今回ご紹介する一冊は、
角田 光代(かくた みつよ) 著
『愛がなんだ』です。
2003年に
ダ・ヴィンチブックスより
出版された
『愛がなんだ』は、
角田光代さんの
代表作品の一つです。
2019年4月には岸井ゆきのさん、
成田凌さん主演で映画化もされました。
この映画が実は、
女子に大ウケで、
満席はおろか立ち見が出るほど
だったといいます。
リピーター続出、
「語る会」なるものまで出現した、
そのわけとは一体何なのでしょうか。
それは原作である小説からも、
もちろん窺い知ることができます。
あまりにも自分と重なり過ぎて、
一人ひとりの経験は千差万別ながら、
場面場面のあるある感がすごすぎて、
痛みがわかりすぎて、
他にも誰かわかって
くれる人いるかな・・・と
つい声に出してしまう、
その声がまた次の声を呼ぶ、
そんな連鎖がこの作品にはあるようです。
登場人物に、
こういう人いるいる!と
自分自身や周りの誰かをあてはめ、
だけどこんな人には
絶対になりたくない!とも
客観的に思えてしまう、
そのギャップがまた、
この作品の大きな魅力とも
なっているのではないでしょうか。
目次
角田光代『愛がなんだ』 あらすじ
直木賞作家が描く、<全力疾走>片思い小説!
OLのテルコはマモちゃんにベタ惚れだ。彼から電話があれば仕事中に長電話、デートとなれば即退社。全てがマモちゃん最優先で会社もクビ寸前。濃密な筆致で綴られる、全力疾走片思い小説。
28歳独身の山田テルコは、
あるパーティーで知り会った
田中守をマモちゃんと呼び、
一途に世話を焼き始めます。
一人暮らしの守が風邪で
寝込んだと電話があれば
すっ飛んでいき、
途中で買った材料で
煮込みうどんを作り、
風呂掃除をし、ごみを分別。
その最中に突然もう帰ってと
言われれば、黙って帰り、
後日飲みに誘われれば
またすっ飛んでいき、
友だちよりもプライベートよりも
仕事よりもマモちゃん優先。
いつ連絡がくるかわからない
携帯電話を肌身離さず、
誘いや頼み事には
絶対にノーと言わず、
マモちゃん第一の生活を
送っていました。
でも不思議なことに、
二人は恋人ではないのです。
そしてある日、
いつものように守の部屋で
朝を迎えたテルコは、
なぜか守に追い出されます。
テルコには、
その理由がどうしても
わかりません。
友達の葉子は、
そんなオレさま男やめなさいと
アドバイスするのですが、
葉子にはナカハラくんという男
がくっついていて、
これがまた葉子のためなら
何でもする、
いつでも葉子のために
待機しているという、
男版テルコのような状態でした。
そんな中、
守に呼び出されたテルコは、
いそいそとそこへ行ってみると
すみれという女を
守から紹介されます。
角田光代『愛がなんだ』 痛いテルコと憎いマモちゃんにあるあるとイライラ
そういうの、
都合のいい女っていうのよ。
と葉子に言われても、
マモちゃんを好きなんだから
何が悪い?ぐらいにしか
思っていないテルコ。
女性誌などでも、
誇りをもって、
男の言いなりになる恋愛
などするな!と、
よくそんなテーマが
取り上げられますが、
それはきっと、
無自覚に或いは望まずとも、
そうなってしまって
苦しんでいる女性が
あまりにも多いせいでは
ないでしょうか。
テルコは痛々しすぎて、
もう本当に目を覚ませよ!と
言いたくなりますが、
そんなことは絶対に無理で、
一方、無神経にテルコを
傷つけすぎる守もまた意図的
でないところが、
余計に腹立たしくもなります。
二人は最初から恋人でもなく、
今や愛とか恋とかそんなものは
もうとっくに通り越して、
それでも続く守への執着。
同じ境遇にいるナカハラも、
よくわからない理屈を
こねくり回して、
葉子を好きでいることをやめる!
とあえて宣言して離れて
いかなければ離れられないくらい、
自由奔放な葉子に執着し、
プライドも何もかもが
ズタボロでも、
何はさておき葉子、葉子。
役に立てればそれだけで
いいのでした。
人はなぜこんなことに
なってしまうのか・・・
人が人をここまでに
させてしまうのは、
一体何の力が作用している
のでしょう?
わからないですね。
わからないもどかしさが絶妙に、
登場人物のセリフや心理や
一挙手一投足に込められていて、
あるある感とイライラが
たまらないです。
角田光代『愛がなんだ』 サバサバ系女子の出現。だけど
テルコを都合よく引きずり
回しているだけの守かと思えば、
実は守自身も片思いをしています。
その相手というのがすみれ。
学校の事務という地味な仕事
をしていながら、
とてつもなく目立つ
一風変わった恰好をしている
すみれは、
誰とでも広く浅く仲良くなり、
人と煮詰まった関係に
なりたくないといい、
誰とでも楽しそうにワイワイ騒ぎ、
気遣いなどまったくなく、
人前でも平気で
しょっちゅう煙草を吸い、
あけっぴろげで雑で、
飲めばへべれけになり、
下ネタバリバリで、
悩みなど一切なさそうで、
世にいう明るい
サバサバ系女子です。
守のことなどまったく
眼中にないのに、
守はこの女が好きだと言います。
テルコはそれを守本人から
告げられました。
「5周ぐらい先回りして気を遣うようなところが苦手」
と守に言われたテルコとは対照的に、
そのサバサバしているところが
好きらしい・・・
どこがいいのか?と、
テルコはすみれを細かく
観察し分析していきます。
「でも、この人はものすごくひとりぼっちなのかもしれない。本当の友達なんかいなくて、好きになるということも、好きになられるということも、知らないのかもしれない。」
「この人が私に近づくのも、マモちゃんとのあいだに私を介在させようとするのも、結局、自分というものの輪郭を自覚したいからなんじゃないか。」
そう考えるとテルコは
すみれを憎めなくなるのでした。
一人に吸い寄せられて
深みにはまって身動きが
とれなくなるテルコと、
そうならないように
浅いところでサバサバして
みせても本当は薄っぺらいだけで
孤独だし満たされていないすみれは、
実は同じ寂しさという
共通項でくくられている
のかもしれません。
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