今回ご紹介する一冊は、
森 博嗣(もり ひろし) 著
『幽霊を創出したのは誰か?
Who Created the Ghost?』です。
作者の森博嗣氏は工学博士です。
1996年に小説『すべてがFになる』で、
第1回メフィスト賞を受賞、
それがデビュー作となります。
メフィスト賞は、
講談社が発行する「メフィスト」
という文芸誌から生まれた
公募文学新人賞のことで、
「日本で一番尖った賞」
という別名があります。
その後、
森氏は数々のシリーズ作品を発表し、
この『幽霊を創出したのは誰か?』は
WWシリーズの中の
4作品目に当たります。
シリーズ4作目なので、
当然、前の3作品
『それでもデミアンは一人なのか?』
『神はいつ問われるのか?』
『キャサリンはどのように子供を産んだのか?』
を読んでからの方が
理解しやすいとは思いますが、
本書だけをいきなり読んでも、
だいたいの内容は掴める
かと思います。
まるで解説書のような
タイトルですが、
れっきとした小説です。
非常に興味深くサクサク読めます。
目次
森博嗣『幽霊を創出したのは誰か?』 あらすじ
幽霊が存在するために、死は、必要充分条件か?
触れ合うことも、声を聞くことも、姿を見ることすら出来ない男女の亡霊。許されぬ恋を悲観して心中した二人は、今なお互いを求めて、小高い丘の上にある古い城跡を彷徨っているという。
城壁で言い伝えの幽霊を思わせる男女と遭遇したグアトとロジの元を、幽霊になった男性の弟だという老人が訪ねてきた。彼は、兄・ロベルトが、生存している可能性を探っているというのだが。
ある丘の城跡に幽霊が出る
と噂が立っています。
それは男女の幽霊で、
大昔、ある許されない恋をした
男女のカップルが、
ここで心中をしたからだ、
というもっともらしい
理由つきです。
何件かの目撃情報も
あるようです。
グアトとロジは、
早速その城跡へ
出向いてみました。
すると、駐車場には
車が1台もなかったはずなのに、
白い服を着た女性が悲鳴を上げ、
「連れを見ませんでしたか?」
という男性まで
現れたではありませんか。
その後、悲鳴の女性も、
女性を探している風の
男性も消えてしまい、
さがしても見つかりませんでした。
まだ陽の高い午前中の出来事です。
この二人が幽霊なのでしょうか・・・?
数日後、警察にその日のこと
を聞かれたグアトとロジ。
またさらに数日後には、
その城跡一帯を所有する
ヴィリ・トレンメル
という老人が二人を訪れ、
当日のことを詳しく話して
欲しいと言います。
そしてヴィリは
二人を自分の別荘へ招待しました。
ヴィリの別荘では、
エプロン姿のそっくりな二人の
女性が出迎えてくれます。
ロボットでした。
クレイ射撃や乗馬や
ビリヤードを楽しみ、
食事を終えた二人。
ゲストルームで休んでいると、
とんでもないものを
見ることになります。
森博嗣『幽霊を創出したのは誰か?』 リアル世界とバーチャル世界を行ったり来たりしながら・・・
たしかに、幽霊とは、
この世の人間が肉体を
失った状態のもの・・・
私たちが「魂」と呼ぶ、
それだとすると、
リアル世界で肉体を捨てて
バーチャルの世界に
シフトして生きる生命体も、
同一の類だと考えていいよう
な気もします。
そもそも、人工知能や
人工細胞からなる
生命体を見れば、
「死」がないわけですから、
「死」という概念がなくなれば
当然「生」もなくなり、
「命」って何?という疑問も
沸き起こります。
コロナ禍で自粛生活が
求められたとき、
「あつまれ どうぶつの森」
というゲームが
非常に人気となりました。
これはバーチャルの世界で、
まるで日常のような
リアル感が楽しめるゲームです。
ログインすれば、
その世界に行くことができ、
ログアウトすれば
リアル世界に戻って来られます。
いつか、こういうのが
現実になることも
あるのでしょうか。
転んで怪我をすれば
リアル世界では痛いですが、
バーチャルではどうなのでしょう。
重量を持った肉体
というものがなければ、
怪我もしませんね。
肉体がないということは、
実に自由なことです。
交通手段など使わなくても
どこへだって好きなところ
へ行けます。
壁を通り抜けることだって、
水の中に何時間も
潜っていることだって。
そして、さらにその先には、
リアル世界からシフトした
生命体ではなく、
初めからバーチャル世界で
生まれたバーチャルの生命体
というものも出来てくる
のでしょうか。
リアル世界とバーチャル世界を
行ったり来たりしながら
物語が進んでいくこの作品を読むと、
未来の様々な想像を
掻き立てられて、
どんどんハマっていきます。
森博嗣『幽霊を創出したのは誰か?』 幸せはどこにあるかを考えてみる
作品中、誰が人間で誰が
ウォーカロンで
誰がロボットなのか・・・、
最初はよくわからないのですが、
つまりそれぐらい誰もが
人間っぽいのですが、
時代背景そのものがもう
現代ではないので、
この小説の中の「人間」でさえ、
今、私たちが認識している
人間とは異なります。
幽霊の謎を探っていく
グアトとロジは「人間」ですが、
私たちとはもはや違った
新しい能力を備えていますし、
ロジはむしろロボットっぽいです。
でも二人のやりとりは、
端的で無駄がなく、
それでもなんとなく
ほんわかした温かみが
あるあたり、
思わず顔がほころびます。
バーチャル世界は、
リアルの人間が、
こうだったらいいのにと
希望する便利でシンプルなもの
だけで作られて、
面倒なものや不要なものは
排除されて、
どんなにか生きやすいかと
思われます。
しかし、いざ、いつでも
バーチャル世界へ生き移れる
となったら、
逆に人間は、肉体というものに
未練を残すのではないか?
リアル世界に見切りを
つけられるのか?といった疑念が、
ふと浮かぶグアトの発想に、
ホッとさせられたりもします。
なぜでしょう?
クリアで整然と洗練された
バーチャル世界には、
幸せが見えにくいのです。
やはり人間は、
混沌としたリアル世界において、
この「肉体」という重量に
支えられて生き、
或いははこの煩わしいとも
思える「肉体」をこそ
愛おしんで初めて、
幸せを感じているのかも
しれません。
私はまぎれもない
生粋の人間ですね。
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