今回ご紹介する一冊は、
新堂 冬樹(しんどう ふゆき) 著
『誘拐ファミリー』です。
「誘拐」を仕事にする「ファミリー」、
という設定で描かれる不思議な小説です。
サスペンス小説でありながら、
「ファミリー」というだけあって
家族間の人間関係も丁寧に
描写されています。
おもしろ設定を楽しむもよし、
人間関係のいろいろに
ホッコリするもよし。
とても読み応えのある作品になっています。
新堂冬樹『誘拐ファミリー』が
目次
新堂冬樹『誘拐ファミリー』 誘拐する側が主人公になった面白ストーリー
誘拐が七十年続く浅井家の家業。固い絆で結ばれる一家六人だったが、跡目を巡って長兄、次兄が反目しあっていた。家長は決着をつけようと、二人を競わせる課題を出す。それは、ある巨大教団の幹部二人を誘拐し身代金をせしめることだった。この課題が浅井家を二分する争いに発展する――。長編犯罪小説。
誘拐を題材とするような
ミステリー小説というのは、
だいたいは誘拐「される」側を
中心に描かれることが多いものですが、
本作品は誘拐「する」側を
主人公として描かれます。
誘拐はもちろん悪いことですが、
誘拐する側はする側で
それなりの事情がある。
そこにスポットライトを
当てた作品です。
浅井家は、家族みんなで
「誘拐」を仕事にしています。
世の中的に成敗をうけるべき人物であって、
かつ身代金をしっかり稼げそうな人を
ターゲットとして決め、
家族6名みんなで連携して誘拐実行します。
無事に身代金を得ることができたら、
それはみんなでキッチリ山分け。
年上も年下もなく、誰が活躍したとかも
関係なく報酬として配られます。
親子関係はキッチリ残っているけど
仕事のうえではみな対等、
それが浅井家のルールです。
1代目、2代目ときて
次の後継者を誰にするのか、
長男と次男のどちらが3代目
となるのかが今のみんなの関心事。
家族みんながお互いのこと、
そして浅井家全体として
存続していくために良かれと思って動くことで、
家族がバラバラになっていきそうに。
誘拐に向けて動きながら、
無事に浅井家が一丸となってやっていけるのか
を試されるような展開に、
ふたつの意味でハラハラしながら
ストーリーが展開されていきます。
新堂冬樹『誘拐ファミリー』 悪行だけど正義感あるルール設定
誘拐を生業とする浅井家。
実際に誘拐ターゲットを決めるときには
決まりがあります。
それは「成敗されるべき人物を狙う」
ということ。
生業ですから、浅井家は生きていくのに
必要なお金を稼ぐために
誘拐をしているのですが、
だからといって誰彼構わず狙うのではなく
「悪いヤツ」を狙う、
というところに面白い違和感を感じました。
「悪いヤツほどお金をせしめている」
という構図が暗示されているようで、
それは必ずしも真実ではないと思いますが、
そんな一般的な見方がサラッと
反映されているように思います。
また、誘拐をするにあたっても
不思議なルールがあります。
誘拐をする以上、なんでもアリかと
思いがちですが、
浅井家のルールでは殺人や薬物利用はNG。
ターゲット以外の人に迷惑をかけるような
行動は避けなければなりません。
これは大元のルールである
「狙うのは悪いヤツだけ」というところ
から来ているのでしょう。
池袋ウエストゲートパークシリーズなんかを
読んでいても感じますが、
「力が強い奴が上にのし上がる世界」
に生きている人たちは、
普通の人たちよりもよっぽど
ルールに厳格だな、と思ったりもします。
誘拐をしつづけるなんて
悪い人たちかと思いきや、
そうでもないかも?という矛盾した感じ
がおもしろくて、
ページをめくる手をどんどん
早めたように感じます。
新堂冬樹『誘拐ファミリー』 不器用ながら誰かと想う、ということ
ひとつめの章で
「無事に浅井家が一丸となってやっていけるのか
を試されるような展開」
と書きました。
実際に読んでいて、
物事がねじれていくさまは
手に汗握りっぱなしでした。
自分のエゴを押し通すために
無茶をしているように見えて、
実は誰かを想って動いていたりする。
みんな誘拐という、
表に出せない仕事を背負い
アングラな世界で生きているせいか
とても不器用。
そんな浅井ファミリーは、
みんな誰かに伝えたいメッセージを
持っていながらなかなか伝えられず、
そのせいで問題が余計に
こじれていくシーンは何度なく出てきます。
「あのとき直接伝えていれば良かったのに」
「あのとき素直になっていれば良かったのに」
そう思わずにはいられないシーンが満載です。
ストーリーの最後は、
幾重にもからまった糸がスルスルと
ほどけていくような展開に。
ホロリと涙が流れてしまうような、
良い結末だったと思います。
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