黒川博行『後妻業』孤独を色で惑わす欲望の世界を直木賞作家が描く!映画版も

黒川博行氏の作品は、作中で交わされるテンポのよい関西弁も相まって、

他長編作品と比べてスラスラ読めてしまうから不思議です。

疫病神シリーズもいいですが、後妻業のようなより身近に潜む犯罪を主題に

書いてくれる点も、よりその世界に没頭する事を助けてくれます。

映画化と2019年1月22日から同年3月19日までテレビドラマ化

もされてはいる本作ですが、お勧めは断然小説ですね。

映画ではコメディチックに描かれているところもあり、

あくまでも好みですが、それでは黒川作品の世界観を

忠実に再現出来ていないのでは、と思ってしまいます。

後妻業という聞きなれない「稼業」をテーマにして、

欲望渦巻くドロドロの人間ドラマを描いた「後妻業(ごさいぎょう)」

黒川氏の2014年の作品です。

実際に起こった関西青酸連続死事件に本書の題名が

用いられることがあるそうです。(Wikipediaより)

老後、孤独と色に惑わされないためにも、

読んでおいた方がよい人生の指南書になるかもしれません。

 

 

 

 

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表紙に描かれた老人の表情を見よ

大竹しのぶ (出演), 豊川悦司 (出演), 鶴橋康夫 (監督)
木村佳乃 (出演), 高橋克典 (出演)

 

 

妻に先立たれた後期高齢者の耕造は、六十九歳の小夜子を後妻に迎えていた。ある日、耕造は脳梗塞で倒れ、一命を取り留めるも喋れない状態に陥る。耕造の遺産を狙う小夜子は、結婚相談所を経営する柏木と結託し、早急に耕造の金庫から銀行の総合口座通帳と銀行印を奪い取り、三千九百万円をあっさり手にした二人。数日後、耕造の容体が急変する。耕造の娘である尚子、朋美は病院へ駆けつけるが、そこにはすでに小夜子の姿が――。

今作は、前科持ちの結婚相談所の所長柏木と、海千山千の女性小夜子がコンビを組んで、妻に先立たれた老年の資産家男性たちをターゲットに、彼らの遺産を狙う、その名も「後妻業」。そのやり口は、籍を入れることなく、自らの家財を運び込み、実質的な妻として振るまうことで、妻としての地位を確立し、ひそかに、遺言書を作成してしまうというやり口だった。そして、頃合いを見て、男性を殺害し、遺産は山分けをする。順調に行っていたかに見えた「後妻業」の影に横たわる資産家たちの不審死の闇。遺族も気づかなかったその巧妙なやり口に、遺族とその同級生の弁護士も気づくのだが……。内情は真っ黒な行政書士、元刑事の興信所所員、ムショ帰りの小夜子の兄、そして柏木の知られざる過去などが絡み、ストーリーは思わぬ方向へと転がっていく。

 

 

真っ黒な背景に、高齢男性の横顔。

「後妻業」の表紙絵です。

この老人、歯を噛み締めて、こめかみに大きな血管が浮き出ています。

その表情から読み取れるのは悲しみか、失望か、怒りか、悔しさか。

誰が見ても、苦しんでいることは分かります。

なぜか。その表情の真横に白字で書かれた「後妻業」という

聞きなれない稼業ゆえでした。

後妻業と言うのは、法律家の間ではよく聞く用語らしく、

資産家の老人と親密になり、その老人の死後遺産を手に入れる「稼業」のことです。

この意味を知ったとき、以前ワイドショーで騒がれた

「紀州のドンファン」を思い出してしまいました。

物語は、後妻業を生業とする69歳の女性、武内小夜子が、

結婚相談所を営む柏木という男と結託し、不動産・株式など

多くの資産を持つ中瀬耕造を「片づける」ところからスタートします。

まるで作業のように老人を殺す武内小夜子。

そこに罪悪感はなく、遺産を手に入れるための手段の一つ

としか思っていないような女です。

 

 

 

 

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キーワードは「公正証書」

 

中瀬耕造の死後、遺産のほとんどを手に入れようとする武内小夜子ですが、

当然中瀬の身内は納得がいきません。

中瀬の娘の尚子と朋美は、知り合いの弁護士に相談します。

武内小夜子と中瀬耕造は籍を入れていない。

それなのにどうして遺産相続の権利があるのかというと、

公正証書という証書を小夜子が持っているからです。

多くの人に馴染みがないであろうこの公正証書。

書面に法的な効力を持たせるため公証役場が発行する書面です。

小夜子は、耕造の生前にこの公正証書を作らせ、

その遺産のほとんどを小夜子に相続させるよう法的後ろ盾を得ていたのです。

尚子と朋美だけでは、この小夜子にも、公正証書にも太刀打ちできません。

朋美は知り合いの弁護士である守屋に助けを求めるのですが、

その守屋から司法書士の深町、その深町の元で探偵を営む本多、

本多の情報屋である警察の橋口など、個性豊かなメンバーが揃ってくるのです。

この公正証書は、覆せない程の効力を持ちます。

ゆえに、小夜子の過去、現在を探り、小夜子の素性をまるで砂山崩しのように、

どんどん暴いていくのです。

 

 

 

 

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怒涛のスピード感で展開する中盤から後半が読み手を熱くする

 

その砂山崩しの中心を担うのが、元警察の本多。

本作の前半は小夜子にやられる尚子と朋美が中心に描かれているのですが、

中盤から後半は本多が武内小夜子を軸とした後妻業を営むグループをどんどん追い詰めていきます。

本多の行動力がとにかく凄い。小夜子の後妻業によるかつての被害者の家族、

柏木の女、などなど様々なつてを辿り、段々とゴールに近づいていくのです。

そして追い詰められる小夜子と柏木。その過程にドキドキしたり、

痛快な気分を味わえます。

上述の公正証書や遺留分減請求、不動産関連の登記簿謄本など、

普通だと慣れない言葉がとめどなく出てきます。

しかし、なぜか作品全体に暗い雰囲気はないんですよね。

尚子と朋美、小夜子と柏木、本多と橋口、それぞれの掛け合いが

まるでボケとツッコミのように進んでいくからかもしれません。

そして黒川作品らしく、正義の味方なんていない。

浪速の商人よろしく全て金のため。それが逆にいさぎよい。

欲にかられた人間たちによる、抜きつ抜かれつ、騙し騙されつの物語。

大阪弁の疾走感で、あっという間に読了してしまう事間違いなしの1冊です。

 

大竹しのぶ (出演), 豊川悦司 (出演), 鶴橋康夫 (監督)
木村佳乃 (出演), 高橋克典 (出演)

 

 

 

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