横溝正史『花髑髏(はなどくろ)』原作あらすじと感想!【ドラマ探偵由利麟太郎:6/16放送話】

 

由利麟太郎(ゆり りんたろう)

 

かつては警視庁の捜査課長として、

その辣腕を謳われた名探偵でありながら、

おそらくは庁内の政治的軋轢であろうと噂される、

不可解な理由により、

その職を追われ、野に下る。

為に、一時期は発狂を疑われるほどの懊悩を見せ、

その後三年の間、消息を絶つ。

再び世人の前に姿を見せたとき、

その髪は一本残らず見事な白髪に変じていたという。

空白の三年間、彼がどこで何をしていたか、

それを知る者はいない――。

 

ドラマ化も決まって改めて注目を浴びる、

横溝正史氏が産み出した、

もう一人の名探偵・由利麟太郎(由利先生)の

プロフィールを初登場作とされる

『石膏美人』(1936)からまとめてみました。

意外と重い設定だったんですね。

(横溝氏もそう思ったのか、

初出以外ではもっとさらっとした描写になっているようです)

その後、由利先生は警視庁の嘱託として、

また気に入った事件だけを手がける

ホームズ的な私立探偵として活動を始めます。

最後の事件(『蝶々殺人事件』)を除いて独身を通し、

ワトソン役は新聞記者の三津木俊助。

と言っても三津木記者は単独で事件を解決する短編

(『悪魔の家』など)も多い名探偵でもあるので、

「とんまな」ワトソン役とはひと味違うことを、

彼のために弁じておきましょう。

今回は、

2020年6月16日から7月14日まで放送される

吉川晃司さん主演

フジテレビ系ドラマ『探偵・由利麟太郎』

2020年6月16日初回放送

『花髑髏』小説版をご紹介します!

 

 

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『花髑髏』

 

坂口安吾、絶賛! 金田一耕助ものに続く由利先生シリーズ

名探偵由利先生のもとに突然舞い込んだ差し出し人不明の手紙、それは恐ろしい殺人事件の予告だった。指定の場所へ急行した彼は、箱の裂目から鮮血を滴らせた黒塗りの大きな長持を目の当たりにするが……。

 

そんな由利先生の元に奇妙な手紙が届きます。

由利先生に挑戦しているのか、

それとも救いを求めているのか、

それさえ定かでない、

不気味な手紙に添えられた署名は

「花髑髏(はなどくろ)」

指定の場所に赴いた由利先生と

三津木記者が見たものは血を流す長持!

こじ開けられた長持の中には、

有名な精神病の学者・日下瑛造の養女・瑠璃子が

刃物で突き刺された上で、

閉じ込められていました。

まだ息のあった瑠璃子を病院に送った由利先生たちは、

瑛造氏の屋敷へと向かいます。

そこで彼らが見いだしたものは、

無残にも突き殺されていた瑛造氏と「花髑髏」でした。

白い野菊の花がまき散らされた中、

何者かの頭蓋骨標本が瑛造氏の血を注がれて

真っ赤に染まっていたのです。

それが誰の骨かを知ったとき、

瑛造氏の旧友湯浅博士は青ざめます。

その髑髏には、

或る恐ろしい出来事の記憶が秘められていたのです……。

あらすじを記すとこんな感じでしょうか。

今日の精神医学や遺伝学の知識から見ると、

偏見や迷信と呼んで差し支えない描写が、

バカスカ出てくるので、

お話とは関係ないところで

嫌な汗をかいてしまうのは確かです。

それさえ気にしないことにすれば、

戦前の「怪奇探偵小説」らしい、

次から次のイベントに振り回される感じや、

お話が勝手に(?)悲恋ものに収斂して

終ってしまう感じがなかなか楽しい。

筆者の個人の好みでは、

横溝氏の通俗短編の中ではかなり好きな話です。

ドラマの方はあえて、

今作を選んだのでしょう。

どう考えても、

そのまんまで放送はできない原作ですから。

どうアレンジして、どうモディファイするか。

挑戦意欲をそそられたのでしょう。

その気持ち分かる気がします。

何というか、

アレンジ次第で化けそうなお話なんですよ。

ドラマはどうなってるんでしょうね?

 

 

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『白蝋変化』『焙烙の刑』

 

文庫本の表題作は『花髑髏』ですが、

分量的に最大で、

ページの半ば以上を占めているのは

中編『白蝋変化(びゃくろうへんげ)』です。

稀代の女たらしにして大悪党の白蝋三郎が、

探偵役の由利・三津木コンビを差し置いて

主役を張ると言っても過言ではない活劇です。

清純な天使か悪女か、

両極端の女性像しか出てこない印象のある

横溝ミステリには珍しく、

天使のシニカルな一面が描かれることが

ポイントでしょうか。

『焙烙の刑(ほうろくのけい)』

映画のスター男優が、

その又従兄弟の女性の懇願に負けて、

彼女の夫が巻き込まれた、

不気味な事件に自分も引き込まれていくというスリラー。

由利・三津木コンビはラストにちらっと出てきます。

 

 

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パズラーではなくスリラー

 

横溝正史氏は小林信彦氏との対談で、

金田一耕助を誕生させた理由を問われて、

「本当の謎と論理の探偵小説」に

由利先生が「ちょっと向かないと思った」

と答えています。

これが由利先生の退場理由にもなるでしょう。

もっとも他のところで、

金田一耕助ついて述べていること

(たとえば「本陣」にも最初は金田一を

出すつもりはなかったとか)を考えると、

どのくらい信じていいのかは分かりませんが。

対談の同じ文脈で「ちゃんばら探偵小説」という言葉

も横溝氏は使っています。

本作なんかはまさにその

「ちゃんばら探偵小説」でしょう。

そもそも犯人当てでも、

パズラーでもありませんから。

犯人もなんとなく分かるし、

動機も犯行方法も犯人が一方的に

演説してしまうしで、

そこに推理や謎解きの妙味が

入り込む余地さえありません。

じゃあつまらないかというと、

そんなことはない。

波乱に富んだストーリーは、

読者を楽しませることに徹した

サービス精神の賜です。

行き当たりばったりにも思える筋の運びには、

頭を抱えるところもありますが、

パズラー至上主義的に一方的に見下されるのも

違うと思ってしまう。

そんな感じでしょうか。

 

(文中の引用は、

「小林信彦・編『横溝正史読本』角川文庫」から

拝借しています。)

 

 

 

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