今回ご紹介する一冊は、
柚木 麻子(ゆずき あさこ)著
『BUTTER』です。
作者である柚木麻子さんは
オール読物新人賞から
広く読者に共感されなければ
受賞できない
山本周五郎賞を得て
活躍する作家です。
『BUTTER』はもちろんですが、
『ナイルパーチの女子会』など
どこか女の園の香りが
漂っていると感じられる作品
が印象的でしたが
やはり女子高育ちで
いらっしゃいました。
玄人好みの学校で
所謂お嬢様校なだけではない
自由な校風が
柚木さんの礎になっているのか
と思うと納得の作品です。
物書きを目指しては
いらっしゃいましたが、
志を秘めて他の社会人経験
も経ています。
経験の上に熱意を重ねた
柚木さんの多角的な視点が
生かされた
『BUTTER』の魅力を紹介します。
目次
柚木麻子『BUTTER』 あらすじ
若くも美しくもない女が、男たちの金と命を奪った――。
殺人×グルメが濃厚に融合した、柚木麻子の新境地にして集大成。
各紙誌で大絶賛の渾身作がついに文庫化!!男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子(カジマナ)。若くも美しくもない彼女がなぜ──。週刊誌記者の町田里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。フェミニストとマーガリンを嫌悪する梶井は、里佳に〈あること〉を命じる。その日以来、欲望に忠実な梶井の言動に触れるたび、里佳の内面も外見も変貌し、伶子や恋人の誠らの運命をも変えてゆく。各紙誌絶賛の社会派長編。
本作着想の根底には、世に知られた事件があったのは確かだ。しかし物語が進むにつれて、事件からも犯罪者からも遠ざかる。独立したオリジナリティーに富んだ物語が展開される。進路を定めた羅針盤こそ、「女性同士の友情と信頼」である。
山本一力(本書解説より)
実際にあった事件を
元に書かれています。
ぱっと見それこそ
ぱっとしないどちらかというと
魅力もない女に
いい年をした男が
身も心も捧げあげく
殺害されてしまいます。
殺害の容疑者、
魅力もない女が
カジマナこと梶井真奈子です。
雑誌記者の町田里佳は
生きることに真っすぐな
カジマナの取材を続けるうちに
自身を顧みて他人から見た自分や
自分しか知らない自分、
自分も知らなかった自分に
気づかされて行きます。
印象深いシーン
タイトル通りバターです。
食事をおろそかにして
適当な生活を送ることは
周りを傷つける
カジマナに様々な食材
ことさらバターを
すすめられ試すうちに
里佳はこのことに
気付いていきます。
先に書きましたが
生きることに真っすぐ
ということは欲望を持つこと
こそが生きることで、
カジマナは欲望に
まっすぐなのです。
人の欲望の最たるものは食欲です。
例えば里佳の言うように
適当に日々の食事を選択していたら、
もしもその人が死を
目前にしていたら、
それだけで周りにいる人は
悲しみを覚えますよね。
中でもカジマナは
エシレバターを
初心者里佳に勧めます。
読後に早速エシレバターを
検索して購入しました。
作中ではバター醤油ごはんを
勧められて里佳は食しています。
それはそれは見事な描写で
食品関係の本でもいける
のではないかと思われます。
柚木さんはバターを
象徴的に使われたと
思いますが、
バターそのものの魅力が
十分に伝わり結果購入に至る
という現実的な効果も
思いがけず生んでいること
は間違いありません。
柚木麻子『BUTTER』 周りからの自分
家庭的とかそいういうの俺、求めてないからね
同業者の誠と付き合っている里佳
がカジマナの影響もあって
取材の一環で料理を
ふるまうと
このような反応がありました。
普段しないことをすると
何やら特別で裏があるのでは
ないかと思う邪推が卑しいです。
思ってもいないことを
勝手に真実だと
決めつけられてさも
思いやりがあるかのように
言われた里佳は
どんなに悔しかっただろうと
思うシーンです。
誤解を生むかもしれないので
言葉の選択は難しく、
それでもコミュニケーションを
とるためには果敢に挑んで
いかなければならない
人との会話ですが、
よく知っているつもりの
交際相手ですら
思う通りにはならないことを
実感する里佳。
ここで自分のために料理すること
自分の欲望に忠実になることが
正しいとするカジマナの術中に
里佳がはまっていく危うさを
感じてもらえたらなと思います。
柚木麻子『BUTTER』 カジマナ
とりたてて美しいとか
とりあえず若いとか
見た目秀でたところがない
カジマナが
なぜいい年の男性(分別のある)を
手玉にとることが
できたのでしょうか。
若いから好きという人は
会ったことがないので
理由とせず省きます。
自分の周りにも
なぜかわからないけど
あの人モテるよね
という人がいます。
もちろん理由があるのでしょう
けれどもわかりません。
モテるとはそもそも
どういう状態かというと、
広く求められ愛される人
ではないかと思うのです。
さらに個人的見解を言えば
長く惹きつける人です。
カジマナはまさにこの人
なのではないかと思うのです。
信用を勝ち取るのは
真実を口にしたものではない。
より揺るがない者だ。
カジマナは自分自身を
強く信じていて
誰彼かまわず信じてくれと
懇願することはありません。
そんな揺るがない者であるため、
余裕が生まれるのです。
余裕に誘われて
狭い範囲ですが信者のごとく
彼女に惹かれる男がいるのです。
カジマナはその信者が
信じてくれればよく、
他の誰に何を言われても
響かないのです。
彼女自身が宗教なのだと
解釈しました。
柚木麻子『BUTTER』 女性同士の世界
里佳とカジマナだけではなく
『BUTTER』は女性が多く登場します。
その一人が里佳の
同級生の伶子です。
やりすぎでしょ!と
思わされる箇所が
たくさんあります。
里佳と伶子がそれぞれ
思い合っていることは
女性同士ではありがちで
なかなか理解されづらかったり、
反感を買ったりで
複雑な世界です。
万人に好まれ、
突き詰めれば得も言われぬ
味わいを見せるBUTTERのような。
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