綿矢りさ『かわいそうだね?』あらすじと感想!【大江健三郎賞受賞作】
高校在学中に『インストール』
第38回文藝賞を受賞されたことでも有名な
綿矢りささんの『かわいそうだね?』
今回はご紹介します。
この作品は、
2012年の大江健三郎賞を受賞しています。
綿矢りささんは、
第130回芥川賞『蹴りたい背中』で受賞
されたことでも知られており、
今後の日本文学界を背負って立つ存在
と言っても過言ではないでしょう。
1984年生まれとまだ若く、
青春小説や恋愛小説を主として
活動されていますが、
この『かわいそうだね?』も、
若者の恋愛を描いた小説です。
と言っても、ストーリーに重きを置く
娯楽小説とは一線を画していて、
若者の複雑な心情を巧みに描いています。
先程紹介した『蹴りたい背中』を読まれた方は、
「さびしさは鳴る。」という書き出しが
印象に残っている方もいるかもしれません。
そういった彼女独特の表現が読んでいて
とても心地いい作品です。
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綿矢りさ『かわいそうだね?』あらすじ

 

 

「許せないなら別れる」――彼氏が元彼女を居候させると言い出した。愛してるのは君だけ、と彼は言うけど……。週刊誌連載中から痛快なラストが話題を呼んだ表題作。そして、併録の「亜美ちゃんは美人」は、美人の親友が隣にいるせいでいつも“二番”に甘んじるしかない女子の複雑感情に「あるある!」と思わず頷いてしまう傑作。綿矢流の黒いユーモアと観察眼が光る恋愛小説。第6回(2012年)大江健三郎賞受賞作。

 

 

百貨店でブランドショップの店員をしている、

樹理恵という28歳の女性がこの物語の主人公です。

彼女は近頃とあることで悩んでいます。

それは、交際している隆大が女性を、

しかも元カノであるアキヨを

自宅に住まわせていることです。

彼女ではなく元カノと同棲する、

というのはとても不思議に思えますが、

実はアキヨは定職を見つけることができず、

仮住まいとして隆大の家に居候しているのでした。

隆大は樹理恵のことを愛していますが、

アキヨに対しても感謝をしていることから、

居候を許してくれるように樹理恵に願い出ます。

しかし、当然ながら樹理恵は納得がいかない上に、

浮気をしているのではないかと疑ってすらいます。

そして樹理恵は、アキヨに対する同情と、

自分の彼氏と同棲していることに対する不満とが

せめぎあったまま日々を過ごしていくのです。

色々な人に相談し、様々な意見を聞く中で、

樹理恵の感情も変化しますが、

正月休みで隆大と二人で行った旅行で、

決定的な出来事が起こってしまいます。

そして樹理恵は、とある行動を起こすのでした。

 

 

 

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作品の魅力

 

この作品の特徴はなんと言っても、

若い女性の感情を巧みに描いていることでしょう。

恋に悩み、彼氏に振り回される樹理恵の思いや考えは、

とてもフィクションの人物のそれだとは

思えないくらいです。

往々にして恋愛とは上手くいかないものですが、

樹理恵の姿にも読んでいてモヤモヤする

ところがあるかもしれません。

だからこそ、

最後に待ち受ける展開には

胸のすくものがあります。

作者自身が若い女性だからこそ描ける

リアルな感情を、

ぜひとも味わってほしいです。

 

 

 

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「かわいそう」という言葉

 

題名にも使われている「かわいそう」

という言葉は、

私たちも普段よく使う言葉です。

しかし、よくよく考えてみると

「かわいそう」という言葉は、

相手よりも上の立ち位置から、

同情や哀れみを向けているようにも

とれなくはありません。

「かわいそう」という言葉について、

その意味を考えさせてくれるのがこの作品です。

さらに、恋愛をメインとした小説でありながら、

時折震災の話が登場するなど、

普段何気なく過ごしている私たちの日常を

もう一度見つめ直すきっかけを与えてくれます。

ただの恋愛小説とはまた違った

読後感を感じさせる作品になっています。

 

 

 

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文章の魅力

 

飾らない、簡潔な文章であり、

すらすらと読めてしまうのが

綿矢りさの文章の特徴でしょう。

それでいて、しっかりと情報が詰まっていて、

彼女の文章力を読むだけで実感させられます。

また言葉の選び方や言い回しも、

気取らない上に的確で、

心地よく読むことができますし、

比喩にいたるまで芸術的かつ簡潔です。

この作品は主人公である樹理恵の

一人称視点で展開されますが、

彼女の思考や感情も、

とても分かりやすく描かれています。

そうした彼女の文章力こそが、

登場人物たちの心理を描くにあたって

更なる説得力を持たせているのではないでしょうか。

さすがは芥川賞作家と、

文章の端々に感嘆せずにはいられません。

 

 

 

 

 

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