今回ご紹介する一冊は、
海堂 尊(かいどう たける)著
『コロナ黙示録』です。
「現実の世界と小説の
世界が分からなくなる。」
一言で表現すると
そのような小説でした。
『チーム・バチスタの栄光』
で2006年にデビューし、
そのシリーズで
第4回『このミステリーがすごい!』
大賞を受賞、
そして同シリーズは
累計発行部数1000万部を
超えるという
超人気作家が書き下ろした
世界初の新型コロナウイルス小説
です。
『桜宮サーガ』と呼ばれる
海堂尊作品の世界観や
登場人物をこの作品にも
クロスオーバー展開
させています。
もちろん小説の世界
での話ですが、
豪華クルーズ船で起きた
パンデミック、
オリンピックの開催可否の
判断に伴うゴタゴタ、
医療関係の逼迫状況、
そして政治の大混乱と、
まるで現実世界のそれを
見ているようで、
読んでいるうちに
このストーリーは
現実なのか空想なのか、
分からなくなっていきます。
そんな海堂氏の世界観に
圧倒されるこの作品の魅力
を3つに絞って
ご紹介していきます。
目次
海堂尊『コロナ黙示録』 政治に対するストレートな物言い
桜宮市に新型コロナウイルスが襲来。その時、田口医師は、厚労省技官・白鳥はーーそして“北の将軍”が帰ってくる! ダイヤモンド・ダスト号で起きたパンデミックと忖度政治。今、病院で起きていること。これは虚構か真実か。作家・医学博士の海堂尊が描き出す、現代ニッポンの“今”世界初の新型コロナウイルス小説、刊行! 2020年、東京オリンピックを前にした世界に、新型コロナウイルスが襲来した。豪華クルーズ船ダイヤモンド・ダスト号で感染者が発生、この対応で厚労省を始めとする安保政府は後手に回る。一方、北海道の雪見市救命救急センターでもクラスターが発生。速水晃一センター長を始め、対応に追われる。クルーズ船感染者を、東城大学医学部付属病院ホスピス病棟、黎明棟で引き受けることになり新型コロナウイルス対策本部に任命された田口公平がその任にあたる。一方、東京ではかつて「日本三分の計」を打ち出し、挫折した元浪速府知事・村雨を筆頭に政策集団・梁山泊が安保内閣の打倒をめざしていた……。
この作品は
フィクションであり、
決してノンフィクションでは
ないということを
頭に入れて読まなければ
なりません。
そうでないと、
もしかすると読んだ
多くの人が
日本の政治に対して
かなりの不信感を
抱くことでしょう。
総理大臣の名前は、
安保宰三(あぼ・さいぞう)
と言い、
決して「あほ」とは
読んではいけない。
「有朋学園事件」、
「満開の桜を愛でる会」問題など、
現実の世界でも世間を
にぎわせた政治に
関する事件や問題が多数
出てくるため、
容易に空想の世界から
現実の世界へと
引き戻されそうになって
しまうのです。
もし、現実の世界の意識の
ままこの物語を読んでしまうと
今の安倍政権に対する不信感
や違和感を感じずには
いられないでしょう。
それほど、登場人物が
政治に対して
ストレートに意見を
出していたり、
様々な問題の裏事情を
オブラートに包むことなく、
ありのままに描写
しているのです。
もちろん、
それが真実かどうかは
作者に聞いてみないと
分かりませんが、
政治に対して
少し見る目が変わってしまう
のは必然であるはずです。
海堂尊『コロナ黙示録』 医療についての細かすぎる描写
作者自身が医学博士
ということもあり、
新型コロナウイルスに
関しての知識や
医療現場の事情、
抱えている問題が
細かく描写されています。
特に豪華クルーズ船
ダイヤモンド・ダスト号で
発生した感染爆発の場面では、
徐々に事態が大きくなっていく
につれて変化していく
医療体制や現場の対策など
がリアリティに
あふれているため、
読んでいて非常に
分かりやすいです。
医学の専門家ならではの
目線での展開が、
読者に対して新たな読み方を
提供してくれます。
そして、現実の世界において、
この新型コロナウイルスに
対して
今まで発生してきた様々な問題
や医療現場の実情が
この本を読むと、
ニュースや新聞などの
メディアで手に入れてきた
ものよりも、
あまりにも深く広いことを
思い知らされ、
さらにこのコロナウイルスの
第一波を落ち着かせた
医療関係者の皆様に
頭が上がらない思いで
いっぱいになることでしょう。
海堂尊『コロナ黙示録』 自分事と捉えさせるための小説
すでに繰り返し
書いてきましたが、
このストーリーは
あくまでも空想の世界です。
この本で新型コロナウイルス
が襲来した
「桜宮市」というのも、
あくまでの空想の都市なのです。
現在、新型コロナウイルスに
関する本はたくさん
世に出ていますが、
ほとんどが事実を
描写したもの、
つまりノンフィクション
のものばかりでした。
それではなぜ、
作者はあえて”小説”という
ジャンルを選んだのでしょうか。
それは、
「読者にこの新型コロナウイルスを
自分事として捉えてほしい」
という想いがあったからだ
といいます。
空想の都市、
空想の登場人物だからこそ、
「自分には関係ない」
という余計な先入観が消え、
さらにはその登場人物に
感情移入することで
この問題を自分事として
捉えることができる、
そのような仕掛けは
小説だからこそできるもの
であることは間違いありません。
私も新型コロナウイルスの
感染者が爆発的に
発生していない都市に
住んでいるので、
どこかしら他人事の問題
のようにニュースなどを
見ていることがあります。
ただ、この本を読んでからは
少し捉え方が変わった気がします。
第二波が来ている現在にぜひ
多くの人に読んでもらい、
新型コロナウイルスについて
一人でも多くの人が
自分事と捉えて
いただけることを切に願います。
この記事を読んだ方はこちらもオススメです↓