今回ご紹介する一冊は、
青山 繁晴(あおやま しげはる) 著
『わたしは灰猫』です。
2002年3月16日に起稿。
2013年7月4日に初稿完成。
改稿を重ね、
2020年7月25日に最後の脱稿。
起稿から18年と4か月余と、
長い年月をかけて完成した
作者の魂が込められた作品です。
ページ数で言うと198ページと
決してボリュームの大きい物語
ではないものの、
使われている言葉や表現方法が
読み手の相当な読解力や想像力を
求められるものばかりで、
一言一句逃がしたり流したり
することができません。
それ故、読んだ後の疲労感は
ページ数以上のものを感じます。
ただし、その疲労感というのは、
決してネガティブな意味合いではなく、
心地良い達成感と言い換えても
良いかもしれません。
正直なところ、
一度読んだだけでは作者が込めた思いや
現社会への投げかけなどを
すべて理解することは難しいと思います。
非常にハイレベルなスキル
を求められる作品であることは
間違いありません。
だからこそ、「絶対に理解したい」
というチャレンジ欲が湧き、
何度も繰り返し読みたいと思える、
そんな作品です。
青山繁晴『わたしは灰猫』は、
こちらからすぐに読めますよ♪↓
目次
青山繁晴『わたしは灰猫』 咲音(さいん)と灰猫(はいねこ)の出会い
不安の時代に抗する、現代レジスタンス文学の誕生。
エンタメと純文学の融合を実現した物語、
肉体の躍動による命の奇蹟を文章で表現!
未知の感染症によって、これまでにない不安の時代が続いている。人間の命をめぐるその情況に、この物語は新しい鮮やかなカタルシス、新しい生き方を暗示する。
現代レジスタンス文学運動の始まりとも言うべき、運命の一作である。
実に18年4か月もの歳月をかけて熟成させた小説、それは伊達ではないことを感じさせる。
一字一句まで神経が行き渡り、人間から動物、昆虫、そして木々に草、苔までの命をとらえ、その死すべき運命にいかに抗するか、この永遠にして、もっとも根源的なテーマを、〝謎〟を追う緊迫した物語に乗せて追求していく。
筆者は多様にして異色の経歴と活動のなかで、ノンフィクション作家として複数のベストセラーを持ち、今年度の「咢堂ブックオブザイヤー」を受賞している。純文学としてすでに「平成紀」(幻冬舎文庫、親本は2002年発行)を世に出し高い評価を受けた。小説の書き手としては、そこから満を持しての二作目であり、再出発となる。
物語の中心人物である二人は、
「源の原行き」のバスで出会います。
「源の原」というのは、
かつて咲音のお母さんとお父さん、
お祖母ちゃん、そして
咲音が一緒に住んでいた場所です。
そこは、山の中で日本で一番雨が多く、
だからこそ他にはほとんど家がない
ところなのです。
咲音は覚悟を決め、
今は亡き家族の思い出の家を探しに
バスに乗ったものの、
そこで出会った老婆に
「私の家に、来てくれますか」
と意味の分からない突然の誘いを受け、
一緒に老婆の家についていくこと
になるのです。
老婆に連れられてたどり着いたのは、
どこか記憶の中に存在する家でした。
そう、咲音が探し求めていた
思い出の家だったのです。
そして、
89歳の「灰猫」という名前の老婆は、
今この家に住んでいるというのです。
二人は話していくうちにお互いの
素性を知ることになり、
老婆は昔は下の村に住んでいて咲音の家族、
そして咲音のことも知っている
というのです。
運命にも似たこの偶然の出会いが
咲音の今後を大きく変えていく
ことになるのです。
青山繁晴『わたしは灰猫』 水槽を磨く同盟
咲音はなぜか灰猫の水槽を磨くという日課
を手伝うことになるのです。
家にある大きな大きな鉄製の黒い水槽で、
昔は飼っていた牛の沐浴場として使用
していたそうです。
今は牛は一頭もいません。
何のために磨く必要があるのか。
そんな疑問を感じながらも
一生懸命磨く灰猫のお手伝いを始めます。
「牛がいないのに、なぜ洗うんですか」
と咲音が聞くと、
「ほかにすることがないから。わたしなんか、
なんのために生きてるのか、もう、わからへん
から。」と答える灰猫。
加えて、
「咲音さん、ありがとう。
ドウメイができるんかも。」
と嬉しそうに続ける灰猫。
さらにはこの水槽に水を溜めるには
途中で折れてしまっている管を
新しく繋ぐ必要があるというのです。
咲音はまた新しい疑問が湧いてきます。
「牛もいないのに、何のために水槽に水を
溜める必要があるのか。」
その疑問に灰猫は決して
答えようとしません。
謎が深まるばかりのこの水槽、
そして水槽を磨くという行為、
これらをどう想像するかが
この物語の本質を理解する鍵
になっているのは、間違いありません。
青山繁晴『わたしは灰猫』 幻の湖
灰猫との会話の中で咲音は
「何年かに一回出現するという幻の湖」
の存在を知ります。
森の奥の窪地にあり、
雨が降って降って、それがやんで、
静かな日が続いて、草の葉も、
木の高い枝もすっかり乾いたころ
に水が湧き出し、
あっというまに窪地が湖になるのです。
さらにその湧きだす水は、
この世のものではないほど
信じられないくらい澄みわたっている
水だというのです。
その湖は、半日かからずにできて、
4日で消えてしまいます。
なぜ出現するのか、
どうやって水が湧いて引いていくのかも
誰にも分からないといいます。
灰猫は続けます。
そこで泳ぐために水槽で
練習するのだと。
思うとおりに動かない身体。
でも水の中では手も足も、首も指も、
膝も肘も動く。
もともとお母さんのお腹のなかで
動いていたように。
理解できたようでできないような
水槽を磨き、水を溜める理由。
咲音は理解できるかどうかではなく、
灰猫の想いに心を動かされ、
灰猫と一緒に水槽を
磨き続けるのです。
とある日、二人の目の前に現れた幻の湖。
果たして二人はその湖を前にして
どうなっていくのでしょうか。
ぜひこの結末は実際に本を読んで
お楽しみ下さい。
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