歌野晶午『明日なき暴走』小説あらすじと感想!(ディレクターズ・カット改題)

 

今回ご紹介する一冊は、

歌野 晶午(うたの しょうご)

『明日なき暴走』

です。

 

本書の著者である歌野晶午は

本格ミステリー作家の

島田荘司を師と仰ぎ、

同氏の新人発掘に値する

実力の持ち主です。

 

代表作である

『葉桜の季節に君を想うということ』

で初めて歌野ワールドに

触れましたが

圧倒的にやられました。

 

ロジックが邪道との見解も

ありましたが時間、

視覚認識ができない作品の中

でそれをいってしまったら…

というくらい確立された

ジャンルであります。

 

島田荘司とは色が違うミステリー

であるところに名探偵が

登場しないという特徴がありますが

今回はあえて登場人物にも

目を向けて紹介したいと思います。

 

どのような仕掛けがあるか

楽しみにして読んだので

是非そこも意識して

触れていただけたら嬉しいです。

 

 

 

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歌野晶午『明日なき暴走』 あらすじ

 

 

じつはディレクター長谷見のヤラセだったTV人気企画「明日なき暴走」内の若者たちの無軌道な行動。それを知らぬ若いネクラ美容師が若者たちと交錯し殺人鬼に変貌、凶行を重ねる。長谷見は視聴率アップを狙い暴走の末、職務停止に。だが彼は警察の裏をかき殺人鬼にコンタクト、なお映像に収めたい……。大どんでん返しに読者は戦慄し言葉を失う!
(『ディレクターズ・カット』改題)

 

 

圧倒的物量と資産にものを言わせる

テレビと

速さとリアルと数で勝負する

ネットのメディア

 

二大巨頭のはざまで

葛藤し翻弄され

追いやられそうになる

ディレクターのヤラセ企画から

派生して生まれた

被害者と孤独な殺戮者

 

それぞれの野心と渇望からの

離脱への道のりがもたらすものとは。。

 

 

 

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歌野晶午『明日なき暴走』 それぞれの登場人物

 

長谷見潤也

 

テレビの制作下請け会社のディレクター

ヤラセネタで名を馳せるも

本人も認めるところの

二流業界人である。

テレビ界を望み憧れながらも

徐々にその世界に楔を打つべく

様々な仕込みをする野心家。

 

長谷見の様な人間は

たくさんいるようで

そんなにいないものです。

 

この位の年齢になると

秩序や常識を重んじた方が楽で

羨望よりも諦めに似た

保守的感情が勝るからと

考えるからです。

 

虎太郎への対処が

それを物語っています。

何より体型が思っていたのと

途中から全く違うということが

わかって驚きました。

 

 

楠木虎太郎

 

長谷見のヤラセ企画を

仕込む若者の一人

どうしたらほどけるだろう?

絡みまくったゴミ屑は

ねじくれまくって

元に戻すには

極限的な忍耐力を要するくらい

の屑っぷりです。

 

川島輪生

 

美容師を目指す、

環境に恵まれないネガティブな青年

 

勤め先の先輩同僚からつけられた

リンネというあだ名が

まさに彼の人生を物語っている。

 

何より悲劇なのは母親の急な変貌です。

疲れてしまったのかなと

思いますが一度怠けると

楽な方に流れていきがちです。

 

それでも自分の子供には

それはないかなと思うのは

儚い夢や理想なのでしょうか。

 

 

起田柳児

 

長谷見の同僚で

同じような野心を持っている

登場した時からちゃんと

女性だとされているのに

どうしても男性的なイメージで

読んでしまいました。

 

そのへんも狙っているとしたら

簡単に術中にはまる読者ですね私は。

 

女性なのに今時っぽくない

印象なのは

現実的でプロだったからだと思います。

 

 

 

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歌野晶午『明日なき暴走』 読後感想

 

本著は『ディレクターズ・カット』という

歌野晶午の作品を改題して

文庫化されました。

 

内容的には差がありませんが、

一般的にはディレクターが改めて

編集したものとされます。

 

『明日なき暴走』は長谷見が

プロのディレクターとして

リンネ事件を編集しようとした

遍歴だと理解しました。

 

ちなみに『明日なき暴走』とは

本作中で長谷見が制作した

ヤラセ番組コーナーのタイトルです。

 

憧れの職業であるYouTuber、

画像映像動画をともなった

SNSから今やプロでなく簡単に

表現の自由意思が満たされています。

 

それだけに注意しなくては

ならないことも

仕手も受け手もふえました。

 

最近思うのはこの世界に

存在する人の是非を

受け手が判断している

ということです。

 

そしてそれは簡単に翻り、

また時間によっても

常識さえ覆ることがあります。

 

明日なき暴走は上質なミステリー作品

であると同時に

この問題を個人単位で

切り込んだ作品だと思うのです。

 

個人単位といえば

本作品の登場人物は誰一人

共感できないばかりか

嫌悪される人間の代表のように

評されていますが

それも歌野ワールドの術中に

はまっているのでは

ないかと思いました。

 

またテレビがシャットダウンするかの

ようなページも印象的でした。

 

 

 

 

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