今回ご紹介する一冊は、
大崎梢(おおさき こずえ) 著
『もしかして ひょっとして』です。
著者の大崎梢は
短編連作集『配達あかずきん』で
デビューしました。
同春までは書店勤務をしていることもあり、
その勤務経験を生かして
作品の多くの舞台が書店、
そして日常の謎を扱っていることで
「本格書店ミステリ」と呼ばれています。
作品には『成風堂書店事件メモシリーズ』
『出版営業・井辻智紀の業務日誌シリーズ』
『天才探偵Senシリーズ』
『千石社シリーズ』など
多くの作品がシリーズ化され、
人気シリーズとなっています。
『成風堂書店事件メモシリーズ』は
コミカライズされており
『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ1』
『サイン会はいかが 成風堂書店事件メモ2』
『平台がおまちかね』が刊行されており、
コミックでも大崎梢のミステリーを
楽しめるようになっています。
大崎梢『もしかしてひょっとして』と
『成風堂書店事件メモシリーズ』の
小説版&コミック版もどちらもココですぐに
目次
大崎梢『もしかして ひょっとして』 立ち止まり思考する主人公たち
心配性でお人好し。生徒会の仕事を引き受ければ部活動のもめごとが持ち込まれ、人手がないからと子どもやペットの世話を頼まれる。親しい人の老後の不安が少しでも慰められるなら、多少の苦労は厭わないし、罠にはめられた知人のことは我が事のように悔しい――。損得を考えずに動いて、余計なトラブルに巻き込まれて、貧乏くじを引きっぱなし。それでも、この謎を放ってはおけない! 賑やかでアイディアに満ちた6つの傑作短編。
本書『もしかして ひょっとして』は
6つの日常短編ミステリーです。
著者が単行本に入っていない短編を
本にしませんか?と勧められて
選んだ6つの作品です。
『小暑』
『体育館フォーメーション』
『都忘れの理由』
『灰色のエルミー』
『かもしれない』
『山分けの夜』
とつながりがないように思うタイトルですが、
物語の中では主人公たちが
訝しい出来事に遭遇して
『もしかして?』とふと立ち止まり
『ひょっとして?』と思いを巡らせて
真相に近づいていくことが、
物語りの軸となり展開していきます。
『かもしれない』では
主人公がある童話をヒントにひとつの事柄を
多方面から「もしかして〇〇かもしれない」と
何個も展開させていきます。
どの物語も主人公が
『もしかして?』と思うことから始まり
『ひょっとして?』と謎解きをする場面が
鮮やかに描かれています。
謎もどこにでもありそうな日常の中のもので、
大きなインパクトがあるわけではないですが
どこにでもありそうな謎というだけに身近に感じ、
主人公と一緒に『もしかして?』
『ひょっとして?』と
立ち止まり考えられるものに
なっています。
大崎梢『もしかして ひょっとして』 固定観念と悪意をぶつけられたその結果
『小暑』を読んで理由もなく
「大人の物語だな」と思いました。
品の良い年配客が語る話に
大人になり親になればこそ、
感じられる事柄や考えがあるのではないか
と思いました。
昔々は年配客が語るであろう出来事が
ないとは言えない時代だったのだと
思うと同時に、
人は割り切れず誰にも語らず、
墓場まで持っていく出来事のひとつやふたつ
あるのではないかなとも思いました。
そしてラストで固定観念を覆されるのですが、
ラストまで何も疑問に感じず、
すらすらと読んでしまい
サラリと書かれた文字に思わず
「やられた」と苦笑を浮かべてしまいました。
そのことを表す言葉が
書かれていたか?見逃したか?と
ページを戻りつつ探してしまいました。
『体育館フォーメーション』では
部員たちのある行動が波紋をよび
主人公が解決に乗り出すのですが、
悪意をぶつけた本人が報いを受けるところ
は書かれておらず
その後の経過が少し気になりましたが
『もしかして』そのことを
書かないでおくことで
読者が『ひょっとして』こうだったのではないか?
と考える時間を著者は与えてくれたのか?
とまんまと大崎マジックに
かかったのかもしれません。
大崎梢『もしかして ひょっとして』 言葉は大切、多方面から考える柔軟性
『都忘れの理由』では年配の男性が主人公です。
主人公が右往左往しつつ
『もしかして?』と思い
『ひょっとして!』と真実にたどり着く過程は、
読んでいて「がんばれ!」と
声援を送ってしまいそうになりました。
ついつい男性俳優の方の姿を
想像しながら読んでしまい
余計応援に熱が入りました。
言葉というものはとても大切なものだと
あらためて気づかされ、
言葉は言葉に出したら最後取り返しの
つかなることになるかもしれず、
言葉の大切さが男性主人公とともに
身に沁みました。
『かもしれない』では
有名な童話の本が出てきます。
その童話の言葉『かもしれない』で
主人公は知人におきた出来事を
「もしかして〇〇かもしれない」
と考え始めます。
ここではひとつの物事を
多方面から検証してみることが
書かれています。
ひとつの事柄を多方面から見る、
考える楽しさを教えてくれるようでした。
『山分けの夜』はこの後どうなるの?
という感じで物語は閉じられます。
そこをどう感じるかは読む人それぞれに
ゆだねられているように思いました。
物語の一文に他の作家が書く
名探偵名前がふたりあげられて
思わず笑みがこぼれてしまいました。
『もしかして』著者はその作家さんと
仲が良いのかな?
『ひょっとして』短編集に出すことを
了解してもらったのかな?と
『もしかしてひょっとして』と考えてしまう
この本を是非お手に取ることを
おすすめします。
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