フィン・ベル『死んだレモン(東京創元社)』感想とあらすじ!タイトルの意味とは?

 

今回ご紹介する一冊は、

フィン・ベル

『死んだレモン』です。

 

フィン・ベルは酒に溺れ、

さらに事故にあって

車椅子生活を送るようになり、

ニュージーランドの

最南端の町へと引っ越します。

 

そこで気の良い

スポーツマンのタイ、

魅力的な女性美容師の

パトリシア、

セラピストのべティ等、

 

様々な人たちとの繋がり

の中で幸福を

手に入れていくのと平行して、

 

この地で過去に起きて

しまった凄惨な事件について

強い興味を抱いてしまいます。

 

堕落したフィン・ベルは

この地でどのように生き抜き、

どう変わっていくのか。

 

推理サスペンスと

ヒューマンドラマの

綺麗な融合を楽しめる作品

だと思います。

 

それと、少し余談になりますが、

この本の売り文句に

「1ページ目から絶体絶命」

というものがあります。

 

また、

「1ページ目を見ただけで引き込まれた」

というものもあります。

 

私はこういう売り文句を

胡散臭く感じてしまいます。

 

というのも、

1ページ目を奇抜にすること

は簡単だからです。

 

崖から落ちかけていようが、

裸の美女を登場させようが、

簡単にできます。

 

だからこういう売り文句

を見ると、

「他に強く推すことのできる、

奇抜さだけの

中身の無い作品なのかな」

と邪推してしまいます。

 

ですが、この本は違いました。

 

奇抜なスタートから

しっかりとした話の展開をみせて、

小説としての地力で

魅了してくれました。

素敵な本です。

 

 

 

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フィン・ベル『死んだレモン』 べティのカウンセリング

フィン・ベル (著), 安達 眞弓 (翻訳)

 

 

1ページ目から主人公が絶体絶命!
圧倒的サスペンスは怒濤の結末へ――
ニュージーランド発、意外性抜群のミステリ!
ナイオ・マーシュ賞新人賞受賞作

酒を飲んで運転し、自損事故で下半身の自由を失ったフィンは、心機一転、ニュージーランド最南端の町へ引っ越す。住居は人里離れたコテージで、26年前にその家に住んでいた少女が失踪していた。彼女が消えてから6週間後、不気味な三兄弟が住む隣のゾイル家の土地から、骨の一部が発見された。住人は逮捕されたが結局未解決となっていた。ゾイル家の関わりは明らかなのに証拠がない場合、どうすれば? 事件を詳しく調べ始めるフィン。だが5か月後、彼は三兄弟に命を狙われ……。最後の最後まで読者を翻弄するナイオ・マーシュ賞新人賞受賞作。
解説=吉野仁

 

 

上記でも触れた通り、

フィン・ベルは

カウンセリングを受けるのが

適切な境遇といえます。

 

しかしフィン自身は

最初カウンセリングに

乗り気ではありません。

 

出された宿題を行うこともなく、

二回目のカウンセリングに

行くのも億劫に

なっていました。

 

読んでいる自分も、

最初はべティは

カウンセリングを行う人

にありがちな、

人の様々な内面を

見つめようとせずに、

ただ型にはめようとする人

なのかと思いました。

 

しかし、二回目、三回目と

カウンセリングを重ねる毎に、

これらの印象は変わっていきます。

 

特に私にとって

印象深かったのは

蜜蜂を使った実験です。

 

フィンとべティは

蜜蜂の巣の近くに行き、

まずは嫌なことを考え、

次に楽しいことを考えます。

 

すると、嫌なことを考えている

べティの周りには蜜蜂が

寄ってきて、

逆に楽しいことを考えると

離れていきました。

 

これは蜜蜂が人の感情を

読み取ることができるからだと

べティは言います。

 

しかし、フィンは楽しいことを

考えても蜜蜂が寄ってきます。

 

そして、それはなぜかを

フィンに考えさせるという

宿題を出します。

 

他にも様々な宿題を

出していきます。

 

その宿題の意図する所を、

私は感情を自覚させること

だと考えました。

 

フィンに自分の感情を自覚させ、

自分がどうすると楽しいかを

学ばせ、

そうすることで、

終盤の幸せを掴むかそれとも、、、

 

という葛藤が生々しくなって

いるのではないかと思いました。

 

べティのカウンセリングを読むと、

目から鱗が落ちる人も

少なくないと思います。

 

ぜひ読んでみて、

フィンと一緒に宿題を

してみてください。

 

 

 

 

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フィン・ベル『死んだレモン』 猟奇的なゾイル一家

 

この本における大きな存在、

それがゾイル一家です。

 

彼らについて語ると

どうしても猟奇的な内容に

なってしまうため、

苦手な方はこの項目は

飛ばしていただきますよう

お願いいたします。

 

フィンが引っ越してきた

この町には、

過去にある大事件が

起きています。

 

それは、ある少女が

行方不明になり、

そしてその少女の恥骨が

発見されるというものです。

 

しかも、恥骨には

豚の精液がかかっており、

さらに生きたまま

剥がされたものであった

ことが分かったのです。

 

気分が悪くなるほど

残酷な事件です。

 

そしてその犯人として

最も疑わしいのが

ゾイル一家の三兄弟なのです。

 

彼らは多くの謎に包まれ、

しかし確かな残忍性を

持っていることは

周知の事実です。

 

フィンは何度か彼らと接触し、

その度に背筋が凍るような印象

を受けるのです。

 

そして彼らの矛先は

フィンに向きます。

 

あまり言うとネタバレ

になるので、

このあたりで止めておきます。

 

この本にはこのような残酷さも

含まれています。

 

フィクションでありながら

生々しいグロテスクな内容は、

不快感を覚えずには

いられませんが、

より物語をリアルにして

かつ刺激的にしていること

は間違いありません。

 

そして、そんな彼らと

対峙するフィンや、

フィンの仲間たちを応援し、

キャラクターたちと共に

一喜一憂してしまう

という楽しみ方が、

私はできました。

 

ただ残酷だから敬遠する

というのもアリだと

は思いますが、

不快にならない程度に

読み進めてくだされば、

きっと最後まで読んで

良かったと思えるはずです。

 

 

 

 

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フィン・ベル『死んだレモン』 死んだレモン

 

タイトルにある

『死んだレモン』。

 

作品中では

『人生の落伍者』のルビに

用いられています。

 

なぜこれがタイトル

なのでしょうか。

 

明確な答えがあるわけ

ではないので、

私の考えを

書かせていただきます。

 

巻末の解説に、

「レモン」には

「贋作」や「欠陥品」

の意味があると

書かれています。

 

レモンは見た目が

美味しそうだけれど、

食べるととても

酸っぱいからだそうです。

 

では、なぜそんな由来

のあるレモンという言葉

を使って、

 

『死んだレモン』という

タイトルつけたのか。

 

それは、

この物語の主人公フィンが、

作者フィン自身を

投影しているからだと思います。

 

ネタバレになるので

省略しますが、

作者フィンと主人公フィン

には多くの共通点があります。

 

そして作者フィンが

主人公フィンの物語に

死んだレモンと

名付けたということは、

 

この物語は人生の落伍者の

物語であると言って

いるんじゃないかと

考えました。

 

つまり、作者フィンが

自身を小説の主人公に抽象化して、

さらに人生の落伍者と

することで、

 

この本を読む全ての

人生の落伍者に、

主人公と自分を重ね合わせ、

 

主人公の立ち直っていく姿で

自分の気持ちも前に向けて

ほしいという考えが

あるのかなと思いました。

 

あなたはこの本を読んで、

死んだレモンという言葉に

どのような意味を見出だすのか、

興味があります。

 

きっと十人十色の解釈が、

みんなの胸の中に

生まれるのではないかと思います。

 

それはとても面白いこと

だと思います。

ぜひ読んでみてください。

 

フィン・ベル (著), 安達 眞弓 (翻訳)

 

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