今回ご紹介する一冊は、
ジュゼッペ・フェスタ 著
『飛ぶための百歩』です。
著者のジュゼッペ・フェスタは
イタリアの作家です。
自然科学の学位を持ち、
環境教育に従事。
音楽家でもあります。
自然についての
ルポルタージュを作成したり、
ドキュメンタリー映像に出演したり、
多方面で活躍しています。
著書には2013年
『ll passaggio dell’ orso(熊の歩いた道)』、
2016年
『La luna e dei lupi(月はオオカミ)』など。
著書はすべて日本語に
翻訳されています。
動物と山を愛する盲目の少年との
出会いから生まれた今作は、
2018年にイタリア児童文学最高の賞、
ストレーガ・チルドレン賞を受賞。
日本デビュー作品です。
子どもから大人へと成長する中で
誰もが感じる心の障壁と葛藤を、
山登りで出会う仲間とともに
乗り越えていく少年ルーチョの姿が
生き生きと描かれています。
目次
ジュゼッペ・フェスタ『飛ぶための百歩 』 自分の弱さを認めること
誰だって、誰かの力を借りて生きてる。
中学を卒業したばかりのルーチョは、
5歳の時に失明した。
だが世界は消えていなかった。周りの目が気になり素直になれない中、
無口な少女キアーラと出会い、
大切な何かに気付いていく…。大人への一歩を踏み出す
少年少女の成長物語!10代から大人まで読んでもらいたい
イタリアの児童文学作品。
五歳のときに失明した少年ルーチョ。
中学を卒業したルーチョは
叔母のベアとともに
アルプス山脈のドロミテ渓谷へ
やってきます。
勘のよさから、
目が見える人と同様に振る舞い
人の手を借りることを嫌います。
《ぼくは目が見えない。
でももう子供じゃないんだ》
と心の中で思っています。
そんなルーチョが山小屋で出会う
キアーラという少女。
彼女もまた、
家の外では内気になってしまい
なかなか友達をつくることが
出来ずに悩んでいました。
そんな二人は初め、
お互いに心をひらくこと
ができません。
けれど一緒に山に登り、
危険に直面する中で
自分の弱さを乗り越えようと
勇気を出します。
思いきって手を差し伸べる
キアーラに対して、
どこまでも素直になれない
ルーチョに怒りが爆発します。
「誰だって、人に頼って生きてるの。できないことは誰にでもある」
と言い放ちます。
自分の弱さやできないことを認め、
ときに人に頼ってもいいんだ
ということ。
これは障害を持っている
いないに関係なく、
自分の殻から一歩踏み出す
勇気をもつことが
大切なんだと教えられます。
ジュゼッペ・フェスタ『飛ぶための百歩 』 自然や文化を肌で感じる
この物語にはもう一つ、
山に生きるワシの親子の姿
が描かれます。
風の名前をとって
名づけられた父親鳥の
ミストラル『北西風』、
母親鳥のレヴァンテ『東風』
そして、
密猟者に狙われる
ひな鳥のゼフィーロ『そよ風』です。
このワシたちの視点が
物語をより深めていきます。
主人公、ワシの親子の暮らし、
密猟者の動きが交互に描かれ、
スピード感があふれる
構成になっています。
徐々に高まっていく緊迫感で
最後まで一気に読むことができます。
そして終始アルプス山脈の美しさや、
生き物、食べ物といった
イタリア文化を、
味や香り音といった五感を
刺激しながらワクワクと
想像させてくれます。
まるで自分も山に登り、
ワシの親子が飛ぶ姿を
見ているような爽やかな気持ち
になることができます。
とくに終わりのほうに
描かれる主人公ルーチョと、
ひな鳥ゼフィーロの一体感の
あるシーンが胸をうちます。
ジュゼッペ・フェスタ『飛ぶための百歩 』 心豊かに生きる
最後に書かれている
著者からのメッセージに
「五感の全てを大切にすることは、自分の世界を豊かにしてくれます」
とあります。
目が見えないことは、
真っ暗闇な世界だと
思ってしまいます。
そうではなく、
少年ルーチョの頭や心の中には
鮮やかで美しい世界が
広がっています。
目に見えることだけに頼らずに、
触ること、耳を澄まして聞くこと、
匂いをかぐこと、味わうことを
楽しんで生きる。
視覚以外の感覚にもっと
意識をむけることで、
日々の生活により深い喜びを
感じることができるんだと
気づかされます。
本書は2020年、
青少年読書感想文全国コンクール
の課題図書にも選ばれています。
児童書ですが、子供の視点、
大人の視点でそれぞれ読むことが
出来るので
幅広い方々に読んで
もらいたいです。
まめふくさんが描く表紙の
イラストも、
物語の世界観が感じられ素敵です。
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