ソン・ウォンピョン『アーモンド(祥伝社)』本屋大賞小説あらすじと感想!感情がない高校生

 

今回ご紹介する一冊は、

ソン・ウォンピョン

『アーモンド』です。

 

2020年本屋大賞・翻訳小説部門

堂々第一位に輝いた

この『アーモンド』は、

韓国で40万部を売り上げ、

さらに13ヶ国もの言語に

翻訳されている感動の名作です。

 

タイトルのアーモンドとは、

耳の後ろから脳にかけての部分

にある「扁桃体」のことで、

誰もがそれを持っているのですが、

 

この作品の主人公はこの扁桃体が

人よりも小さいために、

感情というものがほとんどなく

人の気持ちも感じることの

できない男子高校生。

 

扁桃体の形状が

アーモンドのような形

をしていることから、

このタイトルが付けられています。

 

作者のソン・ウォンピョンさんは

ご自身が出産をされたことで、

子どもへの無償の愛というものを

書いてみたくなり、

この作品を一気に書き上げました。

 

親になって初めてわかったことが、

この作品にはたくさん詰まって

いるそうです。

 

 

 

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ソン・ウォンピョン『アーモンド』あらすじ

ソン・ウォンピョン (著), 矢島暁子 (翻訳)

 

【2020年本屋大賞翻訳小説部門第一位受賞作!】“感情”がわからない少年・ユンジェ。ばあちゃんは、僕を「かわいい怪物」と呼んだ――韓国で30万部突破!「書店員が選ぶ今年の本」(2017)に選ばれた感動のベストセラー小説、ついに上陸! 扁桃体(アーモンド)が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳のユンジェは、目の前で家族が通り魔に襲われたときも、無表情で見つめているだけだった。そんな彼の前に、もう一人の“怪物”が現れて……。「わが子が期待とは全く違う姿に成長したとしても、変わることなく愛情を注げるか」――出産時に芽生えた著者自身の問いをもとに誕生した、喪失と再生、そして成長の物語。

 

幼い頃から

息子の「喜」「怒」「哀」「楽」

の表情が乏しく、

何かおかしいと感じていた母は、

息子ユンジェを病院へと

連れていきます。

 

するとユンジェは、

脳の一部である「扁桃体」

生まれつき人より

小さいことがわかりました。

 

扁桃体というのは

感情を司る部分です。

そのせいで感情がないのだ

という事実を

突きつけられた母は、

自分を責め、泣き崩れましたが、

そこから祖母とともに

壮絶な訓練を始めます。

 

この社会の中で、

いかに普通に目立たずに

生きていくかを

ユンジェに叩き込んだのです。

 

それがユンジェにとって

不幸にならない唯一の方法

だと信じて。

 

しかしその母と祖母は

ユンジェの15歳の誕生日の夜、

ユンジェの目の前で暴漢に襲われ、

祖母は命を落とし、母は植物状態

となってしまいました。

 

そんな現場でさえ

無表情だったユンジェ

周囲の人々は奇怪な目で見、

興味本位に近づいたり

噂を立てたりします。

 

身内を失いたった一人残された

ユンジェは、

高校である人物と出会い

少しずつ変化を

見せ始めていくのでした。

 

 

 

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ソン・ウォンピョン『アーモンド』感情という厄介でもあり素晴らしくもあるもの

 

人と人は感情を共有しあったり、

ぶつけ合ったりしながら

生きています。

 

それが素晴らしいものの

時もありますが、

面倒な時もありますし、

自分自身で手に負えないほど

の時もあります。

その感情というものがほとんどない、

という状態を

想像してみてください。

 

これは不幸なことなのか、

幸せなことなのか・・・。

 

普通という概念を持ち出せば、

きっと普通ではないので、

可哀そうとか生きづらいだろうと

思ってしまうでしょう。

 

だからこそ、

高校でユンジェが出会った

ゴニという子は、

一生懸命ユンジェに

感情というものを

わからせようと頑張った

のだと思います。

 

ゴニは怪物などではありません。

 

不遇な生い立ちが

そうさせているだけで、

あんなに人懐こくて

おせっかいなほどに優しい、

純粋で繊細な子は

なかなかいません。

 

ユンジェが自分とは正反対のゴニに

出会えたことは運命的です。

人は簡単には変わりませんが、

人は人を変える愛と

パワーを持っていること

は間違いないと感じました。

ドラの存在も大きいです。

 

やはり人は人と関わり合うことで

成長するのですね。

 

後半、ゴニやドラと

感情らしいものを

分かち合うユンジェには、

戸惑いも見られますが、

 

その先にきっと、

もっと新しい何かを得ることを

期待したいと思います。

 

 

 

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ソン・ウォンピョン『アーモンド』母の愛を一心に受けて生きる

 

母親の立場として、

もし我が子に

生きづらい特別な何か

があったとしたら、

どうやってそれを取り除いてやるか、

当然のことながら必死になる

に違いありません。

 

ユンジェの母は

それがまた格別でした。

 

幼いころは徹底的に

喜怒哀楽悪愛を教え込み、

といっても、ユンジェには

感情がわからないのですから、

理屈として教えるわけですが、

 

それを土台として

とにかく普通にしていること、

目立たないことを

ユンジェに叩き込みます。

 

「普通」とは、

他の人と同じ顔をして

同じ行動を取ること、

相手が笑えば自分も笑い、

相手が怒れば自分も怒ればよい、

とりあえずはそれで目立たずに、

何事もなく生きていけると。

 

ユンジェも母と祖母には

絶対の信頼を置いていたので、

なにか困ったことがあれば

すぐに相談し、

こういう時はどう答えればいいのか、

どんな顔をすればいいのか

を教えてもらい、

その通りに実行するのでした。

 

大抵のことはそれで

うまくいきました。

 

しかし自分の目の前で

起きた凄惨な事件の後は、

ひとりぼっちになったユンジェに

もういちいち教えてくれる人は

誰もいません。

 

どんな場面に遭遇しても

自分一人で考え、

切り抜けていかなければ

なりませんでした。

 

その時のユンジェの、

人の心の分析力や考察力

素晴らしいです。

 

自然に沸き起こる感情

が乏しいからこそ、

私たちが当たり前としして

おざなりにしている自分や相手の

「気持ち」を深く深く、

 

そして真っ直ぐに考えるわけですが、

その基本となっている

道しるべはすべて母親から

教えられたものでした。

 

植物状態となった母との交流は

できなくなっていましたが、

ユンジェの細胞には

母の愛がぎっしり詰まっている

のを感じ、胸が熱くなります。

 

 

ソン・ウォンピョン (著), 矢島暁子 (翻訳)

 

 

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