今回ご紹介する一冊は、
森絵都 著
『カラフル』です。
1998年に発表され、
20年以上経った今も大人気の、
森絵都さんの代表作です。
森絵都さんは、
1990年に『リズム』で
講談社児童文学新人賞を受賞して
デビューしました。
読書好きのみなさんの中には、
講談社青い鳥文庫を読んで学生時代を過ごした!
という方も多いのではないでしょうか。
青春時代のバイブルを生み出してくれた
森絵都さんですが、
『風に舞い上がるビニールシート』では
2006年に直木賞を受賞されるなど、
子供も大人も楽しめる作品を
多数手掛けておられます。
森絵都さんの作品は、
ふんわりと読みやすい文章と、
親しみやすいキャラクターが魅力的です。
登場人物の誰に対しても、
どこか感情移入できる部分があり、
気軽に読めるけれど奥が深い!
といった印象があります。
日常のちょっとした一コマを切り取った中に、
突然のサスペンスが登場したり、
平穏なように見せかけて
実は不穏なものが息をひそめていたり。
『カラフル』でも、人間が持つあらゆる側面が、
痛々しいのにどこかポップに描かれていて、
自分自身のこれまでの人生に置き換えながら、
楽しんで読むことができると思います。
目次
死んだ「ぼく」の再挑戦
老若男女に読み継がれる、不朽の名作。
生前の罪により輪廻のサイクルから外されたぼくの魂が天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。自殺を図った少年、真の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならないのだ。
真として過ごすうち、ぼくは人の欠点や美点が見えてくるようになる……。実写映画、アニメにもなった、累計100万部突破の青春小説!
主人公のぼくは、死んだあとの、
肉体の無い魂でした。
そのまま輪廻のサイクルに乗って、
生まれ変わるはずでしたが、
どうやら生前にとんでもない罪をおかしたぼくは、
二度と生まれ変わることが
できないというのです。
ぼくにそれを告げたのは、
突然現れた美形な男の天使・プラプラ。
プラプラによると、本来なら見捨てられるはず
のぼくの魂は、幸運なことにも抽選に当たって、
下界での再挑戦のチャンスを与えられたのだとか。
なんとなく、かったるかったので、
再挑戦を断ったぼくでしたが、
天使界のボスの決定のために逆らえず、
他人の体を借りて下界で再挑戦をする
ことになりました。
この再挑戦は、
ホームステイと呼ばれています。
ぼくが体を借りるのは、小林真という少年。
中学3年生の真は、3日前に自殺をはかり、
意識不明のキケンな状態です。
なんと、真が死んで魂が抜けるその瞬間に、
ぼくが真の体にもぐり込み、
再挑戦がスタートするというのです。
ホームステイは、
ぼくが自分のおかした罪を
思い出すまで続きます。
果たして、ぼくは罪を思い出し、
無事に輪廻のサイクルに戻ることが
できるのでしょうか?
前途多難なホームステイ
ぼくは病室で目覚めました。
無事に小林真の体にもぐり込んだのです。
ついさっき「ご臨終です」と死人認定されたはずの
真が生き返り、
奇跡の少年として大歓迎されたぼく。
真の父も母もやさしく、真の生き返りを泣いて喜び、
秀才の兄はぶっきらぼうに見えるけれど、
必ず毎日病室に見舞いに来てくれます。
退院の日は豪華な料理を用意して、
家族は真の復活を大歓迎してくれました。
家族は優しいし、快適な自分の部屋もあるというのに、
いったいどうして真は自殺なんて
したのでしょうか?
実は、楽勝に思えたぼくのホームステイ生活は、
想像していたより厄介なものだったのです。
素敵な家族には裏の顔が存在しました。
自分さえよければいい信用ならない父と、
汚らわしい秘密を持つ母、
毎日のように嫌味をふっかけてくる兄。
おまけに自殺する前の真は、
憧れの女の子の衝撃の実態に気付いて、
心に傷を負っていました。
それになんといっても小林真自身が、
地味でパッとしない男なのです。
ぼくは自分の罪をつきとめるだけでなく、
自殺をはかった小林真の重苦しい人生も
一緒に背負うことになります。
面倒くさがりで、どこか冷めたところのあるぼくと、
地味で自信がなくて、
取り柄といえば油絵が上手なことだけ、
といった小林真。
足りないものだらけで、心も不安定だけれど、
主人公の完璧すぎない不完全なところに、
やけに親近感を感じます。
真を取り巻く問題に、ぼくはどう向き合い、
解決していくのか。
時々登場するプラプラに叱られながらも、
真の人生と懸命に向き合うことで、
ぼくは自分がおかした罪に、
ゆっくりと近づいていきます。
誰も完璧にはなれない
大人になっても、間違えはあるし、
無敵にもなれません。
思春期の真や、学校の仲間たちも、
悩みを抱えながらみんな自分の在り方を探しています。
みんなどこか欠けているところがあって、
誰かのお手本になれるくらい良いところもあれば、
とんでもなく愚かな部分もあります。
家族も、クラスメイトも、憧れの女子も、
みんな真の理想の通りの綺麗な人間
にはなれないのです。
人間は良い部分も、悪い部分もあっていい。
間違いがあっても終わりじゃなくて、
絶望したって良いことは訪れるし、
何があっても人生はやり直しがきくのだと、
主人公のぼくのホームステイを通して、
読者の私たちも気づかせてもらえます。
ぼくがおかした衝撃の罪に気づくとき、
チクチクと痛んでいた心が、
じんわりと温まっていく、
そんな感覚に包まれていきます。
人生は、かったるいけれど、
なかなか捨てたもんじゃない!と
思わせてくれる作品です。
いつも本棚に大事に保管して、
ちょっと人生に疲れたときに、読み返したくなる。
『カラフル』はそんな魅力に
あふれた物語だと思います。
ぜひ、男女問わず、
幅広い世代の方に読んでいただきいです。
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