小川洋子『密やかな結晶(講談社文庫)』あらすじと感想・考察!【全米図書賞】

 

今回ご紹介する一冊は、

小川洋子 著

『密やかな結晶』です。

 

誰でも、なんだか

思い出せなくなったものや

出来事というのはあると思います。

 

この本は、主人公や、

その周りの人たちから、

記憶狩りをする秘密警察によって、

大事だったはずの記憶が

なくなっていく、というお話です。

 

登場人物たちは、カレンダーや、

オルゴール、ラムネなど、

単純なものすら思い出せず、

初めて見たもののように

感じてしまうようになっていきます。

 

記憶のなくさない人は

どこかに連れていかれたり

するのですが、

どれもパニック状態として

書かれているのではなく、

静かに深刻な事態が進んでいく、

という感じです。

 

メインの登場人物は

とても多いわけではなく、

主人公、おじいさん、

物の記憶をなくさないR氏。

 

主人公は、R氏をかくまうのですが、

R氏には不思議な点が

とても多いことに、

読んでいるうちに気づくでしょう。

 

主人公は小説を書いていますが、

その言葉たちは

どうなっていくのでしょうか。

 

「記憶」や「消滅」と

いうことについて考えているあなたに

おすすめしたい1冊です。

 

 

 

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小川洋子『密やかな結晶』 簡単な言葉の意味やその物自体を忘れてしまう

 

 

『妊娠カレンダー』の芥川賞作家が澄明に描く人間の哀しみ。記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。人は何をなくしたのかさえ思い出せない。何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、言葉を、自分自身を確実に失っていった。有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、現代の消滅、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。(講談社文庫)

 

 

『密やかな結晶』の主人公が

住む島では、

記憶狩りが行われ、

物の意味だけでなく、

言葉も発せなくなってしまいます。

 

毎朝、ひとつずつ、

確実に何かを忘れてしまう

というのは、

現実で考えたら、

とても恐ろしいことですよね。

 

主人公はこれらを

「心の衰弱」と言っていますが、

物語が進むにつれて、

 

人々の記憶と、

物への大事な思いは

なくなっていってしまいます。

 

小説を書く主人公ですら、

淡々と本を燃やして

捨ててしまう場面もあるのです。

 

記憶狩りの秘密警察に

行われているとはいえ、

なぜ人々はあらがわないのでしょうか。

 

抵抗すれば、

大事なものを失わずに済み、

記憶を失うことだって、

ないはずです。

 

淡々と、

記憶がなくなっていくのを

受け入れていく主人公たちへ、

あなたはどんな気分になるでしょうか。

 

またR氏だけが、

物の記憶をなくさず、

おじいさんにオルゴールを渡したり、

主人公にハーモニカや、

ラムネを渡しますが、

 

主人公たちはなんとなく

はっきりとした感情は

わいてきません。

 

なぜ、そうなってしまった

のでしょうか。

とても謎めいていますよね。

 

 

 

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小川洋子『密やかな結晶』 人のようで人でない秘密警察の存在と記憶をなくさないR氏

 

秘密警察は、突然やってきて、

人の記憶を奪っていきます。

 

思い出の品ばかり、

物質的なものを

持っていっているはずなのですが、

 

いつの間にかカレンダーが

なくなったり、

日にちがわからなくなったり、

主人公はだんだん大切な何か

を失っていきます。

 

主人公たちは、秘密警察に

特に抵抗するわけでもないので、

なんとなく感情や気持ちを

手放しているような気がしました。

 

しかし、R氏をかくまって、

守ろうとしている時点で

無気力なわけではない感じもします。

 

また、R氏は物への記憶をなくしません。

 

"R"という文字に秘密が

あるのでしょうか。

それとも、R氏の存在は

なにか特別なものなのでしょうか。

 

もしかしたら、R氏には

記憶を奪われない何かが

あるのでしょうか。

 

登場人物の謎に着目して

読んでみるのもいいかも

しれませんね。

 

 

 

 

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小川洋子『密やかな結晶』 記憶をなくしているのは私たちかもしれない

 

その思い出のものが

大事だったのに、

何も感情がわかないのは、

いまの私たちに似ている

かもしれません。

 

断捨離やミニマルと称して、

ちょっとだけ大事だったものや、

もう使ってないからと、

たくさんの物を捨てていく私たちは、

自分から記憶狩りをしている

と思いませんか。

 

どことなく、物をぞんざいに

扱っているかもしれない私たちと、

この本は似ているような気がしました。

 

主人公たちが、必ずしも物を

適当に扱っていたわけではありません。

 

主人公の母親は、大事にリボンや、

切手、香水などを保存していたのです。

 

現代に生きるわたしたちは、

もしかしたら「無駄」

と言いながら、

必要なものさえも処分している

のではないかと思いました。

 

この小説のメッセージでは

ないかもしれませんが、

物への扱い、という視点で

読んでみると面白い

かもしれません。

 

 

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