山口恵以子『毒母ですが、なにか』感想とあらすじ!おすすめの異色作

 

本日ご紹介する一冊は、

山口恵以子

『毒母ですが、なにか』です。

 

彼女は社員食堂の

調理師さんとして

働きながら

小説家デビューした

異例の経歴を持つ

女性作家さん。

 

元・食堂のおばちゃんらしく、

食堂を舞台に人情たっぷり

愛情たっぷりの物語を描いた

「食堂のおばちゃんシリーズ」。

 

結婚に関する様々な悩み

を抱える男女を迎える

おでん屋女将・恵の事を

描く婚活食堂シリーズ。

 

彼女と言えば、

このシリーズを

代表するような

心温まるストーリーですね。

 

しかし『毒母ですが、なにか』は、

それら心温まるシリーズ

とは一線を画す、

山口氏の新境地と

言ってもいい作品

でございます。

 

 

 

 

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山口恵以子『毒母ですが、なにか』 りつ子と星良

 

 

娘は私の作品なの。私が作ったのよ――。
母と娘、嫁と姑、きょうだい格差、お受験……。
永遠にわかりあえない母娘を克明に描き出す、
「食堂のおばちゃん」シリーズ著者の新境地長編!

16歳で両親が事故死し孤児となったりつ子は、絶縁状態だった父の生家・財閥の玉垣家に引き取られる。贅沢な生活を送りながらも常に〈よそ者〉でしかない孤独感を紛らわすかのように勉強に励み、東大に合格。卒業後は名家の御曹司と結婚し、双子を出産する。すべてを手に入れたりつ子が次に欲したのは、子どもたちの成功だった――。永遠にわかりあえない母娘を克明に描き出す圧巻の長編!
『母は娘の人生を支配する―なぜ「母殺し」は難しいのか』、『母と娘はなぜこじれるのか』(共著)などを著した精神科医の斎藤環氏による解説も必読。

 

 

第一章。

この物語のスタートは

りつ子が2人の子供を

出産するところから

始まります。

 

双子の出産になり、

兄と妹、倫太郎と星良

(セラ)の2人です。

 

2人の子宝に、優しい夫・迪彦。

 

これだけならりつ子に

とっては理想的な生活が

待っているはずなのですが、

 

彼女には目の上のたんこぶ

がありました。

 

迪彦の母・允子です。

典型的な嫁と姑の関係ですね。

 

迪彦も完全に母の味方と

言うわけではありませんが、

いい年して「ママ」と

呼ぶマザコン性の高い

男性でした。

 

事あるごとにりつ子の言動

に苦言を呈す姑・允子。

 

最初私は読んでいて

『毒母ですが、なにか』の

「毒母」とはこの允子を

指しているのだと

思っていました。

 

確かに毒母であることは

間違いないのですが、

本当の毒母であるのは、

このりつ子の方です。

 

確かに、第一章で

その片鱗が見て取れます。

 

そもそも、毒母とは

誰にとって毒母なのか?

 

これは、娘の星良にとってです。

 

その時はあまり気に

留めないのですが、

最後まで読んで改めて

第一章を読むと、

 

星良に対するゆがんだ愛情

みたいなものが

見て取れるのです。

 

「セーラは『小公女』の主人公。父の死で過酷な運命に陥りながらも、誇りと勇気を失わずに生き、幸せを掴んだヒロイン・・・・」

 

こんなことを、赤ん坊の

星良に向かって思うのです。

 

ちょっと、ずれてますよね?

 

そして何より、

この父の死で過酷な

運命に陥ったというのは、

りつ子自身だったのです。

 

第二章で、

りつ子の過去が語られます。

 

りつ子は、高校1年の時に

両親を脱線事故で

亡くしていました。

 

そして、父方の実家

である玉垣家に

引き取られます。

 

そこは完全な上流階級でした。

 

その空気になじめず、

他の姉妹達が上流よろしく

エスカレーター式の

学習院に進学するなか、

 

りつ子は受験に励み、

東大に合格します。

 

しかし、時代は昭和。

東大を卒業しても、

就職先で待っている

女性の仕事は、

事務やお茶くみくらい。

 

りつ子は、そんな自分

に我慢できず、

婚活に励み、

名家の長男迪彦を

射止めるのです。

 

そして産んだのが、

倫太郎と星良でした。

 

 

 

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山口恵以子『毒母ですが、なにか』 こんなはずじゃなかった

 

りつ子はある意味

わかりやすい女性です。

 

非常に高いプライドゆえ、

周囲から卑下されるのが

我慢ならない。

 

その感情をエンジンに

「こんなはずじゃなかった」

という状況を、

努力で切り抜けてきたのです。

 

しかし、彼女をもってして

どうしても

「こんなはずじゃなかった」

のは、娘の星良でした。

 

迪彦の実家である

名家大鷲家の女性陣は、

代々子供に小学受験を

受けさせる家系です。

 

周囲の人間が自分よりも

上の立場に立つことを

何よりも許せないりつ子。

 

自分の子供達が、

他の親の子供に負ける事

さえ許せません。

 

はじめ小学校受験に

興味などなかったりつ子は、

倫太郎と星良の2人に

小学校受験のために

熟通いをするよう命じます。

 

決して2人の将来の

ためではなく、

自分自身の虚栄心のためです。

 

倫太郎の方は、本番にも強く、

難関小学校を次々に合格。

 

りつ子にとっては

鼻高々な息子でした。

 

しかし、星良は塾での

成績はいいのですが、

本番に弱い子供でした。

 

本番直前に熱を出して

しまったり、

試験会場で吐いてしまったり。。

 

りつ子は面白くありません。

 

倫太郎と比べて、

出来損ないの星良。

 

「こんなはずじゃなかった」

星良に対し、

手を出すシーンも

多々出てきます。

 

結局、星良は市立の

小学校に通う事になりました。

 

その後も、

りつ子にとっては

「こんなはずじゃなかった」

事が起こります。

 

倫太郎の死と、

迪彦との離婚です。

 

そして迪彦と離婚した時、

りつ子が星良に放った

一言が実に酷い!

 

余りのひどさに溜息が

出てしまうほどです。

 

救われるのは、

星良が物心つき、

母親に抵抗できるように

なっていたこと。

 

まさか虐待死という結末が

待っているのではと

思ってしまうのですが、

そんなことはありません。

 

 

 

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山口恵以子『毒母ですが、なにか』 スカッと?する結末

 

Amazonなどのレビューでは、

「救われない結末」

「読んでいて気分が暗くなる」

とありました。

 

確かに、娘へ何度も

手を出すシーンや、

暴言の数々は読んでいて

気分のいいものでは

ありません。

 

食堂のおばちゃんシリーズ

の読者は離れていく

のではないでしょうか?

 

半沢直樹の見過ぎ?読みすぎ?

のせいか、

最後の逆襲を期待しながら

読みましたが、

 

やっぱりありました!

これで少し救われましたね。

 

しかし、この物語の主人公は、

やはりりつ子でした。

 

『毒母ですが、なにか』って

こういう事だったのねと、

最後に分かります。

 

りつ子は、

どこまでいってもりつ子。

 

「こんなはずじゃなかった」

という状況を自らの努力で

切り抜ける姿勢は、

なんと一貫していることか。

 

読んでイラついて

しょうがなかったりつ子に対し、

一種の尊敬の念も

出てきてしまう不思議な小説。

 

是非、ご一読ください。

 

 

 

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