今回ご紹介する一冊は、
佐藤愛子 著
『気がつけば、終着駅』
です。
佐藤愛子は
1923年大阪生まれの小説家です。
69年『戦いすんで日が暮れて』で
第61回直木賞、
2000年には『血脈』が完成し
第48回菊池寛賞を受賞。
最近の著書には、
大ベストセラーとなった
『九十歳。何がめでたい』
などがあります。
本書は、五十年前から今日まで
『婦人公論』にて執筆
されたエッセイです。
五十年前に来る日も来る日も
売れない小説を書いていた時、
三枝佐枝子という
有名女性編集長から
「エッセイを書け」と
言われます。
初めて原稿依頼された作品
「クサンチッペ党宣言」を
含む波瀾万丈人生篇と
題した第一部と、
老いの心境篇の
第二部構成になっています。
連載始めは、
まだ男社会のただ中でした。
そんな中で書く
著者の肩書きは、
いつしか「作家」ではなく
男たちに立ち向かう
「男性評論家」
ということになっていきます。
精神論とか根性論と
いったものではなく、
目の前のことをただひたすらに
乗り越えてきた
著者の生き方が綴られています。
目次
佐藤愛子『気がつけば、終着駅』失敗が自信を生む
離婚を推奨した1960年代、簡単に離婚し別れる2020年。世の中が変われば、考えも変わる。初エッセイから55年。これでおしまい。96歳を迎えた佐藤愛子さん。『婦人公論』への登場も半世紀あまりにおよぶ。初登場の「クサンチッペ党宣言」「再婚自由化時代」から、最新の橋田壽賀子さんとの対談まで、エッセイ、インタビューを織り交ぜて、この世の変化を総ざらい。39歳から今日に至る波瀾万丈の人生を振り返る、選りすぐりの一冊。
第一部に書かれている
『再婚自由化時代』の中で、
離婚や再婚について
なぜ女はつまずきを
怖れるのだろうと問います。
人生のつまずきは、
さらに新しい人生へ
向かう一つの契機
ほかならない。
それ以外につまずきの
持つ意味を
考える必要はない筈である。と、
これは結婚に限らず
どんな「つまずき」に
あったとしても、
怖れずに起き上がって
次に向かうことが
自分自身の成長に
なるということだと思います。
そして、
『三人目の夫を求めます』では
最初の夫と離婚したときに、
ほかに出来ることが
何もなかったから
小説を書き始めます。
このとき著者を動かしたのは、
「こうしていては滅びる」
という危機感です。
無理だとしても
やらねばならない。
力はそのときに出るもの
だと言います。
そうして、再婚して
借金を背負ったときも、
この前に進む力は
さらに強いものになっていきます。
幾度と波瀾を経験すること
で鍛えられ、
失敗しても平気なんだ
という自信をつけてきた姿
に圧倒されます。
佐藤愛子『気がつけば、終着駅』老いの心境篇
第二部では、
85歳を越えたなかで
達した心境が書かれています。
昔は質素倹約は美徳で欲望を
抑えて生きることが
女のたしなみだったけれど、
現代は女性も男性と別なく
欲望に向かって
生きることができます。
便利で合理的、
快適さへの欲望が
文明を進歩させます。
今の人たちは、
この世に生まれてきたのは
「楽しむ」ためである
という思いが強いです。
欲望は際限なくふくらみます。
著者は、
それを忘れて身を委せると
行きつく所に何があるのか?と、
自ら問いかけます。
歳をとれば体も集中力も
衰えてきます。
でもそれが人間の自然な姿です。
この現実をしっかりと
見てどう生きていくか。
それは「欲望を殺いでいくことだ」
という考えに辿りつきます。
欲望をなくし孤独に耐える力を養う
ことです。
この心境は、今はまだわかりません。
けれど自分が歳をとったときに、
きっと心につき刺さる言葉
になると感じました。
そして欲望が涸れていくことは
「らくになること」
なのだと言います。
それと一緒に恨みつらみ、
心配といった情念が
涸れていきます。
それが「安らかな老後」なのだと。
佐藤愛子『気がつけば、終着駅』流されすぎずに強い心で生きる
このエッセイは、
佐藤愛子さんが
生きぬいてきたなかで、
その時々に感じた想いを
率直に綴っています。
冒頭で五十年間の
日本の変わりように驚き、
ご自身も変化してきた
とおっしゃています。
力みながら、
やっぱり私も流されています。
「生きる」とは
そういうことなんです、と。
確かに時代や
自身の状況に合わせて
変化していると思います。
けれど、ただ流されるのではなく
どんなことが起きても
柔軟に対応すること。
著者が生きる上で行っていること
は一貫しています。
たとえ時代や状況が変わっても、
ぶれてはいけない力強い心を
持って進んで行きます。
しかし、そんな著者も
初めは弱かったのです。
「人間は切羽詰まると力が出てくるものなのです。その力は何も私だけにあったものじゃない。すべての人間に与えられているのだから、それを出そうと努力すればいいんです」
という言葉に励まされ、
よし自分も頑張ってみよう
と元気が出ます。
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