今回ご紹介する一冊は、
凪良ゆう 著
『滅びの前のシャングリラ』です。
凪良さんは漫画家を
目指されていたそうで、
作家デビュー当初はBL作品を
中心に執筆活動をしておられました。
2017年に刊行の
『神さまのビオトープ』では、
それまでとは異なる作風で
高い評価を得ました。
2020年に『流浪の月』で
本屋大賞を受賞した快挙は、
まだ記憶に新しいかと思います。
本作『滅びの前のシャングリラ』は、
まずタイトルからとても
惹きつけられる作品ですね。
物語で描かれるのは世界の滅亡です。
突然、抗いようのない自然現象により
生涯の幕を閉じることになって
しまった世界中の人々。
このさきの未来はないとわかったとき、
人々は何を考え、
どのような行動をとるのか。
当たり前のように繰り返す毎日について、
深く考えるきっかけを与えてくれる
作品となっています。
物語の見どころとあらすじを
ご紹介させていただきます。
目次
凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』 生きづらさを抱える4人の物語
「明日死ねたら楽なのにとずっと夢見ていた。
なのに最期の最期になって、もう少し生きてみてもよかったと思っている」一ヶ月後、小惑星が地球に衝突する。滅亡を前に荒廃していく世界の中で「人生をうまく生きられなかった」四人が、最期の時までをどう過ごすのか――。
圧巻のラストに息を呑む。2020年本屋大賞作家が贈る心震わす傑作。
物語は、4人の男女の視点から
順番に展開していきます。
地味でさえない17才の友樹(ゆうき)は、
学校で目立つ集団からパシリにされ、
憂鬱な学校生活を送っています。
いじめっ子たちにからかわれるたび、
友樹は自分に言い聞かせます。
―ぼくは羊の皮をかぶった獣。―
―いつかもこもこのウールを脱いで、荒野をかける獣になる。-
そんな気弱な彼が
「クラスメイトを殺した」と
告白するところから物語は始まります。
この時点から、
すでに不穏な物語の空気が
漂っていますね。
友樹のほかにも、
暴力的な父親の元で育ち、
40代になっても何も無い自分に
無力感を感じるヤクザの信士(しんじ)。
暴力的な恋人の元から、
とある理由により逃げ出してきた静香。
そして、4人目の語り手となる
意外な人物。
それぞれが常に生きづらさを
感じながら、
毎日を当たり前のように
やり過ごしていました。
そこに世界中を揺るがす驚きの
ニュースが舞い込んできます。
凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』 世界中への余命宣告
1ヶ月後に小惑星が地球に衝突する。
世界中で報じられた驚きのニュースが
人々の暮らしを一変させてしまいます。
小惑星の衝突は、世界のどこか一部の
被害で済むような問題ではなく、
人類が滅亡してしまうような
大規模な現象だと言うのです。
自然現象には、
人間は成すすべもありません。
世界中の人間が突然
告げられたしまった
「余命1カ月」の宣告。
そんなとき自分は
どうするだろうかと、
誰しもが物語を読みながら
想像すると思います。
あと1カ月を悔いなく生きるのか、
ヤケになって人を傷つけ
暴力的な生き方に変わってしまうのか。
追い詰められたときに人間が
とるであろう行動が、
物語の中で生々しく描かれています。
設定自体がとても衝撃的ですが、
人間が存在していること自体が
不思議なことでもあるので、
もしかすると、
そんなことも起こりうるのではないか?
と他人事ではなく深く
考えさせられました。
凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』 「死」を前にした人々
今という時間を
どのように生きていくのか。
本作は、まさに「生き方」が
テーマになった作品だと思いました。
日頃から生きづらさを感じていた登場人物も、
いざ「死」を目の前にすると、
生きていることの喜びを
感じたりします。
今まで自分は弱いと思っていたけれど、
心の中に眠っていて
絞り出せなかった勇気が、
突然湧いてくるという
不思議な現象も起こります。
死ぬ間際になって、
思いもよらない幸せが
舞い込んでくることもあれば、
人間の持つ暴力性に愕然と
するような出来事も起こります。
今、当たり前のように過ごしている
時間を本当に大切にできているのか?
と物語を読みながらついつい
自分に問いかけていました。
いつか全員に訪れる「死」が
目の前に理不尽につき付けられたとき、
残酷だけれど、
登場人物たちは自分を見つめ直す
きっかけを与えられていたと思います。
語り手となる4人それぞれの物語が、
やがて繋がっていくところも
作品の見どころです。
実際に起こらなさそうな
「地球滅亡」をテーマにした物語は、
現在のコロナ渦でこれまでの生活を
乱されてしまった私たちの胸に
深く刺さることと思います。
本当に地球は消えて
なくなってしまうのか。
ラストまで目が離せない物語
となっています。
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