今回ご紹介する一冊は、
内藤 了(ないとう りょう)著
『OFF 猟奇犯罪分析官・中島保』です。
タイトルでお分かりの通り、
大人気の
「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」
シリーズ
からのスピンオフ作です。
シリーズからのスピンオフは
『パンドラ 猟奇犯罪検死官・石上妙子』
『サークル 猟奇犯罪捜査官・厚田巌夫』
に続く三作目、
そして今回の主役は
「待ってた」という方も
多いんじゃないでしょうか、
野比先生こと中島保です。
天才的なプロファイリング技術を持ち、
その風貌と少しばかり
どんくさいことから、
ドラえもんの主人公
「のび太」の名があだ名に
なってしまった好青年。
にもかかわらず政府が
管理するセンターに幽閉され、
外界からは厳重に
隔離されるほどの「危険人物」。
どうしてこんなことになって
しまったのかと言えば、
シリーズの第一作
『ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』
にすべてが描かれています。
けれどもそれは当然、
比奈子から見た物語です。
それを保の視点から
語り直したのが本書となります。
そんなわけで『OFF』は
『ON』のネタバレ的な側面
もあるので、
できれば『ON』→『OFF』の順
で読んでほしいところです。
もとからシリーズの愛読者向けの
サービス的な色合いの濃い作品
でしょうし。
とは言え『OFF』だけ読んでも
十分以上に楽しい。
スピンオフ作と言っても
シリーズ人気に寄っかかった
内輪受けではなく、
『OFF』だけでエンターテイメント
として完成しています。
では内容に入っていきましょう。
目次
内藤了『ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』
猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズ始まりの事件を保視点で描くスピンオフ
見習いカウンセラーの中島保は、殺人者の脳に働きかけて犯行を抑制する「スイッチ」の開発を進めていた。殺人への欲望を強制的に痛みへ変換する、そんなSFじみた研究のはずが、実験は成功。野放しになっている犯罪者たちにスイッチを埋め込む保だが、それは想像を超え、犯罪者が自らの肉体を傷つける破滅のスイッチへと化してゆく――。「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズ始まりの事件を保目線で描く約束のスピンオフ長編!
まずは『OFF』を裏とするなら、
表に当たる『ON』から
始めましょう。
お話は刑事課に配属されたばかり
の新人・藤堂比奈子が、
初めて現場に出るところから
始まります。
そこでは凄まじい暴行を
加えられて、
若い男が死んでいたのですが、
検死の結果、暴行を加えたのは
被害者自身である
可能性が浮上します。
ならば自殺かとなるわけですが、
それだけではありません。
この男、ある暴行殺人事件の
容疑者だったのですが、
彼の死に様はその事件の
被害者のものとそっくり
だったのです。
一方、比奈子は男が起こしていた
別の暴行事件の被害者の元を訪れて、
そこで被害者のカウンセラー
だったという、
ちょっと抜けた感じの青年
と出会います。
それが中島保だったのです。
殺人事件の加害者が、
自分が被害者に加えたのと同じ手段で、
自分を殺してしまうという事件は、
拘置所の監視カメラの前で発生して、
もはや否定できなくなります。
そして同様の事件が
他にも発生していることが
明らかとなり、
比奈子はシリーズの読者には
おなじみのガンさん、東海林先輩、
死神女史らと捜査に
邁進するのですが、
その過程で保が勤務する
クリニックが浮かび、
彼と再開するのですが……。
内藤了『OFF 猟奇犯罪分析官・中島保』
『ON』は印象的な
プロローグで始まります。
それは誰とも知れない人物が、
猟奇殺人の犠牲となった
少女の遺体を見つけてしまう、
という悲惨な出来事の記憶です。
『OFF』のオープニングは、
この人物が中島保であることを、
最初から明かした上での
リフレインです。
保はこのときの記憶に
追い立てれるように、
新しい犠牲者を出さないための
研究を懸命に続けているのです。
お話は、連続殺人を自供した
少年のカウンセリングを
鑑別所で行った保が、
少年が犯人でないことに
気づいたことで、
大きく動き出します。
保は真犯人が少年の兄で
あることを見抜くのですが、
保の恩師でもある、
クリニックの長はそれを
警察に訴えてもどうにもならない
ことを指摘します。
なら犯人を放置するかのと
言う保の問に恩師は、
だから自分たちで処理しよう
と言い出すのです。
そうあの研究を実地で
使ってみようじゃないか……。
この『ON』では軽く触れられる
だけだった事件を皮切りに、
『ON』の事件の裏側で、
保が何をしていたのかが、
彼自身の目を通して
描かれるわけです。
シリーズの読者にとって
興味深いのは、
保視点の二人の出会いなどを通して、
彼の目から見た比奈子が
描写されることでしょう。
そもそも視点人物である比奈子は、
シリーズを通して、
外見などを描写される機会
があまりありません。
「小柄で少しぽっちゃりとして色白で、頬が赤く」
と続く描写を見て、
ニヤついてしまう人は
多いんじゃないでしょうか。
内藤了『OFF 猟奇犯罪分析官・中島保』 邪道
これまでのスピンオフは
前日譚だったのですが、
本作はすでに語られた事件を
別視点で語り直すという荒業です。
中島保に関しては、
別の事件というのがありえない、
というのも大きいのでしょうが、
極めて凝った作りで、
シリーズのファンは
楽しめるでしょう。
多くの人が『OFF』を読んだあとで、
『ON』を読み返したくなる
んじゃないでしょうか。
もちろん先も書いたように、
本書はこれだけ読んでも
十分に楽しめる完成度を持つ作品です。
ただシリーズをここから始める
というのはやっぱり邪道かなあ。
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