辻村深月『朝が来る (文春文庫)』小説感想とあらすじ!映画化も「胸にどすんと来る作品」

 

今回ご紹介する一冊は、

辻村 深月

『朝が来る』です。

 

第13回(2016年)本屋大賞5位

獲得したこちら『朝が来る』は、

最近めざましい活躍を見せる

辻村深月さんによって、

2015年に書かれた社会派長編小説です。

 

不妊治療・特別養子縁組・中学生の

妊娠出産といった重たいテーマに

犯罪までもが絡み、

非常にセンシティブな内容。

 

2016年にはフジテレビ系で

ドラマ化され話題となりましたが、

今年10月23日には、

永作博美さん主演での映画版

公開予定となっております。

永作さんといえば、

角田光代さん原作『八日目の蝉』の

映画版で、

愛人の妻が産んだ赤ちゃんを

誘拐し逃亡する主人公を素晴らしく

熱演されていたことが

大変印象的に思い出されますが、

『朝が来る』も、

子どもをめぐる人生での選択や

葛藤といった胸にどすんとくる物語

ですので、

また迫真の演技を見せてくれることを

楽しみにしています。

 

そしてその前に、

こちらの小説版を一読されることを

オススメします。

一気読み間違いなしです。

 

 

 

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辻村深月『朝が来る』あらすじ

 

長く辛い不妊治療の末、自分たちの子を産めずに特別養子縁組という手段を選んだ夫婦。
中学生で妊娠し、断腸の思いで子供を手放すことになった幼い母。
それぞれの葛藤、人生を丹念に描いた、胸に迫る長編。
第147回直木賞、第15回本屋大賞の受賞作家が到達した新境地。

河瀨直美監督も推薦!
このラストシーンはとてつもなく強いリアリティがある。「解説」より

 

 

独身の男女が社内結婚をし、

二人で生活する中で、

そのうち授かるだろうと

当然のように漠然と思っていた妊娠。

しかし現実はそんな楽観的な思い

とは裏腹でした。

 

ついに不妊治療に踏み切った

佐都子と清和は、

治療の過程で夫の無精子症という現実

を突きつけられます。

それでも頑張って不妊治療を

続ける二人でしたが、

ある段階を経たのち、

特別養子縁組という制度を

知ることになります。

 

望まない妊娠をした女性が

出産した赤ちゃんを、

欲しくても授からない夫婦が

引き取って育てるというこの制度。

その橋渡しをしている

「ベビーバトン」という組織を通じて、

二人の元には待望の赤ちゃんが

やってきました。

 

その赤ちゃんを産んだのは、

まだ中学生の少女でした。

夫婦は赤ちゃんを我が子として、

大切に大切に育てます。

そして6年が過ぎたある日、

自分が赤ちゃんを産んだ

母親・片倉ひかりだと名乗る女性が、

夫婦の自宅を訪れます。

 

「子どもを返してほしい。無理だというのなら、お金が欲しい。そうでなければ、真実をすべてバラす」

 

と脅迫してきたのです。

 

 

 

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辻村深月『朝が来る』夫婦の形、子どもの存在、不妊治療と特別養子縁組

 

夫婦は、結婚して普通に

暮らしていく中で、

いつか妊娠をし、赤ちゃんを出産し、

それを繰り返すことによって

家族が増えていくという形が

一番多いからでしょうか、

誰もが当たり前にそれを信じ、

そうなる道筋を心に描きます。

 

しかし世の中には必ずしも

そうではない夫婦もいて、

子どもがいなくても、

生涯二人で仲睦まじく人生を

全うされる方々もいる一方で、

どうしてもどうしても

子どもが欲しいと熱望し、

不妊治療や養子縁組を

選択される方々もいます。

 

正解も不正解もなく、

その家庭ごとにおける考え方や状況で、

大きな決断を重ねていく

のだと思いますが、

どうしてもというほどの強い

思いからではないものの、

やはり子どもはいた方が

いいのではないかと言う程度の

考えから不妊治療を始め、

それを続けることで

肉体的にも精神的にも尋常でない

負担を強いられた結果、

 

最終的には特別養子縁組という制度

によって子どもを迎え入れるまでの

佐都子と清和の苦悩を見ていると、

妻と夫の性差や立場の違いからくる

気持ちのズレやそれを伝えられない葛藤、

それらが合致した時の喜びなどが

手に取るように感じられ、

 

夫婦としての幸せとは何なのか?

それはどこにあるのか?

といったことを考えずにはいられません。

 

子どもは宝です。

しかしその宝を持ちえなかった夫婦は

不完全形なのか?

不完全を完全にするための

特別養子縁組なのか?

といえば、決してそうではなく、

本書にも書かれているように、

特別養子縁組とは誰の為でもない、

この世に生まれてきた

赤ちゃんの為であるという

その一言に尽きます。

 

知り合うはずもなかった夫婦と

女子中学生は、

ひとりの赤ちゃんによって

繋がりました。

 

 

 

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辻村深月『朝が来る』息をもつかせぬ展開。幼い一つの踏み間違えが人生を飲み込む怖さ

 

避妊をしないと、

それだけでもう人生終わりますよ、

皆さん気を付けましょう!

 

というそんな短絡的な

メッセージではありません。

人生転落のきっかけなど、

誰にでもいくらでも転がっています。

 

ひかりの場合は、

15歳での想定外の妊娠でした。

よくある一般的な家庭に育ち、

普通に親に反抗もし、

大人ぶりたい時期に

大人ぶったことをして

友達より優越感を感じ、

日常の中のささやかなドキドキを

楽しむ普通の女子中学生だったのに、

妊娠と出産を経たことで、

人生が大きく動きます。

 

妊娠と出産といって

一言で片づけてしまえない

15歳でのそれは、

あまりにも特別過ぎました。

 

その過程で芽生えた母性や、

大人ぶりたいだけの世界ではない

実際の大人の女性たちとの関わりや

自立する生活をわずか15歳で

経験したひかりは、

そこから戻った現実の学校生活や

家庭にうんざりして、

完全に心が孤立してしまったのが

本当に不運だったと思います。

 

人よりも際立ちすぎる経験を

してしまったばかりに、

人を頼る甘え方も失い、

両親を含め信用できる大人もなく、

助けも求められず、

いつもいつも孤独に物事を考え、

一人で決めて行動し、

自分だけが追い詰められていく・・・。

 

現実から逃げても逃げても、

逃げれば逃げるほど自らの首を

絞めていくひかり。

思わず手を差し伸べたくもなり、

叱りたくもなり、

どうしようもないもどかしさを

伴いながら、

不運が不運を呼ぶ連鎖から

免れ得ない恐怖に身震いしました。

 

あっけなく妊娠してしまった

ひかりの地獄とは対照的に、

妊娠できなかったがために

ひかりの子どもを引き取って

幸せに暮らしている栗原夫妻の

暮らしぶりとの対比がまた切なすぎます。

 

どうかこの先ひかりが、

かつてのような安心と清潔に

守られて、

「きちんとした」生活が

再構築できることを祈るばかりです。

 

 

 

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