『三度目の恋(中央公論新社)』感想とあらすじ!川上弘美おすすめ新刊小説

 

今回ご紹介する一冊は、

川上弘美

『三度目の恋』です。

 

芥川賞、紫式部文学賞をはじめ

様々な章を受賞してきた著者、

川上弘美さんの最新作です。

 

平安時代の歌物語『伊勢物語』を

題材にして描かれており、

川上さんのファンだけでなく

歴史好きな方にも

触れてほしい作品です。

 

 

 

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川上弘美『三度目の恋』 歴史小説になぞらえて描かれる、人生をかけた大恋愛

 

すべての女を虜にする魅力的な男、ナーちゃんと結婚したわたし。女性の影が消えない夫との暮らしの一方、わたしは夢のなかで別の女として生きることになる。あるときは江戸吉原の遊女、さらには遙か昔、平安の代の女房として、さまざまな愛を知り……。夢とうつつ、むかしと今のあわいをたゆたい、恋愛の深淵をのぞく傑作長編。

 

 

主人公は幼い頃から

近所に住む男性、

通称ナーちゃんに恋心を抱きます。

 

子供のころの恋心というのは普通、

単なる憧れに終わるのが普通ですが、

主人公は大人になるまで

ナーちゃんへの想いを貫き、

そのまま結婚することになります。

 

ナーちゃんは、

どこか掴みどころのない人でした。

 

誠実で優しくて飾らない性格の

ナーちゃんはお友達として

付き合うにはとても

良い人なのですが、

フワフワしたところがあり

捕まえておかないとどこかへ

行ってしまいそうな人。

 

主人公はそんなナーちゃんの

帰りを待ちながら、

ときどき不安な気持ちになります。

 

そんな主人公には、

仲良しの大人がもう一人いました。

それは小学校のときの

用務員のおにいさんでした。

 

学校を離れた後、

偶然の再会を果たした二人。

主人公はそのおにいさんから、

夢を見る方法を教えてもらいます。

 

主人公はその方法を使って

別世界で別の自分として

過ごします。

 

別の自分という目線で

新しい発見を得たり、

自分の内面と向き合ったり。

 

そうしていくうちに、

うまく認識しきれていなかった

自分のナーちゃんへの気持ちも

明確になっていき、

ナーちゃんという存在を

捉えられるようになって

いくのでした。

 

 

 

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川上弘美『三度目の恋』 夢を通して心情を語る

 

以前に『裏世界旅行』という本の

レビューをしていますが、

こちらの作品と共通するところ

があったように思います。

 

それは、夢という形で

別の世界が描かれていることです。

 

夢の中の自分を

現実の自分が見ることで、

自分という存在を

俯瞰して見ることができ、

新しい自分の感情に

気付くことができる、

というポイントも共通していました。

 

普段、日記を書く習慣がある方などは

分かると思うのですが、

自分の行動や気持ちを振り返って

得られる発見や気付きって

人を成長させるんですよね。

 

どちらの小説でも、

夢の世界の自分を見ることで

主人公はどこか前向きになれたり、

新しい一歩を踏み出す

きっかけになったり、

また今ある幸せに気付けたりしています。

 

主人公が変わっていく様子を

ストーリーとして追いかけられるのが、

意外と楽しいと感じました。

 

ふたつの小説の違いとしては、

『裏世界旅行』はそのときの

本人の本心がそのまま夢の世界として

描かれているのに対し、

本作品は歴史上すでにある

ストーリーに自分を重ねる形で

描かれています。

 

現実とかなり異なる設定や

時代背景の上に描かれるので

その分発見も多く、

また一方では昔も今も

変わらないものに

気付けたりする様子が、

さらに面白いと思いました。

 

 

 

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川上弘美『三度目の恋』 シロでもクロでもなく、グレーな様子が伝わる

 

本作品に出てくる登場人物たち

はみんな

「シロでもなくクロでもなく、グレー」

という部分をどこかしら

持っています。

 

例えばナーちゃんの場合は、

主人公と結婚してからも

他の女性と懇意の関係になること

が普通にあります。

 

それは主人公のことを

嫌いになるわけではなく、

かといって他の女性との関係が

遊びというわけでもありません。

 

浮気はアリでもナシでもなく、

グレーという感じなのです。

 

考えてみれば、

人間は誰しもハッキリとは

割り切れない部分を

持っているように思います。

 

本作品では、

主人公やナーちゃんたちの

「シロでもなくクロでもなく、グレー」

という部分をしっかり描写

することによって、

人間っぽさ、リアリティが

うまく表現できているように

感じました。

 

しかも、様々な制限や制約がある中で

生きることを余儀なくされた

過去の時代の様子を夢という形で

とりあげることによって、

現代ではナシでも過去はアリ

だったことが

「シロでもなくクロでもなく、グレー」

という描写と重なって、

より分かりやすかったように

感じます。

 

しっかりした描写が続くわりに、

作品のラストは唐突に終わります。

 

読み終わってみて、

少し寂しいような気持ちに

なりましたが、

この余韻もまた「良かった」でも

「悪かった」でもなく、

「まあいいかな」という感じに

つながったように思います。

 

 

 

 

 

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