今回ご紹介する一冊は、
道尾 秀介(みちお しゅうすけ)著
『満月の泥枕(どろまくら)』です。
道尾さんといえば、
ミステリー作品や
ホラー作品が印象的です。
これまで様々な本の
ミステリー・ランキング
で常連となっており、
ミステリー関連の文学賞
の選考委員も務めて
いらっしゃいます。
私が初めて読んだ
著者の作品は、
2009年に話題になった
『向日葵の咲かない夏』
でした。
文字だけで表現された
不気味さと、
奇妙な世界観に
どんどん引き込まれ、
衝撃を受けたのを
覚えています。
『満月の泥枕』は、
ミステリーの要素と、
人間同士の繋がりを
描いた温かみを感じる部分
が組み合わさり、
これまでの著者の作品とは
少し違う新鮮な
読みごたえです。
あらすじと見どころを
ご紹介いたします。
目次
道尾秀介『満月の泥枕』 祭りの夜の事件
感動、許容量越え。
人生に悩み迷う時、背中を押してくれる傑作長編。
貧乏アパートのダメ人間たちが、人生賭けて大勝負!姪の汐子と下町で暮らす凸貝二美男は、泥酔した公園で奇妙な光景を目撃する。
白髪の老人、叫び声、水音、歩き去る男。
後日訪ねてきた謎の少年は、二美男が見たのは「自分の伯父が祖父を殺した」現場だと言う。
遺体の捜索を依頼された二美男は、汐子や貧乏アパートの仲間と共にとんでもない事態に巻き込まれていく――。
凸貝二美男(とっかいふみお)は、
夏祭りの日の夜に泥酔し、
祭りの後の公園で
眠ってしまいます。
満月の夜でした。
眠っている二美男の顔を、
見覚えのある老人が
覗き込み、その後、
もう一人別の男の声と、
人が池に落ちたような
水の音が響きました。
暗闇の中男一人が立ち去り、
老人の姿はありません。
もしかしたら、
老人は池に落とされた
のではないか?
二美男は、その老人に
見覚えがありました。
翌日、二美男は仲の良い
交番巡査の剛ノ宮(ごうのみや)
に昨夜見たことを
伝えに行きますが、
「酔っぱらいの見間違えだ」
と笑われてしまいます。
念のため、二人は老人が
生きているか家まで
確かめに行くのですが、
それをきっかけに、
二美男は事件に
巻き込まれていきます。
道尾秀介『満月の泥枕』 二美男の過去
二美男は、
一人娘を亡くしています。
娘が亡くなったのは
自分の不注意のせいだと、
ずっと自分を
責め続けています。
娘の死後、酒に溺れて、
まともに働くことも
できなくなった二美男は、
妻と離婚。
借金取りから逃れるために、
別の町へ夜逃げします。
その日も満月でした。
新しく暮らし始めた町で、
亡くなった兄の娘・汐子(しおこ)
を引き取り、
一緒に暮らすことになります。
汐子はまだ9才なのに、
しっかり者で、
二美男にもズケズケものを
言います。
おまけに大阪出身で関西弁。
東京の町で、一人だけ堂々と
関西弁で話し続ける様子
が頼もしく、
二美男とのやりとりが
微笑ましいです。
二人はお互いに、
亡くなった娘の姿と、
父の姿を重ねているようで、
強い絆を感じます。
二美男は、相変わらずの
酒癖の悪さなのですが、
つらいことから気を
紛らわすために
酔っているのが、
とても切ないです。
普段は陽気な男を装って
無理に笑っています。
ダメなところも多いけど、
なぜか憎めない主人公です。
道尾秀介『満月の泥枕』 コーポ池之下の住人
二美男と汐子が暮らす
ボロアパートは、
住人同士がとても仲良しです。
音楽好きの老夫婦、
大家の息子で
フリーターの男、
売れないモノマネ歌手、
うんちく好きの画家など、
それぞれのキャラクターも
クセのある面々です。
二美男の夜逃げを手伝った
業者の菜々子も頻繁に姿を現し、
二美男と汐子の世話を
焼きます。
祭りの日の事件後から、
二美男は老人の孫である
少年からの依頼により、
事件に巻き込まれていきます。
まるで家族のように、
ボロアパートの住人達には、
隠し事ができず、
結局全員が少年と二美男
に力を貸し、
一緒に巻き込まれます。
面倒なことなのに、
みんなが二美男を
放っていけない様子が
とてもおかしく、
自分たちから
巻き込まれている姿が
妙な感動を与えてくれます。
この人間同士の繋がりが、
物語に欠かせない軸
となっています。
道尾秀介『満月の泥枕』 驚愕の真相
老人が池に落ちた事件は、
物語が進むにつれて
思わぬ方向へと
進んでいきます。
犯人だと思っていた人が
犯人ではなかったり、
何人もが嘘をついて
事件の真相を隠していたりと、
予想を何度も裏切られる
展開が待っています。
すべての真相が明らかに
なったとき、
事件に隠された切ない
真実に胸を打たれます。
様々な事情を抱えていて、
自由に笑って生きられない
登場人物たちが、
ほんの少し救われる
ラストになっています。
ところどころ笑いもあり、
温かい気持ちになれる物語を、
ぜひ楽しんでいただきたいです。
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