今回ご紹介する一冊は、
伊坂幸太郎 著
『チルドレン』
です。
5つの短編連載を
ひとつの長編小説として
まとめた本作品は、
2006年に映画化もされた
伊坂幸太郎さんの
人気作品です。
『チルドレン』は、
少年をひとりひとりではなく
「少年たち」と
大きくとらえる際の表現
としてストーリー中に
出てくるワードです。
タイトルのとおり、
少年たちの気持ちに
フォーカスした作品
となっています。
目次
伊坂幸太郎『チルドレン』 「絶対」と言い切る尖った変人と愉快な仲間たち
活字離れのあなたに効く、小説の喜び
ばかばかしくも、恰好よい、伊坂幸太郎が届ける「5つの奇跡」「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々――。何気ない日常に起こった5つの物語が、1つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。
本作品は、
5つの短編小説からなる
長編ストーリーです。
1つ目の作品である
「バンク」の中で、
作品の中心人物である陣内、
その友達の鴨居、
そして目の見えない永瀬
という3人の少年が
同じ銀行にたまたま居合わせ、
そこで銀行強盗が
繰り広げられるところから
話は始まります。
その後の4つのストーリーでは、
その後の3人の様子だったり
大人になった陣内の様子
だったりが描かれます。
本作品の中で、
メインに描かれるのは陣内です。
厳しい父親の元に育ち、
しかし実は裏で買春めいたこと
をしていたことに気付き
父親に幻滅した陣内。
けれどそこでグレるのではなく、
強い主張と屁理屈で
自分の身を守り
自分の正義に生きる、
尖った少年に育ちます。
物事に絶対はないのに、
自分の主張をいつも
「絶対」と言い切る
陣内の物言いに、
鴨居や永瀬は振り回されつつも
楽しんでいます。
一方、目の見えない永瀬は
生まれたときから視覚を
奪われていたために、
それ以外の五感から
さまざまな情報を読み取り
推理することに長けています。
誰もが自分のことを
腫れ物のように扱うのに、
陣内だけは自分を他の人と
まったく同等に扱うことに驚き、
その人柄に興味を持ちます。
陣内が突然言い出す
突拍子もない理論は
これまでの自分の世界
にはなく新鮮で、
そこに永瀬自身の
情報収集力や推理力を
乗せて会話を楽しみます。
また作品の中では、
少年だったころの陣内たち
だけではなく、
大人になった陣内も
後輩の目を通して描かれています。
変わり者の少年だった陣内は
何の巡り合わせか、
少年に関わる仕事につきます。
少年だったころの陣内たちと、
その陣内の目で見る
変わった少年たち。
『チルドレン』という
作品タイトルにもあるとおり、
全体を通して「少年」に
関する作品となっています。
伊坂幸太郎『チルドレン』 複雑なようで単純な、少年の想い
作品を通して印象に残るのは、
やはり陣内の言葉として
繰り出される変わった主張たち。
屁理屈に惑わされ、
あるいは状況が混沌と
しているせいで
複雑な主張のように感じますが、
実はとてもシンプルな
ポリシーに基づいていることが多く、
読んでいてハッとさせられること
が何度もありました。
これは、大人になった陣内が
仕事の中で向き合う少年たち
にも言えます。
陣内は家裁で少年事件を
担当する部署におり、
問題を起こした少年と
日々向き合っています。
親に問題があったり、
環境が複雑だったりする中で
犯罪を犯してしまう少年たちと
心を通わせるのは、
一見難しそうに見えます。
ですが陣内が向き合って
話していくと、
少年たちはその発想の突拍子
のなさに驚き、
そしてなぜか次第に心を
開いていきます。
紐解いてみると以外にも、
心にあるのはシンプルで
ピュアな気持ちでした。
さすがに陣内の突拍子のなさは
真似できないなと思いつつも、
読んでいて気付きが
多かったように感じました。
伊坂幸太郎『チルドレン』 時間をかけて読む愉しさ
本作品を読んでもうひとつ
感じたこととしては、
「意外と読むのに時間がかかるな」
ということでした。
ストーリーの中では
目の見えない少年、
永瀬が聴覚や嗅覚、
その他の情報を手がかりに
推理を繰り広げられるシーン
があったり、
唐突に強く打ち出される
陣内の主張の真意を
永瀬たちが読み解くシーンだったりと、
理解するのに時間を要する記述
がところどころ出てきます。
読み飛ばすこともできるのですが、
なぜか丁寧に読みたい気持ちがあり、
じっくり時間をかけて
読むこととなりました。
そもそも、
5つのストーリーは時間軸が
行ったり来たりするので、
まず
「今は陣内たちは子供?大人?いつの話?」
と理解するところから
始まります。
なぜ5つのストーリーが
この順番で掲載されているのかまでは
ちょっと理解できませんでしたが、
状況を理解し、
内容をじっくり読み解く、
そんな「時間をかけて読む愉しさ」を、
久しぶりに味わったように
思います。
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