今回ご紹介する一冊は、
馳星周 著
『不夜城』です。
ヤクザとかマフィアといった、
普段ふつうに生きていると
接することのない
「裏の世界」を取り扱った小説です。
著者のデビュー作として発表され、
その2年後には映画化もされています。
また韓国では連続ドラマとしても
放映されていますので、
ご存じの方、
内容は知らなくてもタイトルは
聞いたことがある、
という方は多いのでは
ないでしょうか。
頭脳戦を楽しみたい方、
非日常にどっぷり浸かりたい方
にオススメです。
目次
馳星周『不夜城』 眠らない街で眠らない男たちを描いた物語
アジア屈指の大歓楽街――新宿歌舞伎町。様々な民族が巣喰うこの街で、器用に生き抜いてきた故買屋・劉健一。だが、かつての相棒・呉富春が戻ってきたことから事態は一変した。富春は、上海マフィアのボス元成貴の片腕を殺し逃亡を続けていたのだ。健一は元に呼び戻され、三日以内に富春を連れてこいと脅される。同じ頃、謎の女が、健一に仕事を依頼してきた。彼女が売りたいと口にした意外なものとは――。生き残るために嘘と裏切りを重ねる人間たちを濃密な筆致で綴った危険な物語。
不夜城とは、
もともとは中国にあった
日の沈まない街を指した言葉
だそうです。
物語では眠らない街、
歌舞伎町を舞台として、
昼も夜も関係なく動く
中国人たちが描かれています。
主人公は日本と台湾のハーフ。
普段は出どころを明かせない
ような代物を裏の社会の人
たちから買い取り、
高額で転売することを
生業としています。
ヤクザやマフィアの間で
重宝される「日本国籍」を武器に、
夜の歌舞伎町の世界を
スルリスルリと渡り歩いてきた男です。
小さなイザコザは日々ありつつも
平穏に過ごしてきた主人公の元に、
昔の相棒が歌舞伎町に戻ってきた
という情報が入ります。
街の大物の右腕を殺して
しまったために追われるように
街を出たため、
戻ってきたと聞いて大騒ぎ。
さらには正体不明の女まで現れます。
相棒だったからという理由で
同じように命を狙われた主人公は、
生き延びるために数々の罠を
張り巡らせていきますが、
正体不明の女に惑わされたり
多くの人の思惑が絡み過ぎたりして、
計画に少しずつ綻びが生じていきます。
馳星周『不夜城』 自分の価値観が露わになる
裏の世界では、
大抵のことはお金で
解決できます。
ただし時にお金よりも
優先されるものがあります。
それが「命」と「恩」です。
普段は大概のことがお金で
動く世界ですが、
トラブルが起こると損してでも
誰かの命を守ったり、
自分の命をかけて借りを
返したりする人が出てきます。
さすがにこの小説を読む方の多くは、
実際にヤクザやマフィア
といった人たちと
関わることはないと思いますが、
日常の生活の中で
「何をいちばん大切にするか?」
と判断に迷うような状況に
遭遇することはあると思います。
お金をとるか、
関わる人との信頼をとるか、
はたまた自分の気持ちをとるか。
物語に出てくるマフィアたちの
判断やスタンスをみながら
「自分だったら何を優先させるかな」
と思いをめぐらせてみると、
自分の価値観や大切にしたいものが
分かってくるのではないかな、
と感じました。
馳星周『不夜城』 推理小説好きさんにおすすめ
本書や
『池袋ウエストゲートパーク』
のような、
ヤクザやヤンキー、
マフィアの世界を描いた小説は
いくつも出版されています。
これらはジャンルとしては
ノワール小説(暗黒小説)
とかピカレスク小説(悪漢小説)
とか呼ばれますが、
こういったジャンルの小説の中でも
本書はとても読み応えがあり、
ぜひ一度は読んでみてほしい本
だなと思います。
そしてノワール小説や
ピカレスク小説が
お好きな方以外でも、
推理小説や冒険小説が
お好きな方ならおそらく楽しく
読める内容だと思います。
「〇〇殺人事件」のようなものだと
先に殺人が起こり、
あとからそのロジックを
解き明かしていく進行になりますが、
ヤクザやマフィアの世界を描く物語
ではだいたい殺人は最後。
そこに至るまでの計画や手回しの様子
がラストの殺人シーンに向けて
綿密に描かれていきます。
「このトラップは後々どこに
影響してくるのだろうか」
「もしかしてこの人とその人は裏で
つながっているのかもしれない」
といった感じで、
登場人物の頭の中をのぞくように
様々なことを推理しながら読んでいくと、
ラストシーンですべてが繋がり
スッキリする爽快感を
味わうことができます。
本書をそんなふうにして楽しむのも、
また面白いと思います。
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