大山誠一郎『アリバイ崩し承ります』あらすじと感想!混じり気排除で謎解きに専念した作品

 

以前、音楽チャンネルのミュージックビデオを

垂れ流す番組を見ていて、

腰を抜かしそうになったことがあります。

そのとき、流れていたのは『花の唄』。

Aimerさんの曲で、

Fateシリーズの劇場版「Heaven's Feel」

の主題歌と言えば、

ああ、とうなずいてくれる方も多いでしょう。

もっとも、この「ああ」、あの曲ね、

の「ああ」じゃないかも知れません。

もちろん『花の唄』はすばらしい曲ですが、

そういうことじゃないんだよ、ということです。

お察しでしょうか。

筆者を瞠目せしめたのは主演の女性、

というか女のコです。

実は、浜辺美波さんの名前を筆者は

そのとき始めて知ったのでした。

少し旧聞ですが、その浜辺さんが

美谷時乃(みたにときの)を演じて主役を勤めた

ドラマの原作

大山 誠一郎

『アリバイ崩し承ります』

を今回ご紹介します。

 

 

 

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「時計修理、アリバイ崩し承ります」

 

連続TVドラマ化!(出演 浜辺美波 安田 顕/テレビ朝日系 2020年1月クール)
本格ミステリ・ベスト10 2019原書房  第1位!

美しき時計屋探偵が、事件や謎を解決!?
時を戻すことができました
アリバイは、崩れました!

美谷時計店には「時計修理承ります」とともに「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。難事件に頭を悩ませる新米刑事はアリバイ崩しを依頼する。ストーカーと化した元夫のアリバイ、郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ……7つの事件や謎を、店主の美谷時乃は解決できるのか!? 「2019本格ミステリ・ベスト10」第1位の人気作、待望の文庫化! 解説/乾くるみ

乾くるみ(小説家)さん絶賛!
「本書を通じて、謎解き小説の面白さに目覚めてもらいたい」
「唸り、仰け反り、ひざを打ち、最後には拍手喝采してしまいました」宇田川拓也 ときわ書房本店
「大山節が炸裂している。全てが驚かされるぞ」三島政幸 啓文社ゆめタウン呉店店長
「本格推理小説界の新たなる安楽椅子探偵に惜しみない拍手を送ります」井上哲也 大垣書店豊中緑丘店

 

交番勤務から県警捜査一課に異動したばかりの、

新米刑事の「僕」は電池交換をしてもらおうと、

たまたま入った時計店で

「アリバイ崩し承ります」

という奇妙な張り紙を見つける。

不審に思い、店主だというまだ若い女性・美谷時乃

に尋ねると「アリバイの根拠になっているのは時計」で、

「時計に関することのご依頼は

何でも引き受けるのが先代以来の店の方針」

と訳の分かったような分からないような説明

をされてしまう。

けれど今関わっている事件で容疑者のアリバイを崩せず、

煮詰まっていた僕は地方公務員法に引っかかるぞ、

と思いながらも、

つい時乃にアリバイ崩しを依頼してしまう――。

短編連作である『アリバイ崩し承ります』の第1話

『時計屋探偵とストーカーのアリバイ』

はこんな具合に始まるのですが、

これがこの連作の基本型となります。

探偵役は、時計(時間)に関することは

何でも時計屋の仕事、という強引な理屈で

「アリバイ崩しを承る」時計屋の美少女

(二十歳過ぎとされていますが、

浜辺さんが演じても不思議でない印象なので)で、

彼女に事件を持ち込むのは

新米刑事の僕の役目となります。

当然のことながら連作で扱われる謎は全てアリバイ崩し

(第4話『時計や探偵と失われたアリバイ』

はアリバイ探し)です。

また時乃嬢は典型的な安楽椅子探偵

(アームチェアディテクティヴ)で、

全てのお話で、時計店から一歩も出ることなく、

僕の話を聞くだけで謎を解き明かします。

鮮やかですが、彼女にアクションなど

期待する向きには少し残念かも知れません。

ところで第1話の事件の謎がどんなだったかというと、

ギャンブル好きの元夫に付きまとわれていた

大学教授が殺されて、と始まります。

当然元夫の犯行としか考えられないのに、

死亡推定時刻に彼は近所の

酒場で飲んでいたという、

崩せそうで崩せないアリバイがある。

依頼を受けた時乃は、

教授が勧められた饅頭を食べなかったという

些細な事実から推理を組み立て、

意外過ぎる事件の真相を暴いてみせるのです。

 

 

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夾雑物(きょうざつぶつ)

 

「大山ミステリではそれ以外の要素が排除されている」

「謎解きとは無縁の記述(……)は夾雑物とみなされる」

 

とは作者の大山誠一郎氏の他の著作

(『アルファベット・パズラーズ』)

の巻末解説(福井健太氏による)

からの引用です。

『アリバイ崩し承ります』も、

こう断言されてしまうと

うなずくしかないようなところがあります。

時乃嬢のキュートさにごまかされてしまいがちですが、

個々の事件に目を向けてみると、

事件のあらましに直接関係しない部分の

描写に適当感があるんですね。

普通のミステリでは作者の気合いが

いちばん入る動機や、

被害者や犯人の性格描写を

さっくり流している感じです。

そういうことに作者の関心が向いてないのは

確かのようです。

だから犯罪に繋がる入り組んだ人間関係や、

そこにわだかまるドロドロの情念が

読みたい読者には向いてないかも知れません。

それでもパズル至上主義のミステリ作家

としてよく例に挙げられる、

数学者作家の天城一

(祝『密室犯罪学教程』初文庫化予定)とか、

SF界の異才ジョン・スラディック氏あたりの著作に比べると、

リーダビリティはずっと高くて、

なによりキュートだと思います。

 

 

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点とか線とか

 

ところでアリバイ崩しをメインにした

ミステリというと、

あなたは最初に何を連想するでしょうか?

ここは是非とも『点と線』

答えてもらいたいところです

(鬼貫警部シリーズでもいいですよ)。

この名作を念頭にこの連作を見返すと、

意外なことに気付きます。

『アリバイ崩し承ります』は

アリバイトリックのみを扱う連作集です。

にもかかわらず一回も

「時刻表」が出てこないんです。

アリバイ崩しにおける時刻表というと

「14時36分、6番ホームで、出会わないはずの、

上がり急行と14時発の快速が一瞬だけすれ違う」

とかやるあれです。

アリバイ崩しというとこの時刻表トリックが

王道と考える人は多いでしょうし、

そう考えるのが当然と思えるだけの

名作が書かれています。

なのに『アリバイ崩し承ります』には

時刻表トリックが使われていない。

そう思って本作のトリックを眺めてみると、

これがおもしろい。

これ密室のトリックの応用じゃないのかと、

そんな気がするんですね。

いわゆる四次元密室

(犯行は部屋が閉ざされた時間ではなく、

開かれている時間に行われた)

の要諦は犯行時刻を誤認させることに

ありますから、

これをアリバイトリックにも応用できる

ということかも知れません。

先も名前を出した

天城一氏が『密室犯罪学教程』の理論編で、

その逆のパターンについて考察してたりするので、

そこまでユニークなことじゃないかも知れませんが。

最後の筆者が個人的にいちばん好きな話を。

それは第6話『時計屋探偵と山荘のアリバイ』です。

このお話、アリバイ崩しなのに「雪の密室」なんですね。

つまり雪上に残された足跡から、

ある時刻以降に殺害現場への出入りは不可能で、

故に犯人ではあり得ない一人を除いて

容疑者全員にアリバイが成立してしまう

と言うお話です。

さて、この雪密室アリバイを時乃はどう崩すのか?

ぜひ本の方でチェックしてみてください。

 

 

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