湊かなえ『夜行観覧車』小説あらすじと感想!ドラマも小説も面白い!心の闇が浮き彫りに

 

今回ご紹介する一冊は、

湊かなえ

『夜行観覧車』です。

 

湊さんの作品はドラマ化、

映画化されているものが多く、

小説を読んだことがない方でも、

その独特な世界観を一度は目にしたことが

あるのではないでしょうか。

“イヤミス”の女王とも称される湊かなえさん。

イヤミスとは、

読み終わったあとに

“イヤな気分になるミステリー”

という意味です。

果たして夜行観覧車も

イヤミスに当てはまる作品なのでしょうか。

物語の舞台は、

坂の上に位置する高級住宅地・ひばりケ丘。

とある夏の夜に、

幸せを絵にかいたような高橋家の主人・弘幸が、

妻の淳子に殺害されるという

ショッキングな事件が起こります。

殺人事件により、

イメージを変えられてしまった高級住宅地。

事件をきっかけに、

ひばりケ丘に住む人々が持つ心の闇が、

嫌というほど浮き彫りになっていきます。

 

 

 

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湊かなえ『夜行観覧車』全員が主人公

 

高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。遺されたこどもたちは、どのように生きていくのか。その家族と向かいに住む家族の視点から、事件の動機と真相が明らかになる。『告白』の著者が描く、衝撃の「家族」小説。

 

『夜行観覧車』は、

殺人事件が起きた高橋家の向かいの家・遠藤家

での壮絶な家庭内バトルから幕を開けます。

ひばりケ丘に建てたマイホームの

ローン返済のためにパートで働く真弓と、

娘の彩花。

彩花は中学受験に失敗したのをきっかけに、

とてつもない癇癪(かんしゃく)を起こすようになり、

真弓だけでなく父の啓介にも暴言を浴びせます。

物を投げて壊したり、壁を傷つける場面もあり、

ちょっとした反抗期では済まされないレベルです。

物語は主人公一人の目線で語る一人称でははく、

主要な登場人物複数からの目線で

語られる構成となっています。

主に遠藤家、事件の起きた高橋家、

ひばりヶ丘に長年住み着くクセモノ・小島さと子の、

三方向の視点から語られていきます。

遠藤家の場合は、真弓、彩花、啓介の、

それぞれが語り手となる場面があり、

語り手が変わるたびに次から次へと、

家族の平和を揺るがすひずみが顔を出します。

この物語では全員が主人公です。

登場人物たちそれぞれの心の中を、

湊さんは丁寧に描き出し、

家族という狭い集団の輪の中で、

それぞれが感じる苦悩を拾い上げています。

 

 

 

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湊かなえ『夜行観覧車』ゾッとするような表現力

 

湊さんのミステリー作品を読んでいて

いつも感じることがあります。

それは、人が心に傷を負ったり、

不快を感じたときの心情をあらわす表現力

が凄まじいのです。

作中の一場面から紹介させていただきます。

真弓が彩花に買ってあげたタレントのポスターを、

癇癪を起した彩花が引き裂く場面があり、

湊さんは、

このときの真弓の心情をこう表現しています。

 

―その瞬間、真弓のからだは透明なフィルムに包み込まれた。
全身に水糊を掛けられ、それが徐々に固まっていくような……何だろう、この感覚は―

 

すごい表現力だと思いませんか?

読み手の私たちも、

全身に水糊をかけられたような、

嫌な感覚になりますよね。

このような、読み手をゾッとさせる表現が

作品の至る所で登場するのが、

湊さんの作品を読むうえでの楽しみでもあります。

 

 

 

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湊かなえ『夜行観覧車』人間の持つ闇こそがミステリー

 

『夜行観覧車』では、

ミステリー作品にしては珍しく、

初めから事件の犯人が誰なのかが告げられています。

エリート一家の美人妻が、医師の夫を殺害。

高橋家の優秀な子供たちは一晩で人生が

激変してしまいます。

医大生の良幸と、名門校に通う比奈子と慎司は、

突然、事件の加害者と被害者両方の

家族になってしまうのです。

ネットで中傷されるという点も、

現代特有の人間の闇が映し出されています。

遠藤家や高橋家を観察し、

手土産を持参して家に上がり込もうとする

小島さと子に関しては、存在自体が不気味です。

この作品の柱は、犯人捜しや謎解きよりも、

人間の心にある醜い部分ではないかと思います。

人間の持つ闇こそがミステリーなのだと、

嫌というほど感じさせられるのが特徴です。

家族に対しての怒りや、

自分は悪者になりたくないという

自己弁護の気持ちなど、

人間の持つ愚かでどうしようもない部分が、

怖いくらい大胆に描かれています。

家族だからこそ、わかりあえないことに苛立ち、

相手を傷つける言葉をストレートに吐き出す。

それぞれの心の声が、作品にそのまま詰め込まれており、

読んでいてドッと疲れてしまいます。

確かに、これが“イヤミス”なのかもしれません。

しかし登場人物が放つ言葉は、

私たちが日ごろ溜め込んでいる不満

代弁してくれているようにも感じ、

妙にスカッとした気持ちにもなるのです。

感情的でストレートな表現だからこそ、

読み手は物語にひきずりこまれてしまう。

湊かなえさんの小説には、

そういった魅力があります。

そしてただ“イヤミス”なだけでなく、

登場人物たちの良い面も描き出しているところが、

湊さんの作品が多くの人に支持されている理由

ではないかと思います。

ラストが近づくにつれ

『夜行観覧車』のタイトルに込められた意味

もあきらかになり、

登場人物たちのその先にも、

読者なりの答えを見いだせることと思います。

ぜひ『夜行観覧車』を読んで、

湊かなえさんの描くミステリーの世界に、

どっぷりと浸かっていただきたいです。

 

 

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