今回ご紹介する一冊は、
酉島 伝法(とりしま でんぽう)著
『るん(笑)』です。
酉島伝法さんは
SF作家でイラストレーター、デザイナーです。
その作品には『るん(笑)』の他に
『皆勤の徒』、『洞の街』
『黙唱』などがあります。
酉島伝法さんの世界はなにかしら
独特なものがあり
特に『皆勤の徒』は表題作を途中まで読んで
挫折しそうになり
解説ページを開いた人には
4作目を先に読むことをお勧めする
とあるくらい、SFらしい作品で
解説を読んで設定を理解してから読むと
より面白いそうです。
『るん(笑)』もまた独特の世界観があり、
平熱が38℃でそれ以上ないと
力が発揮できないというあたりに
霊的な不思議さも感じもあり、
血液型・星座などからの人間観察も
楽しんでいるようでもあります。
ただ薬に頼るのではなく
自己の免疫力を信じることも大切だと
教えてくれているようで
自分自身の力も信じてみようと思える私も
ハマっているのかもしれません。
酉島伝法『るん(笑)』は、
こちらからすぐに読めますよ♪↓
目次
酉島伝法『るん(笑)』 三十八度通り
スピリチュアルと科学が逆転した、心の絆が生み出すユートピア・ニッポン! 結婚式場に勤める土屋は、38度の熱が続いていた。解熱剤を飲もうとすると妻の真弓に「免疫力の気持ち、なぜ考えてあげない」と責められる。……「三十八度通り」 平熱は38度で、病気の原因はクスリを飲むこと。お祈りですべての病気を治す世界で繰り広げられる、誰もが幸せなディストピア。『皆勤の徒』『宿借りの星』で日本SF大賞を2度受賞した期待の星による、連作小説集。
38℃の熱が続いていたので
妻に隠れて残っていた解熱剤を
服用したときに彼女に
「どうして自分の体を信じで上げないの!」
「まさかそんなものにたよっていただなんて」
と悲しませる結果となってしまったのです。
考えてみれば彼女は発熱に共鳴する
イエロージャスミンの根をすりおろし
アクアを注いで限りなく薄めて
攪拌した愈水(ゆすい)という
心縁どうしの間で作り方の広まった
免疫力を高める水を作ってくれていたのです。
その愈水はそもそもごく親しい人間が
心から愛情をこめて作らない限り
愈効の成分がうまく熟成しないことからも
夫の体調が思うようにすぐれないことに
悩んでいたので、
解熱剤を服用した姿に幻滅するのは
仕方ありません。
38℃の熱というほんの微熱とはいえ、
霊障は長引くと辛く、
元素でいえばストロンチウムで炎は赤色です。
牡羊座は火のエレメントで
衣服を身に着ける際は
火の気の強い化成は避けたほうがよく
現在の状況を打破するためにも
お墓参りに行くことが必要などと
隣人にまで言われてしまう始末です。
夢うつつのなかで時間が過ぎで気づくと
平熱は38℃に引き上げられるなんて
かなり驚きです。
酉島伝法『るん(笑)』 千羽びらき
「おかあさん、こんな病気になってしまって」
と謝り始めると真弓は
「だめじゃない、そんな波長の悪い疒(やまいだれ)なんかとって丙気(へいき)といわないと。そうすれば平気になってくるでしょう」
と母を元気づけます。
このまま入院していては
牛乳やヨーグルトのように
もともと人間が食べるように
できていないものを食べて
ますます状態が悪くなってしまうと考えた
真弓は母を退院させることにします。
母を家に戻すと真弓は岩盤浴寝具一式だと
説明した部屋で彼女を休ませることにします。
その後『るん(笑)』という
邪気を祓う力を秘めた
強い言葉で必ず笑顔で明るくほっこり
とした気落ちでいることが重要という
治療法を始めることになります。
その教えの中に
内なる獣は、時に凶暴さを露わにして
食らいついてきますが、慈愛をもって接し、
うまく心を通わせることができれば
世話は大変ながらそれ以上の喜びを与えてくれる
ペットのごとく、ともに幸せな人生を歩むことができる
といい『るん(笑)』を
ペットのように接していくことを
勧められたのです。
それにしても疒(やまいだれ)を外す
という考え方はまさに
「病は気から」ですね。
酉島伝法『るん(笑)』 猫の舌と宇宙
真弓の甥の真(まこと)は
小学校の先生に
「このところ、どうも君の字は乱れているようだから」
と注意を受けます。
「心が乱れているとそのまま字に表れるものだからね。
乱という漢字に舌があることに気づいていたかい?字と言葉と心は不可分だ。
筆跡からすると、君はもうほぼ別人といってもいいくらいだよ」
と言いながら真の書いた文字を
みせながら説明してくれたのです。
真の血液型がA型なのに
書いている文字はAB型の人が
書いたみたいにちぐはぐになっているので
この場合、両親との関係で悩んでいるか
可能性があると心配したのもあり
彼を引き留めて話したようです。
でもその指摘は真の心に響くことは
なかったようです。
真は友人と「すづか山」
(不死の龍が代わりに死んでくれた人間が
死なずに旅立てるようになったので
龍を祀っている山)
の話をして友人が引っ越す前に
一度登ってみようという話になったのです。
龍に祟られるということから
封鎖されているのに登ろうと考える
小学生のすごさを感じます。
「すづか山」に銀杏を踏まないように
気を付けながら登っていくと
彼らはねこ(?)を発見します。
ところで“ラングドシャ”って
“ねこの舌”って知っていましたか。
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