今回ご紹介する一冊は、
喜多 みどり 著
『弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇』
です。
「おもてなしの本質を教えてくれる」、
一言で表現すると
そのような本です。
舞台は、とある町にある
小さなお弁当屋さん
という決して派手さは無い
非常に身近な設定なのですが、
だからこそより近い存在
として
読者も物語の中に入り込める
のだと思います。
弁当屋さんの従業員と
そこを利用するお客様で
繰り広げられるいくつもの
ストーリーは、
現代の社会に足りていない、
または薄れてしまっている
「人と人とのつながり」
や
「人を想う気持ち」の大切さを
改めて私たちに教えてくれる
ものばかりです。
心の奥からじんわりと
染みてくる温かさは、
まさにこれが日本ならでは
のおもてなしであると、
いつの間にか日本人であること
の喜びさえ感じさせてくれる
スケールにまで
発展していきます。
人間関係に悩んでいる人、
何かをリセットしたいと
考えている人、
接客業に携わっている人など、
幅広い様々な立場の人に
ぜひおすすめの本です。
私が影響を受けた名場面を
ご紹介しながら、
この本の魅力を
お伝えしていきます。
目次
喜多みどり『弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇』 自分は役に立ったのだ
冬の北海道・札幌。ミステリアスな美女に薦められて『くま弁』を訪れた失業中の雪緒。そこで偶然食べたお弁当の美味しさと店主夫婦の温かさに惚れ込み、雪緒は次の仕事が決まるまで宅配のアルバイトをすることに! 最初の配達先は『くま弁』を薦めてくれた女性宅。現在人前に出られない理由があると言う彼女は「自分の願いがわからなくなった」と落ち込む。その様子を見た雪緒は少しでも力になりたいと、ある考えを思いついて?
主人公の雪緒(ゆきお)が、
後輩を救うことができなかった
後悔で会社を辞め、
アルバイトを探すという場面
から物語は始まります。
そこで偶然にも出会った
お弁当屋さん。
そこのお弁当を食べると
なんだか張りつめていたもの
がほぐれ、
良い意味で肩の力が抜けていく
ように感じられるのです。
このお弁当の力に魅了された
雪緒はこれまた偶然にも
このお弁当屋さんで
働くことができ、
最初のお客様としてある
問題を抱えている
人気ローカルアイドル・黒川茜
の家にお弁当を配達に
行くことのなるのです。
ただの店員と客という
関係なのですが、
偶然にも似たような境遇で、
同じような悩みを抱えていたことで
この二人はその後に
かけがえのない関係となり、
長く付き合っていく
ことになります。
そのきっかけは、
店長がお弁当に込めた想いと、
少しの会話から感じた黒川茜
への素直な想い、
この2つの想いを紙に書いて
渡したことでした。
その紙を見た黒川は
今まで見せなかった笑顔の表情に
変わり、
「次もまたお願いね」と配達を
任されることになるのです。
そう、自分が誰かの役に立ったのです。
想いを素直に相手に伝えること、
変にひねったりせずに
ストレートに伝えること、
このことの大切さを
読者に教えてくれます。
この章の最後には、
雪緒の目線ではなく、
黒川茜の目線でのストーリーも
描かれていて、
なぜ雪緒に心を開いたかを
知ることができ、
それがまた面白く、非
常に勉強になります。
喜多みどり『弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇』 たとえばくま弁で働き続けるとして、その未来に何があるのだろうか
主人公の雪緒は、
ある日辞めた会社から
おにぎりの注文を受け
配達することになるのです。
しかも注文をさせたのは
辞める直接の原因となった
大嫌いな同期であると勘付くのです。
そこで雪緒が取った行動は、
おにぎりの他に注文されていない
沢庵を添えることでした。
そしてそれは、
大嫌いな同期が喜ぶと
想像しての配慮でした。
嫌悪感を抱いていた
同期であるはずなのに、
なぜその人を喜ばせよう
としたのでしょうか。
もちろんそこに行きつくまでには
色々な葛藤も描かれていて
一筋縄ではいっていないのですが、
最大の理由は
「おにぎりの注文を命じられた部下を助けてあげたい」
想いでした。
果たしてお弁当屋さんの
いちスタッフが、
この辺りの背景や事情にまで
配慮する必要があるのでしょうか。
でもこのお弁当屋さんは、
わざわざそういった部分に時間を割き、
とことん人を喜ばせることを
考え実行するのです。
結果、見事に雪緒の想いは通じ、
多くの人に喜んでもらうことが
できたのです。
この出来事がきっかけで雪緒は、
真っ暗闇だと思っていた未来に
何か少しの灯りを見つけること
ができたような気が
してくるのです。
自分の仕事は何のために
やっているのだろうか、
そして将来は何を目指せば
良いのだろうかと、
つい悲観的になりがちなのですが、
この物語を読むと、
自分の仕事の意義について
前向きに考えることができ、
心がふっと軽くなる
のを感じられます。
喜多みどり『弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇』 大丈夫、小さなことから始めよう
この本の最後の章は、
疎遠になっていた黒川茜と
父親の関係性が昔のように
元に戻るという感動的なシーン
が描かれています。
ここでも一役買ったのが
主人公であるお弁当屋さん
の雪緒です。
思い出に縛られていた茜に対して
新しい思い出を自ら作ることで、
昔の思い出も更新して
しまおうと提案するのです。
この提案が功を奏し、
父と娘の関係を修復し、
今までは素直になれなかった
二人がお互い素直に気持ちを
伝えられるようにまでなる場面は、
涙なしでは語れません。
さらにこの出来事が、
雪緒自身にも良い方向へ
進むきっかけとなるのです。
失ってしまった願いは
いまだ見つかっていないものの、
それでも歩いて行けると
思えるようになったのです。
前を向いて、時々どっちが
前だかも分からなくなって、
もがいて、生きていけるのだ。
そう思えるようになったのです。
たかが一人のお弁当屋さんで、
お弁当をお客様に届けるだけ
の仕事なのに、
常に誰かを喜ばせたい、
お弁当を美味しく食べて
もらいたいという想いを
忘れなければ、
色々な出会いがあり、
そこから始まる物語がある。
そんなことをこの作品を通じて
かみしめることができるでしょう。
主人公の雪緒や茜のように、
小さなことから初めて、
それをコツコツと
積み重ねていきましょう。
その先には必ず道が
続いていくはずです。
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