今回ご紹介する一冊は、
波多野 聖(はたの しょう) 著
『メガバンク宣戦布告 総務部・二瓶正平』
です。
かつて出版された
『メガバンク最終決戦』に
加筆修正を加え、
新たに販売された作品ですね。
作者は波多野聖。
本作に続き、
『メガバンク絶体絶命』
『メガバンク最後通牒』
に続いていく第一歩の作品
であります。
波多野聖はただの作家ではなく、
バリバリの金融の世界に
生きるビジネスマンでした。
株式投資のファンドマネージャー
として、
農林中央金庫、クレディ・スイス、
日興アセットマネジメントなどで
活躍の後、
藤原オフィス・アセット・マネジメント
を立ち上げ独立を果たします。
(本名は藤原敬之)。
2010年に投資の世界から
は身を引き、
その後は経済書や経済小説を
書く生活に入ります。
自らの半生を描くように、
「相場師」がその小説の
メインを飾りますね。
今回の『メガバンク宣戦布告』もそう。
日本最大のメガバンク
東西帝都EFG銀行を舞台にして、
専務であり伝説的ディーラー
である桂光義と総務部部長代理の
二瓶正平が
その生き残りのために
奮闘する物語です。
さぁそれではストーリーの紹介です。
目次
波多野聖『メガバンク宣戦布告 総務部・二瓶正平』 帝都の名前
日本最大のメガバンクTEFG銀行で働く総務部の二瓶正平。弱小銀行出身の彼は、同僚から「絶滅危惧種」と揶揄され、肩身の狭い日々を送っていた。ある日、国債が暴落。頭取と金融庁とのある密約により、銀行は破綻の危機に。「うちが破綻するはずがない」と行員の誰もが慢心する中、二瓶は、伝説の相場師・桂光義と生き残りをかけて立ち上がる。
上述の通り、
舞台は東西帝都EFG銀行。
名前からして、
三菱東京UFJ銀行(現:三菱UFJ銀行)
がモデルでしょう。
このいやに長い名前は、
合併に合併を繰り返してきた
現れでもあります。
それは現実の銀行でも変わりません。
丁度、この前最終回を迎えた
テレビドラマ『半沢直樹』でも
旧Sと旧Tの派閥争いが
ありましたね。
この東西帝都EFG銀行も同様に、
派閥が有利にも不利にも働きます。
まず、最も力を持つのは
「帝都」の派閥です。
かつて帝都銀行として
日本経済を支配し、
その名前と歴史に誇りを
もっていました。
こう言えば聞こえはいいですが、
詰まるところその名前と歴史に
胡坐をかき、
変化やイノベーションには
踏み出せないでいる、
所謂日本人気質な人たちです。
かつて帝都銀行は、
財閥系銀行として日本の経済を
牛耳っていたと言っていいのでしょう。
しかし、バブル崩壊から始まる
激動の日本経済の歴史の中で、
吸収と合併を繰り返し、
現在の東西帝都EFG銀行
となるのです。
ではこの物語の主人公である
桂と二瓶はというと、
彼らは帝都の派閥に属しません。
「帝都に非ずんば人に非ず」
と言われた銀行内で、
桂はその卓越した相場成績から
役員にまで上り詰めた人物です。
二瓶も総務部部長代理という
桂よりも下の立場ではありますが、
派閥間の力関係をうまく理解しており、
立ち回りの上手い人物でした。
人当たりもよく、
何か不思議な魅力のある人物です。
二瓶は当然桂の事を
知っていましたが、
桂は一総務部社員の事など
知りませんでした。
しかし、2人は銀行の未曽有の危機の中で、
互いを知ることになります。
その未曽有の危機とは、
帝都の名前に縋り、
未来を見据えられない銀行上層部
の取引が引き起こしたもの
だったのです。
波多野聖『メガバンク宣戦布告 総務部・二瓶正平』 日本国債暴落
日本国債の暴落。
ここから、この物語は
怒涛の展開を繰り広げていきます。
頭取をはじめ銀行上層部は、
金融庁との取引で5兆円の
40年債を購入することになります。
そしてその直後、
日本国債の暴落が起こり、
東西帝都EFGはとんでもない
損害を生みます。
5兆円の40年債という金額が
途方もなく、
更に国債に関する知識も
ない私ですが、
それだけの金額の国債を買った後、
国債が暴落すると
「兎に角やばい」という事は
分かります。
事実やばかった。
その事実がリークされ
報道されると、
預金を引き出そうと預金者の
取り付け騒ぎが起こります。
銀行の窓口に、
歩くスペースもない程
人が押し寄せ出金を迫るのを
想像してみてください。
日本で史上最も大きい取り付け騒ぎ
は昭和金融恐慌時の取り付け騒ぎ
みたいです。
別の本で読んだのですが、
高橋是清は当時取り付け騒ぎが
起こったとき、
銀行の窓口に大量の「見せ金」を
積んだそうです。
一枚目のみ本当の金で、
あとは偽札。
しかし、これが効果を
発揮しました。
人は、現金を見ると安心します。
そうすることで、
窓口に並んだ人は
段々と落ち着きを取り戻し、
「あれだけお金があるんだから
銀行は破綻しない」
と思うのです。
そして小説内に話を戻し、
東西帝都EFG銀行にも
取り付け騒ぎが起こります。
総務の二瓶は、
この取り付け騒ぎをかつて経験
していました。
合併前の名京銀行時、
彼は取り付け騒ぎにあい、
そこで見せ金という方法
を知ります。
それを活かし、
窓口に押し寄せた預金者達の
心を落ち着けたのでした。
その見せ金を実行した決断力と対応力が、
専務である桂の目に留まりました。
ここから、二瓶と桂のコンビ
が誕生します。
この2人が、
これから始まる取り付け騒ぎなど
比較にならない銀行の危機を
救うため立ち上がるのでした。
波多野聖『メガバンク宣戦布告 総務部・二瓶正平』 金融庁対メガバンク
金融庁と銀行頭取の
国債購入の直後、
日本国債の暴落。
通常であれば、
銀行は債務超過で破綻となります。
それでも金融庁は、
その国債購入を金融庁側から
持ち掛けた取引だとして、
国債暴落分を損益として
処理をしないという措置を
取ってくれます。
日本のメガバンクを救うための
裁量行政というやつです。
しかし、金融庁の五条長官は、
それを覆します。
アメリカからの圧力に
よるものでした。
それが報道され、
結局東西帝都EFGは破綻の危機
にさらされます。
そしてその弱体化した
東西帝都EFG銀行を狙う香港や
アメリカのヘッジファンド。
東西帝都EFG銀行を
グローバルシフトという名のもとに、
私利私欲のために
海外ファンドへ売り渡そうと
している黒幕はいったい誰なのか。
桂の馴染みの銀座のママや、
二瓶の友人:塚本、そして北浜の天狗。
人間関係も非常に
妙に書かれています。
大きな図式は、
金融庁対メガバンクです。
大きな組織の中で、
ほとんどの人間が利己主義に走るなか、
桂と二瓶は利他主義を貫き、
家族、友人、そして銀行のため
に尽くす。
この姿勢、見習いたいですね。
実はこの作品は
ドラマ化もされていて、
椎名桔平演じる桂が
滅茶苦茶格好いいんですよね。
巨大な権力と柵に立ち向かう行員
のドラマを、ご堪能ください。
それにしても、
半沢の影響が強いのか、
頭取や金融庁が出てくると、
どうも中野渡頭取や黒崎を
頭の中で描いてしまう。。
ちなみに今作の頭取や金融庁の人間
は半沢のものとはまるで違います。
そこは惑わされないように。
是非楽しんでください。
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