今回ご紹介する一冊は、
木皿 泉(きざら いずみ) 著
『昨夜(ゆうべ)のカレー、明日のパン』
です。
著者は、実はご夫婦で、
お2人とも脚本家です。
ご主人の和泉努さんと、
奥様の妻鹿年季子(めがときこ)さん
のお2人で、
夫婦脚本家として
活動されております。
2005年に大ヒットしたドラマ
『野ブタ。をプロデュース』
の脚本を手掛けた
人気の脚本家さんです。
『昨夜のカレー、明日のパン』は、
著者の小説デビュー作です。
一見平凡に見える日常だけれど、
みんなそれぞれのドラマがある。
生きることと死ぬことについて、
考えさせてくれる、
読み終えたあとに、
胸にじんわりと残る物語です。
目次
木皿泉『昨夜のカレー、明日のパン』 テツコとギフ
若くして死んだ一樹の嫁と義父は、共に暮らしながらゆるゆるその死を受け入れていく。本屋大賞第2位、ドラマ化された人気夫婦脚本家の言葉が詰まった話題の感動作。書き下ろし短編収録!文庫版解説=重松清。
21才の若さで、
夫の一樹を亡くしたテツコ。
7年経った今も、
一樹の父であるギフと
暮らしています。
平屋建ての古い家での
2人暮らしは、
地味なようだけれど、
穏やかで温かい。
恋人の岩井さんには、
いまだにギフと
暮らしていることを、
ふつうじゃないと
言われてしまうけれど、
テツコはこの暮らしを
変えることができません。
一樹の死は、テツコにとっても、
ギフにとっても
「死」について考える
きっかけをあたえました。
人は、いつだって
「死」に向かって
歩いているということ。
それは、どうにも変えること
ができません。
一樹の死を経験してから、
世の中の人たちが、
今日も明日も人生が続くと
思い込んで生きていることに、
違和感を感じます。
一樹がいなくなった喪失感を抱えて、
テツコは生きて
いかなければならない。
死ぬのが遅いか早いかの違いで、
人は、いつかは必ず死んでしまう。
ちょっと重たい話にも
聞こえますが、
なぜかこの物語からは
「死」について、
怖いことではないと、
感じることができるから
不思議です。
木皿泉『昨夜のカレー、明日のパン』 言葉に呪われ、言葉に救われる
気象予報士のギフは、
言葉が持つ力を信じています。
自分が「今日は雨」と
予報した日は、
必ずギフも傘を持って
出かけます。
たとえ雨が降らなかったとしても、
ギフの言葉を信じて
傘を持ってくれた人のために、
ギフも必ず傘を持つのだとか。
2人の隣家には、
一樹の幼なじみのタカラ
という女性が暮らしています。
タカラは、
客室乗務員をしていましたが、
ある日突然笑うことが
できなくなり、
仕事を辞めました。
上手く笑えず困ったような
タカラの顔から、
2人はタカラを
「ムムム」と名付けます。
仕事を辞めたムムムは、
真っ直ぐに歩く人々の波に、
自分だけ乗れずに
はみ出してしまったような気分
に襲われています。
作中に登場するギフの言葉には、
読み手の私たちも
救われるものが
たくさんあります。
〝自分には、この人間関係しかないとか、この場所しかないとか、この仕事しかないとかそう思い込んでしまったら、
たとえ、ひどい目にあわされても、そこから逃げるという発想を持てない。呪いにかけられたようなものだな。〟
一樹を失ってからの
ギフやテツコは、
人生を客観的に
見つめなおす力を持っています。
真っ直ぐすすんで
立派に見える人たちも、
なにかの呪いに
かかっているだけかもしれません。
それは、本当に、
絶対的な幸せなのだろうか。
この物語の中には、
私たちを救って、
道しるべとなってくれる言葉が、
たくさん溢れています。
木皿泉『昨夜のカレー、明日のパン』 生きることと死ぬこと
人が死んでしまうのは
暗いテーマのように思えますが、
この作品を読んでいると、
「死」について考えるのは、
幸せへの近道かも!
と感じることができました。
みんな「死」へ続く道を
生きているなら、
死ぬまでどんなふうに
生きていたいかを考えればいい。
周りと同じでなくてもいいし、
みんなの列からはみ出ててもいい。
だっていつかは死ぬのに、
好きな生き方を
選べないなんておかしいのです。
生きることと死ぬことについて
時々考えてみると、
人生が豊かに
なるのではないかと、
気づくことができました。
そして、自分の言葉に責任を
持つことも大切です。
なにげなく発した言葉が、
相手に呪いをかけて
しまうかもしれない。
そう思うと、恐ろしいことです。
なかなか止まることの
できない人生で、
ちょっと立ち止まって
考えることも
大切なのだと思います。
登場人物みんなが、
かっこつけたがったり、
ダサかったり、
迷ったりしていて、
とても人間らしい。
面倒なこともあるけど、
人との繋がりっていいなと感じて、
心がほんのり温まりました。
ギフやテツコの今後を
応援したくなり、
とても後を引く物語です。
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