今回ご紹介する一冊は、
重松清 著
『きみの友だち』です。
10本の短編小説集で、
それぞれの話に繋がりがある
連作形式をとっています。
2008年にはWOWOW FILMS
による映画が公開されました。
重松さんの作品は
「流星ワゴン」や「とんび」など、
数多くの作品がドラマ化され、
そのたび話題になっています。
重松さんは現代の家族や
その絆を描くことを
大きなテーマとし、
幅広い年代から支持を
集めています。
また小学生、中学生を
主人公とした作品も多く、
そのため教科書に採用
された作品もあります。
文学賞も数多く受賞しており、
1999年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、
同年『エイジ』で山本周五郎賞を受賞。
2001年『ビタミンF』で直木賞、
2010年『十字架』で吉川英治文学賞、
2014年『ゼツメツ少年』で
毎日出版文化賞を受賞など、
次々と話題作を発表しています。
目次
重松清『きみの友だち』 周りに合わせなくてはと必死になっている君へ
わたしは「みんな」を信じない、だからあんたと一緒にいる――。足の不自由な恵美ちゃんと病気がちな由香ちゃんは、ある事件がきっかけでクラスのだれとも付き合わなくなった。学校の人気者、ブンちゃんは、デキる転校生、モトくんのことが何となく面白くない……。優等生にひねた奴。弱虫に八方美人。それぞれの物語がちりばめられた、「友だち」のほんとうの意味をさがす連作長編。
この作品は、
学校という閉じられた空間で
自分の居場所を必死に求めている人
にこそ読んでほしい作品です。
友達ってなんだろうと
考えさせられます。
物語は事故がきっかけで、
足が不自由になってしまった
恵美ちゃんが、
元から病気がちな由香ちゃんと
近づくことで始まります。
次第にふたりは中を深め、
クラスの他の誰とも
付き合わなくなります。
「みんな」と交わらず
ふたりだけでいる恵美ちゃんと
由香ちゃんを
周りはどう思っていたのか。
1編ずつ、ふたりに関わる子を
主役に据えながら
10編の短編が連なっていきます。
学校の人気者ブンちゃん、
デキる転校生モトくん、
八方美人の堀田ちゃんなど…。
彼らは「みんな」と
どう付き合っていくか、
それぞれが自分の居場所を
求めて苦しんでいます。
「わたしは『みんな』が嫌いだから。『みんな』が『みんな』でいるうちは、友達じゃない、絶対に。」(「千羽鶴」より引用)
印象に残る、
恵美ちゃんの言葉です。
「みんな」に合わせよう
としない恵美ちゃんの言動は
彼女たちに、優しく染み渡ります。
学校という場所だけでなく、
閉じられた場所で
苦しんでいる人もいると思います。
この作品を通じて、
ぜひ恵美ちゃんの言葉に
勇気をもらってください。
重松清『きみの友だち』 人と違うことで持てる視点
恵美ちゃんは
クールな女の子です。
いつも突き放したような
態度ですが、
その言葉には優しさがあります。
なぜ恵美ちゃんは
「みんなが嫌い」になったのか。
それは彼女が事故になって
しまったことで、
「みんな」に合わせることの
無意味さを知ったから
ではないでしょうか。
本当の友達について
本気で向き合ったから
ではないでしょうか。
人と違うことで持てた視点、
が恵美ちゃんにはあると思います。
でもそこに至るためには由香ちゃん、
という人物との関わりが
あってこそです。
本当の友達がいることで、
人はこんなにも自由に
生きていけるのだと感じました。
重松清『きみの友だち』 短編集のまとめ方がすごい!
この本は10本の短編集からなる
お話ですが、
語り手はひとりです。
でも最終章の話のまとめ方が
素晴らしすぎて、
「やられた!」と思いました。
恵美ちゃん‐僕はこれから、きみと、きみにかかわりのある何人かの子どもたちの話をしようと思う。
(「あいあい傘」より引用)
ここに登場する「僕」は誰なのか、
いつまでたっても明かされません。
最初は「誰だ?」と思いつつ、
著者の目線で描かれている
のだと思い、
物語が深まるにつれて
気にならなくなりました。
それなのに最終章で見事な伏線回収!!
実はこの短編集、
一遍一辺が時系列に並んでいません。
最初はそれが違和感で、
ついていけず振り回されて
いるような感覚だったのですが、
それにもとても重要な
意味があるのです!
お話の中で年齢的にも
成長していく登場人物たちの誰かに、
きっと自分を重ね合わせること
ができるはずです。
本を読み終わった後は、
誰かの思いで話を聞かせて
もらっていたような、
ほっこりとした気持ちになれます。
『きみの友だち』というタイトル
の意味が分かったときの、
読後の爽快感も最高の一冊です。
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