村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』あらすじと感想!世代固有に背負う物がある

 

今回ご紹介する一冊は、

村上 春樹 著

『猫を棄てる 父親について語るとき』

です。

村上春樹さんといえば、

日本では誰もが知っている作家の一人ですね。

ノーベル文学賞の候補にたびたび選ばれており、

日本のみならず世界へと活躍の場を

広げておられます。

壮大なストーリーを生み出し

数多くのファンをもつ村上さんは、

〝だれにでも読みやすい文章を書く〟こと

を心がけているそうです。

今回ご紹介する

『猫を棄てる 父親について語るとき』も、

そんな村上さんの読み手に向けた

優しさを感じる、

明瞭かつ柔らかい雰囲気の言葉で綴られています。

作品は昭和30年代の幼少期のできごとからスタートし、

父との思い出や、父が経験した戦争の話、

父との関係から抱いた想いなど、

村上さんの視点からみた「父」の姿が

記されています。

村上さんの幼少期の話を読むのは、

とても新鮮な感覚ですよね。

ファンのかたには見逃せない

1冊だと思いますし、

この本をきっかけに、

村上春樹という作家のことを、

もっと知ってみたいと感じるかたも

増えるのではないかと思います。

 

 

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いつも猫がそばにいる

 

時が忘れさせるものがあり、そして時が呼び起こすものがある

ある夏の日、僕は父親と一緒に猫を海岸に棄てに行った。歴史は過去のものではない。このことはいつか書かなくてはと、長いあいだ思っていた―――村上文学のあるルーツ

 

作品は父とともに飼い猫を

棄てにいったという、

ショッキングなできごとからスタートします。

猫と暮らす私にとっては

「猫を棄てる」なんて信じられないことなので、

タイトルを見て、これは読まなくては!と思い手に取りました。

単純に「猫を棄てる=ひどいこと」といった印象ですが、

父と子の関係を語るうえで、

重要なできごとのひとつとなっています。

棄てた猫がどうなったかは、

ぜひ作品を読んでみていただきたいです。

おどろきの結果がまっています。

タイトルは衝撃的ですが、

本の装丁がとても美しく、

カバーや作品の途中に、

村上さんの幼少期を思わせるイラスト

が登場します。

鉛筆で描かれたような繊細な線のイラストに、

主張しすぎない淡い色がつけられており、

日常の、ほのぼのとした雰囲気を醸し出しています。

そこには猫の姿もたくさん描かれています。

少年のそばに、いつも寄り添う猫。

「猫を棄てる」そのタイトルは、

身近にいる当たりまえの存在との

別れを意味しているのかもしれません。

父と子にいつかは訪れる別れを

表現しているようで、

すこし寂しい気持ちになりました。

 

 

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平凡という幸せ

 

村上さんは、作品の中で自身をしきりに

「平凡」と伝えたがっています。

父親の戦争体験という過酷な現実と、

終戦後の穏やかな時代で育った自分を

比較しているのでしょう。

父からほんの少しだけ語られた、

戦争さなかの体験話は、

読んでいて非常に胸が締めつけられました。

人は、経験したつらいことを、

気づかぬうちにずっとひきずっている。

行動、考え方、他人から見ると儀式的に

うつる毎日のルーティーンなど、

その人なりに経験したことが影響している

のだと思います。

みんな何かを背負って生きている

のかもしれません。

そのなかでも戦争体験は、

当事者となった人々に大きな傷を

残したのだと強く感じました。

私たちの平和の中に

過酷な時代を生き抜いた人が

つくった道があることを、

改めて教えていただきました。

 

 

 

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「父」について考えてみる

 

作品の中にみる父と子の関係は、

現代とは時代背景や考え方も異なるので、

私たちの親子関係とは重ならない部分もあります。

戦争を体験した親が現在そばにいる人は、

もう、ほんの一握りです。

作中にこのような一文があります。

――おそらく僕らはみんな、それぞれの世代の空気を吸い込み、
その固有の重力を背負って生きていくしかないのだろう――

 

この言葉は、

私自身が最近感じていたことでもありました。

自分より下の世代の人が増え、

自分との感覚のズレを感じることもあります。

でも、それぞれがみな、

自分の生きる時代の中で、

懸命に考え生きているのだと思います。

父と子ほど世代に差があると、

ズレはさらに大きくなるでしょう。

どこまで尊重し、受け入れるか。

いつの時代も、100組いれば100通りの、

父と子の物語があると思います。

村上春樹という偉大な作家も、

誰もが感じる父と子の葛藤

経験してきたのだと、

この作品で教えていただきました。

過去に何か一つでも狂いが生じれば、

存在すらしなかったかもしれない自分。

父の辿った道を探ることで、

その中に自分の道に繋がるものを

見つけられるかもしれない。

「父」の存在について考えるきっかけを、

さりげなく与えてくれる1冊でした。

 

 

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