今回ご紹介する一冊は、
有栖川有栖 著
『インド倶楽部の謎』
です。
新たに文庫版が
出版されました。
臨床犯罪学者・火村英生
シリーズの長編で、
〈国名シリーズ〉としては
第9弾に当たります。
火村英生シリーズは
テレビ化もされた
人気のシリーズなので、
ご存じの方も多いでしょうが、
英都大学准教授で
犯罪学者の火村英生が、
フィールドワークと称して
警察の捜査に協力する
というのが大筋で、
作者と同名の
推理作家・有栖川有栖が
ワトソン役を務めます。
ちなみに〈国名シリーズ〉
というのは有栖川氏の、
タイトルに国名を含む
一連の作品のことです。
これには元ネタがあって、
『ギリシャ棺の秘密』や
『エジプト十字架の秘密』
といった、
エラリー・クイーン氏の
作品群が、
本来の国名シリーズです。
ですから、
これに有栖川氏の
クイーン氏に対する
オマージュなのですね。
付言すると
『インド倶楽部の謎』
というのはクイーン氏が
構想しながら、
実際は執筆しなかった
タイトルなのだそうです。
なぜ執筆を断念したのかとか、
興味を持たれた方は
本書の中で触れられて
いますので、
ぜひご自身で確認
してみてください。
目次
有栖川有栖『インド倶楽部の謎』 アガスティアの葉
生まれてから死ぬまで、運命のすべてが記されているという「アガスティアの葉」。神戸で私的に行われたリーディングセッションに参加した〈インド倶楽部〉のメンバーが相次いで殺される。
前世の記憶を共有するという仲間の予告された死。
臨床犯罪学者・火村英生が論理の糸を手繰る〈国名シリーズ〉第9弾。★ミステリーランキングに続々登場した本作の待望の文庫化★
2018年国内本格ミステリランキング第5位!(2019年本格ミステリベスト・ベスト10)
2018年ミステリ・ベストランキング第9位!(ミステリマガジン/2019年1月号)
このミステリーがすごい! 第14位!(このミステリーがすごい!2019年版)
BOOK OF THE YEAR 2018 第14位!(ダ・ヴィンチ 2019年1月号)
自分の死ぬ日が、わかるとしたら……。火村&有栖の絶妙コンビ「国名シリーズ」最新作!
神戸で成功している
ナイトクラブ〈ニルヴァーナ〉
を経営する実業家・
間原郷太の自宅
(通称「インド亭」)で、
月に一回開かれる、
私的な集まりがありました。
メンバーはそれぞれに
インドの神秘思想に関心を持ち、
(お話を少し先取りして言うと)
自分たちの前世が、
百六十年ほど前の
インドで輩(ともがら)
だったことを信じていました。
そんな彼らの集まりに、
ある夜、「アガスティアの葉」
が持ち込まれます。
現世のみならず、
その人のすべてが
書き込まれているという
「葉」をリーディングして、
予言をするという催しは、
どこか不穏な空気を
孕んでいたものの、
成功裏に終わります。
けれど後日、
催しのコーディネーターを
努めていた男性の他殺死体
が見つかり、
更に会のメンバーの一人が
殺されます。
しかも、それは
アガスティアの葉によって
彼女の死が予告されていた、
その日のことだったのです。
と、こんな具合に物語は
謎めいた予告殺人で幕を開けます。
予告の日付はいわば
封印されていて、
あとになってから日付を
見つけた捜査陣が騒ぐ
という展開なんで、
予告殺人とは言えないかも
知れませんが。
お話のキーになる
「アガスティアの葉」は、
紀元前にインドの聖者によって
なされた予言の記録と
言われていて、
青山圭秀氏の著作によって
日本でも知られるように
なりました。
ブーム的な人気は
過去のものですが、
インドが好きで、占いも好き
というような人には
今でも支持されているようです。
本書には他にも輪廻転生や
前世の記憶と言った、
インド風の神秘思想が登場し、
それを信じる会のメンバーと
とことん否定する火村との間で、
議論が起きたりもします。
今どき珍しくオカルト的なもの
に対して、
一切妥協しない火村の姿勢は
一種の清々しさを感じさせます。
有栖川有栖『インド倶楽部の謎』 地道な捜査
警察の捜査によって、
殺された女性と
コーディネーターが、
ずっと以前から接触していた
ことが明らかになります。
つまりアガスティアの葉の
リーディングは、
女性によって仕組まれた
インチキだったのです。
しかし彼女はなぜ
そんなことをしたのか?
火村を毛嫌いする
ベテラン捜査官が
彼女の痕跡を追って、
僻地の温泉へ飛び、
一方火村らはリーディング
にあった不自然な質問から、
その意図を追います。
実は彼女は会のメンバーの
一人を脅迫しようと
企んでいたのです。
警察の捜査陣は色めき立ち、
脅迫に被害者を容疑者と
みなすのですが、
それに対し火村は……。
冒頭の百ページまでで、
二件の殺人が
起こってしまうと、
あとはひたすら地道な捜査
が描写されます。
関係者へのインタビューが
淡々と続くという構成は
エラリー・クイーン氏の
作品にも見られますが、
警察による地道な捜査の諸相の、
丹念な描写が続きますから、
ここは鮎川哲也氏を連想
すべきでしょうか。
正直、もう少しケレンは
あってもいいかなと思いますね。
有栖川有栖『インド倶楽部の謎』 フーダニットの理想形
物語の終盤はまさに
フーダニットの理想形です。
散りばめられた手掛かりから、
どうしてもこの人物でない
とならない犯人が、
必然性を持って火村により、
指摘されます。
多少強度には欠けるかも
知れませんが論理は
文句なく美しい。
パズラーはこうでないと。
前項ではケレンが足りない
みたいなことを書きましたが、
これも作者は意図的に
やってるようです。
有栖川氏のワトソン役有栖が
登場するシリーズには、
火村シリーズの他に江神二郎
(いわゆる学生アリス)
シリーズがあって、
こちらの方は長編がすべて
クローズドサークルの
連続殺人を扱うという、
派手なことになっている。
要するにシリーズごとに
メリハリを付けて、
特色を出してるんでしょうが、
何にしても贅沢なことです。
この記事を読んだ方はこちらもオススメです↓