今回ご紹介する一冊は、
ドン・ウィンズロウ 著
『壊れた世界の者たちよ』
です。
著者のドン・ウィンズロウは、
ニューヨーク出身。
数々の賞を受賞し高い評価を
受ける世界的ベストセラー作家です。
私立探偵、テロ対策トレーナー、
法律事務所のコンサルタントとして
働いた経験も持ちます。
主な著書には、『ストリート・キッズ』
『犬の力』『ザ・カルテル』
『野蛮なやつら』『ザ・ボーダー』
など多数あります。
著者の作品は分厚い長編が
多いのですが、
今作は一つの物語が
百ページ少々の中編で、
六作品収められています。
表題作と最後の作品は骨太で
著者から読者への熱い問いかけ
が感じられます。
作家や俳優に献辞が捧らているもの、
コミカルで楽しい作品と内容も濃く、
読み応えも十分です。
過去のウィンズロウ作品に
登場した人物が出てきたりと
長年のファンにはもちろん、
著者の作品を初めて
手に取る方にもおすすめの一冊です。
目次
ドン・ウィンズロウ『壊れた世界の者たちよ』 壊れた世界の者たちよ
『このミステリーはすごい!』2020年度(宝島社)第3位『ザ・ボーダー』に並ぶ最高傑作!
復讐、正義、野望、喪失、裏切り、贖罪――
アメリカの「今」を活写した6篇を収録。
【解説】穂井田直美「いま最も偉大な犯罪小説家」が活写する、アメリカの光と陰――
驚愕と感嘆、絶賛の声高し!
「驚き満載の玉手箱。ウィンズロウの多彩さが堪能できる上にテーマも深い」堂場瞬一(作家)
「市井の黙示録のような見事な一冊」田口俊樹(翻訳家)
「正義は最善ではない。本作が残酷で理不尽な物語か、自己犠牲の美談か、それは読者の正義感に委ねられる」丸山ゴンザレス(ジャーナリスト、第6話「ラスト・ライド」)ニューオーリンズ市警最強の麻薬班を率いるジミーは、ある手入れの報復に弟を惨殺され復讐の鬼と化す――。壊れた魂の暴走を描く表題作はじめ、チンパンジーが銃を手に脱走する「サンディエゴ動物園」、保釈中に逃亡したかつてのヒーローを探偵ブーンが追う「サンセット」、映画原作『野蛮なやつら』の幼なじみトリオが引き起こす新たな騒動「パラダイス」など6篇を収録。犯罪小説の巨匠による傑作中篇集!
表題作である物語は、
ニューオーリンズ市警の
特捜部麻薬課の
ジミー・マクナブが主人公です。
麻薬犯罪組織を追う中で、
報復に、
弟で同じく警官のダニーを
組織に惨殺されます。
狂ったように復讐していくジミー。
一人一人を地の果てまで追いかけ、
地獄の底に突き落とす。
凄絶な描写で、
果たしてそこに正義はあるのかと、
読者に問いかけてきます。
「世界は壊れた場所だ。その世界にいかに生を受けようと、人は壊れてその世界を出ていくのだ」
と。
ドン・ウィンズロウ『壊れた世界の者たちよ』 ヒネリが利いた作品
スティーヴ・マックイーンに
捧げられた「犯罪心得一の一」。
この物語はカリフォルニア州の
海岸に沿って走る道、
ハイウェイ101号線が舞台です。
宝石泥棒デーヴィスを、
離婚検討中の
サンディエゴ市警ルー・ルーベスニック
が追いかけます。
101号線を愛してやまない二人。
自分で決めた犯罪心得を大切に
強盗を重ねる犯人と、
それを追う警官の視点が
交互に描かれ軽やかで
スピード感あふれる展開が楽しめます。
三作目は小説家である
エルモア・レナードに捧げられた
「サンディエゴ動物園」です。
なぜか拳銃を手に入れた
チンパンジーを捕まえることになった、
クリス・シェイ巡査の物語です。
ところが失態を犯してしまい、
なんとか名誉挽回するために
銃の出処を突き止めようとします。
動物園に勤務する
キャロリン・ヴォイトとの
ロマンスもあり、愉快な作品です。
ドン・ウィンズロウ『壊れた世界の者たちよ』 ファンには嬉しいキャラクターが登場
レイモンド・チャンドラーに
献辞がある「サンセット」。
最高のサーファーだった
テリー・マダックスは
麻薬常用者となり、
麻薬所持という有罪になります。
そして法廷に姿を見せることなく
逃走します。
保釈保証会社のデュークから
依頼を受けた私立探偵の
ブーン・ダニエルズが行方を追います。
この物語には過去のウィンズロウ作品
に登場した懐かしい人物が
歳を重ねて出てきます。
そして、
五作目「パラダイス」の舞台は
ハワイのカウアイ島。
大麻ビジネスをこの地で行おうとする
『野蛮なやつら』シリーズの
主人公ベンとチョンとOの物語です。
この作品にもおなじみの
キャラクターが多数登場し
ファンにはたまらない一作です。
過去の登場人物を知らなくても
十分楽しめますが、
やはり昔の作品も読んでみてから、
ぜひもう一度
読み返してほしいです。
ドン・ウィンズロウ『壊れた世界の者たちよ』 ラスト・ライド
最後を飾るのは、
国境警備隊で働く
キャル・ストリックランドが、
不法入国者収容所にいたルース
という名の少女を救おうとする物語です。
キャルはメキシコ人が
入ってこれないように
有刺鉄線を張り巡らした
フェンスを警備し、
子供達を親から引き離し
檻にいれていました。
「好きでやっているわけじゃない」
と自分に言い聞かせながら。
ある時、檻の中にいた女の子と
ほんの一瞬眼が合います。
そのとき決意します。
なぜその女の子だったのかは
わかりません。
しかしキャルはメキシコにいる
母親の元に少女を返すため、
法を無視して檻の中から
連れ出します。
そして愛馬ライリーとともに
国境を目指します。
そんなことをすれば何もかも
失うことになります。
同僚のトワイラにも、
「すべての子供を救うことはできない」
と言われます。
キャルはこの「壊れた世界」
を救えるのか。
冒頭の『壊れた世界の者たちよ』とともに、
現代のアメリカが抱える問題
を鋭く描きます。
著者の怒りが伝わり、
読者への問いかけが胸に迫ります。
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