【書評】『バグダードのフランケンシュタイン(集英社)』あらすじレビュー

 

今回ご紹介する一冊は、

アフマド・サアダーウィー

『バグダードのフランケンシュタイン』

です。

 

著者は、イラクの小説家、詩人、脚本家、

ドキュメンタリー映画監督。

 

2009年、39歳以下の優れた

アラビア語の作家39人を選出する

「ベイルート39」に選ばれます。

 

2014年に

『バグダードのフランケンシュタイン』で、

イラクの作家としてはじめて

アラブ小説国際賞を受賞。

 

本書は30か国で版権が取得され、

英語版がブッカー国際賞および

アーサー・C・クラーク賞の

最終候補となります。

 

物語の題材は混乱の続く

イラクバグダードを舞台にした、

現代のフランケンシュタインと凄惨です。

 

しかし中東の異国情緒が

話の隅々まで感じられどこか

幻想的な作品に仕上がっています。

 

『バグダードのフランケンシュタイン』は、

こちらからすぐに読めますよ♪↓


『バグダードのフランケンシュタイン』 あらすじ

アフマド・サアダーウィー (著), 柳谷あゆみ (翻訳)

 

連日自爆テロの続く2005年のバグダード。古物商ハーディーは町で拾ってきた遺体のパーツを縫い繋ぎ、一人分の遺体を作り上げた。しかし翌朝遺体は忽然と消え、代わりに奇怪な殺人事件が次々と起こるようになる。そして恐怖に慄くハーディーのもとへ、ある夜「彼」が現れた。自らの創造主を殺しに……!!

 

本作品は、

2005年イラクバグダードに現れた

フランケンシュタインである

「名無しさん」をめぐる物語です。

 

「フランケンシュタイン」は、

イギリスの作家メアリー・シェリー

の作品です。

 

怪物がフランケンシュタインと思いきや、

怪物自体に名前はなく、

この存在をつくった創造者の名前が

フランケンシュタインです。

 

町には多国籍軍や様々な国内勢力が入り乱れ、

連日爆破テロが起こる、

死と隣り合わせの混沌とした状況です。

 

そんな中、相棒を爆破テロで失った

古物屋を営むハーディーが、

弔いのために爆弾で犠牲になった者

たちの死体の破片を繋ぎ合わせて、

きっかり一人前の遺体をつくります。

 

そこに別の犠牲者である魂が入り込みます。

そして、その遺体のパーツとなった

亡き者たちの復讐をするために

動き出します。

 

この「名も無き者」とともに

バグダードで生きる様々な人々が

繰り広げる群像劇です。

 

イラクの文化、生活習慣とともに

細部までリアルに描かれます。

 

 

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『バグダードのフランケンシュタイン』 多彩な登場人物たち

 

登場人物の名前は複雑ですが、

繰り返し語られるので次第に

頭に入ってきます。

 

その頃には物語の世界に

引き込まれています。

 

爆破テロにいつ吹き飛ばされるか

分からない状況下でも、

それぞれの思いを描きながら

人間臭く生き抜こうとする人々が

丁寧に描かれます。

 

イラク戦争で行方不明になった息子の

帰りを待ち続ける老婆イリ―シュワ―。

 

怪物を創り出した、

ほら吹きの古物屋ハーディー。

 

その話を追うジャーナリスト、

サワーディー。

 

彼が利用するホテルのオーナー、

アンマールと

不動産を経営するブローカー、

ファラジュ。

 

その他にも、怪物の行方を

追跡するマジード准将と、

それを助ける魔術師なども登場し、

読み進めると物語の渦に

飲み込まれていきます。

 

名無しさんが現れたことによって、

それぞれの登場人物たちの生活や心情が

変化するさまが描写され物語が

進行していきます。

 

大きな起伏はないのですが、バ

グダードでの日常と幻想的な雰囲気

が合わさり、

どっぷりと作品世界に浸れます。

 

 

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『バグダードのフランケンシュタイン』 リアルかつ幻想的な物語

 

単行本の帯には、

中東×ディストピア×SF小説とあります。

 

現代のイラクという国が抱える問題を

「名無しさん」という存在に

作者は託します。

 

バグダードの混沌とした世界が

生活習慣や文化といった面から

描かれリアリティもあります。

 

「死」という影が生活に付きまとう中で、

ここで生きていかなければいけない

市井の人々。

 

そんな中から生まれた人々の寄せ集め

である「名無しさん」という存在は、

現代のイラクという国そのもの

だと感じられます。

 

「いったい自分は何者なのか?」

というアイデンティティーに、

登場人物たちは向き合います。

 

ジャーナリストである

マフムード・サワーディーは過酷な状況で、

しかし、「人生は続くのだ」と呟きます。

 

名無しさんも復讐を続ける中で

「完全な形で、純粋に罪なき者はいない。

そして完全なる罪人もいない」

と苦悩します。

 

この自分は何者なのか?

という問いかけは、

そのまま不安定な現代イラク

という国の成り立ちに関わる

大きな問いかけにもなっています。

 

アフマド・サアダーウィー (著), 柳谷あゆみ (翻訳)

 

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