原寮『それまでの明日 (ハヤカワ文庫JA)』文庫化!書評とあらすじ!沢崎シリーズ

 

今回ご紹介する一冊は、

原 寮(はら りょう)

『それまでの明日』です。

 

2020年9月3日に文庫が発売となり、

話題が再燃しています。

最近あまり目に

しなくなりましたが、

「正統ハードボイルド」

という言い方が

以前はありました。

 

ミステリの「本格推理」も

そうですが、

権威主義むき出しの、

なんともイケてない

言い回しです。

 

使う側の言い分としては、

ハードボイルドという

語の使われ方が

いい加減すぎることが問題で、

 

安手の

ヴァイオレンス・ノベルと

「本物」を区別したかった

わけです

(二昔前の「正統ハードボイルド」

についての文章を読むと、

ドンパチや女性の裸を

満載したような小説が

ハードボイルドじゃないんだ式

の愚痴が必ず含まれていた

ものです)。

 

気持ちはわかりますが、

イケてないことに変わりはなく、

批評家の

アンソニー・バウチャーが

提唱した

「ハメット=チャンドラー=マクドナルド・スクール」

という言い方に取って

代わられました。

 

ハードボイルド派

の巨匠と呼ばれる、

三人の作家の名前を

連ねただけという

安直さに見えますが、

 

ハードボイルドという

ジャンルの面倒くささも

ちゃんと表しています。

 

この三人、全然作風が

違うんですよね。

 

だからハードボイルドとは何?

 

という問にこの三人が

書いたような小説と

答えてしまうと、

 

イメージは収斂する

ようでいて、

むしろ拡散して

しまうわけです。

 

さて今回ご紹介する原尞さんは、

日本ハードボイルド史における

メルクマール的作品と

考えられている

『そして夜は甦る』で

デビューしました。

 

ここでの

「ハードボイルド」の意味

ははっきりしています。

 

そう、

レイモンド・チャンドラーが

書いたような小説

のことです。

 

 

 

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原寮『それまでの明日』 それまでの明日

 

 

私立探偵・沢崎のもとに望月皓一と名乗る金融会社の支店長が現われ、料亭の女将の身辺調査をしてほしいという。が、女将は既に亡くなっており、顔立ちの似た妹が跡を継いでいた。調査対象は女将か、それとも妹か? さらに当の依頼人が忽然と姿を消し、沢崎はいつしか金融絡みの事件の渦中に。「伝説の男」の復活に読書界が沸いたシリーズ長篇第5作。文庫化に際し14年間の沈黙と執筆の裏側を語る「著者あとがき」を付記。

 

 

西新宿で探偵事務所の

看板を掲げる沢崎の元へ、

ある日、望月と名乗る

依頼人が現れます。

 

望月はこうした場が

似合わないほどの

「紳士」としての風格を

漂わせた人物でしたが、

 

ある料亭の女将の身辺調査を

沢崎に依頼します。

 

しかし依頼の時点で、

女将はすでに故人でした。

 

調査をはじめてすぐに

そのことを知った沢崎は、

望月と連絡を取ろうと

しますがうまくいかない。

 

仕方なく沢崎は望月が

支店長を務める

金融会社を訪れますが、

 

そこで奇妙な強盗事件に

遭遇してしまう。

 

強盗たちは支店の占拠には

成功するのですが、

支店長の望月が姿を

見せないため、

金庫が開けられず、

金銭の強奪に失敗して

しまうのです。

 

そして望月の行方は

杳として知れないまま。

 

望月を探して、

沢崎は行動を開始するのですが……。

 

探偵事務所に依頼人が

現れる冒頭から始まり、

その一見ありきたりな依頼が、

暴力的な事件に

つながっていくという展開

はまさに王道。

 

沢崎は強盗事件の際に

知り合った青年・海津を

助手的に使って、

捜査を進めていきます。

 

けれど死体を発見したりとか、

旧知のやくざに

押しかけられたりは

あるのですが、

その後の展開はわりと地味。

 

暴力が出てくる場面は

ありますが、

どれも寸止めな感じ、

調査の過程で出会う人たちも

普通を通り越して、

いい人ばかりです。

 

 

 

 

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原寮『それまでの明日』 沢崎さん、丸くなりましたね。

 

「沢崎さん、丸くなりましたね。

以前のあなたは

もっと嫌なやつでしたよ。

ギスギスしていたし、

相手が少しでも

尊大に振る舞うと、

すぐ噛み付く。

それも誰彼構わず。

 

昔に比べると、

だいぶと落ち着いた

みたいですね。

 

いつまでも嘴の黄色い

青二才みたいなマネは

してられないってことですかね。

 

ま、わたしとしちゃあ、

その方がありがたいが。

それでもね、沢崎さん。

寂しいですよ、少しはね」。

 

と、作中人物になったつもりで、

沢崎探偵に注文を付けてみました。

 

筆者はあまり沢崎シリーズの

よい読者ではないので

『そして夜は甦る』や

せいぜい『天使たちの探偵』あたりで、

 

彼のイメージが

止まっているせいも

あるのかも知れませんが、

 

如何に作中の設定でも

五十代になったとは言え、

沢崎さん、

落ち着き過ぎじゃ

ありませんか。

 

それはともかく、

お話のトーンが少し

湿っぽくなってるのは

アレですね。

 

沢崎シリーズの

美質の一つは

チャンドラー流の

乾いた叙情性を、

 

日本の風土の中に

巧みに落とし込んだこと

だと思うので、

やっぱり残念ですね。

 

 

 

 

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原寮『それまでの明日』 「お父さん」

 

事件の方は支店の金庫に

保管されていた、

正体不明の大金を

一つの焦点として

動いていきます。

 

けれど、そんなことより

沢崎は海津青年に

「お父さん」と

呼びかけられてしまいます。

 

え? という展開ですが、

これ以降事態がどう転がるか、

気になった方は

ぜひ本書でご確認を。

 

 

 

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