今回ご紹介する一冊は、
柚月裕子 著
『盤上の向日葵』です。
この作品は
2017年8月に
中央公論新社から刊行され、
第15回本屋大賞で
第2位にランクインしました。
遺留品の名駒を手掛かりに
白骨死体事件の真相を追う
刑事の捜査と、
奨励会を経ずに
実業界からプロ棋士となった
青年の数奇な半生を
並行して描いた長編ミステリです。
柚月さん自身もインタビューなどで
松本清張の名作『砂の器』の
オマージュ作品だと
語っているので、
松本清張ファンの方には
ぜひ手に取って
いただきたい1冊です。
また2019年9月に
NHK BSプレミアムで
千葉雄大さん主演で
テレビドラマ化もされました。
著者の柚月裕子さんは
2008年『臨床真理』
で第7回
『このミステリーがすごい!』
大賞を受賞しデビュー。
代表作として、
テレビドラマ化された
『最後の証人』『検事の本懐』
を含む「佐方貞人シリーズ」や
映画化された『孤狼の血』
などを発表しています。
目次
柚月裕子『盤上の向日葵』 一気に読めるスピード感!
2018年本屋大賞2位!
著者渾身の慟哭のミステリー、ついに文庫化!平成六年、夏。埼玉県の山中で白骨死体が発見された。遺留品は、名匠の将棋駒。叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志した新米刑事の佐野は、駒の足取りを追って日本各地に飛ぶ。折しも将棋界では、実業界から転身した異端の天才棋士・上条桂介が、世紀の一戦に挑もうとしていた――
ハードカバーでは
全563ページ。
文庫にしても上下巻と、
その質量に最初は
少し怯みましたが、
面白すぎてあっという間に
読み終えてしまいました。
柚月さんの書く文章は明瞭で、
頭の中でするすると
映像化されてしまいます。
事件に関する描写も
わかりやすいのですが
将棋の対局の展開には、
手に汗握る熱量を感じました。
若き天才棋士、
壬生芳樹昇竜と東大卒のエリート棋士、
上条桂介六段の対局はもちろん、
金を賭ける真剣師、
東名重慶たちの
鬼気迫る対局は本当に
盤面が見えるようでした。
また事件の鍵となる将棋駒
「初代菊水月」の描写も丁寧で、
実物を見たくなりました。
またこの先どうなるんだろうと、
ページをめくらずには
いられないフリも上手く、
一度本を開いたら、
ノンストップです。
そんな作品になって
おりますので、
分厚さに負けずに
手に取っていただけたら
と思います。
柚月裕子『盤上の向日葵』 白骨死体と将棋の駒
事件の発端は山中で
発見された
身元不明の白骨死体。
それと共に埋められていた
伝説の将棋駒「初代菊水月」
の持ち主を見つけようと
警察は地道な捜査を続けます。
将棋駒が、
どんな経緯でどんな人々の手
を渡ってきたのか、
それを追いかける旅は、
想像していたよりも壮大です。
将棋駒を追う、
棋士になるのを諦めた
元奨励会員の佐野巡査と
県警捜査一課の
ベテラン刑事石破の凸凹コンビ
がなかなかいい味を
出しています。
またそれと並行して、
将棋駒がどのような想いで
遺体と共に埋められること
になったのか。
その経緯も事細かに描かれます。
並列して描かれる
二つの物語がいつ交わるのか。
そしてどんな展開になるのか、
本当に最後の最後まで
ドキドキさせられました!
柚月裕子『盤上の向日葵』 クセの強いオヤジ達が渋い
柚月さんは総じて
「オヤジ」を描くのが上手い、
と評判です。
読んでみて納得。
硬派で、骨太で、
正直ちょっと面倒くさい
タイプのおじさんが多い。
お世辞にもかっこいいとは
いえないし、
こうなりたいとも思わない。
それでも品が無くて
猥雑な彼らによって
作品の厚みが増していることは
疑いようもありませんでした。
口が悪く嫌味な性格で
有名な叩き上げ刑事の石破剛志。
桂介と親しくなる
真剣師の東明重慶。
将棋の観戦記者の徳田洋平。
桂助を救う元教員の唐沢光一朗。
どの人物も破天荒で
自分の生き方があって、
人間味があります。
それにかつて駒を
所有していた人達
が語るそれぞれの人生模様も
とても魅力的で、
登場人物が生きているなぁ
と実感が湧きました。
将棋駒と共に流れる長い時間が、
それぞれの人生を
掬い上げているような印象
すら受けました。
この作品は確かに
ミステリであり、
一人の青年棋士の半生を
追いかける内容になっています。
ですが数多く登場する人物の
人々の息づかいが感じられる、
素敵な人間ドラマ
にもなっています。
ぜひ、手にとって将棋のもとに
集まる人々の人間ドラマを
覗いてみてください。
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