物たちの葛藤が鮮やかに浮かび上がります。

青春ミステリーの枠を超えて、

読者の心に響く作品となっています。

 

 

 

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松倉と堀川の友情

 

ミステリーなので、

謎解きが大きな要素になるのは当たり前なのですが、

高校生の友情譚として読めるのもこの作品のいいところです。

「ロックオンロッカー」では、

堀川と松倉は連れ立って美容院に行くことになります。

松倉が通っている床屋がしばらく店を閉めており、

堀川が紹介の割引券を持っていたのでした。

しかし、割引の条件は「友人と本人が同行すること」でした。

同じ委員会に属し、

よく話す間柄でありながら、

一緒に美容院に行くのは「なんか違う」と思っている

2人のやりとりがクスッと笑えます。

 

 松倉はもちろん、彫りの深い顔にいつもの皮肉な笑みを浮かべて、

「行かなきゃいけないわけじゃない」
と反論した。
「四割引を諦めればいいだけだ。お前の割引券なんだから選択権はお前にある。俺としては、どうか思いとどまってくれと祈るだけだ。今月厳しいんだよ」
「四割は惜しいな。考え方を変えよう。二人で行った場合の値段が正価で、一人で行くと割増料金を取られると考えるんだ」
(米澤穂信『本と鍵の季節』「ロックオンロッカー」集英社)

 

そんなやりとりを経て、

2人は美容院へ向かいます。

しかし、この日は何かが不自然で……。

堀川と松倉の軽妙なやりとりを

追いかけるのも楽しい

青春ミステリー小説です。

 

 

 

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