ミステリランキング1位なんて惹句、
気にする方ですか?
筆者は(あなたと同じに)ひねくれ者なので、
少しばかり鼻にしわを寄せて、
「フフン」とか言ってしまうクチなのですが、
続けて「二年連続」「しかも四冠以上」と煽られると、
さすがに顔が引きつります。
アンソニー・ホロヴィッツ氏の二年目の作品である、
今回ご紹介する『メインテーマは殺人』は、
「このミステリーがすごい!2020年版」(宝島社)
海外編で第1位を獲得しました。
アンソニー・ホロヴィッツ氏は
ロンドン生まれのUKの作家さんです。
ヤングアダルト向けの『アレックス・ライダー』
シリーズでブレイクし、
TVドラマ『刑事フォイル』シリーズの脚本など
を手がけました。
ミステリ好きにはドイル財団の初の公認を得て、
ホームズものの続編(『絹の家』、『モリアーティ』)
を発表したことで有名でしょう。
またジェームズ・ボンドものの続編
(『007 逆襲のトリガー』)もフレミング財団公認で
手がけています。
(そういえば『メインテーマは殺人』の中でも、
如何にイアン・フレミングのタイトルセンスが
優れているかについて蘊蓄を傾けてますね)
ところで本作のワトソン役は
そのホロヴィッツ氏本人なんです。
目次
ワトソン役は作者本人
史上初めて7冠を制覇した『カササギ殺人事件』に並ぶ傑作登場!
謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ自らの葬儀の手配をしたまさにその日、資産家の老婦人は絞殺された。彼女は自分が殺されると知っていたのか? 作家のわたし、アンソニー・ホロヴィッツは、ドラマ『インジャスティス』の脚本執筆で知りあったホーソーンという元刑事から連絡を受ける。この奇妙な事件を捜査する自分を本にしないかというのだ。かくしてわたしは、きわめて有能だが偏屈な男と行動をともにすることに……。ワトスン役は著者自身、謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ! 7冠制覇『カササギ殺人事件』に並ぶ圧倒的な傑作登場。
エラリイ・クイン氏を例に挙げるまでもなく、
作者(と同名のキャラクター)が登場するという趣向は
ミステリでは珍しくありません。
本邦でなら有栖川有栖氏がいちばんに
連想されるところですかね。
この『メインテーマは殺人』のワトソン役も
アンソニー・ホロヴィッツを名乗ります。
あまり例がないのは、
このホロヴィッツ氏が単に
「アンソニー・ホロヴィッツ」を名乗る作中人物ではなく、
ほんとに作者のホロヴィッツ氏本人であるとの
仕掛けが施されていること。
ホームズ役のホーソーンと知り合った刑事ドラマも、
作者が実際に関わっていたものですし、
作中に出てくる映画『タンタンの冒険』の続編に
関わっていたというのも事実のようです。
こうした虚実皮膜を突っつく振る舞いに
ミステリとしての意味や仕掛けはありませんが、
スピルバーグ監督まで出てくると
やっぱり楽しいですね。
『ホーソーン登場』
お話は資産家の老婦人が、
自分自身の葬儀を手配した、
まさにその日に殺害されるという、
偶然で片付けるにはあまりにおしい
(まあミステリ的に)謎から始まります。
作家のホロヴィッツ氏が
この事件に巻き込まれたのは、
元刑事のホーソーンに押しかけられたから。
今は難事件が起きる度にお呼びの掛かる、
警視庁の嘱託のようなことをしている
というホーソーンは、
ホロヴィッツ氏にこの事件を解決する自分を
ネタに小説を書け、
タイトルは『ホーソーン登場』がいい、
印税の半分はおまえにくれてやる、
と提案してきます。
ホーソーンが極めつけの嫌な奴であることもあって、
ホロヴィッツ氏はこれを断るのですが、
なんだかんだあって、
結局は引き受ける羽目になり、
こうして二人のコンビが誕生するわけです。
老婦人の過去
そうして捜査が始まると、
老婦人の過去にあった、
ある出来事が浮かび上がってきます。
実は彼女、十年前に交通事故を起こし、
幼い双子をはね飛ばして一人を殺し、
一人に消えない障害を与えていたのです。
生き残った一人とその家族の悲惨な暮らしも
描かれるのですが、
この家族、何かがおかしい。
そのおかしさの正体が見極められないうちに、
ハリウッドから老婦人の息子が帰国します。
彼は成功した俳優なのですが、
その彼にまで……。
フェアプレイなフーダニット
先にアラから述べましょう。
ホーソーン&ホロヴィッツコンビの
キャラクターに癖がありすぎます。
気にならない人もいるでしょうが、
気に触って途中で本を投げ出す人が、
それなりにいてもおかしくないレベル。
ホロヴィッツ氏が間抜けなのは
ワトソン役のお約束ですが、
にしてもバカすぎる。
おまけに自分は賢いと思い込んでいるので、
迷推理を思いついてはドツボにはまるので
見てられません。
それでもホロヴィッツ氏はまだマシ、
ホーソーンに至ってはゲス野郎です。
これも名探偵のお約束でもある傲慢や
無神経はともかく、
エクスキューズもなしに
(もしかしたら続編でフォローされてる
のかも知れませんが)
繰り出される、
同性愛者に対する罵倒には胸が悪くなります。
それでも『メインテーマは殺人』が評価される
のはミステリ的に完成度が高いからでしょう。
メタでもアンチでも、
あるいは作者=ワトソンから期待してしまう
叙述トリックでもなく、
きわめてまっとうなフーダニットです。
当然ながら、とことんフェアプレイ。
作者が潜ませた手がかりを、
やはり作者がばらまいた目くらましに
ごまかされずに、きちんと拾い集めれば、
ホーソーンと同じ結論に読者も至れるはず、
と言う作品です。
犯行の動機はかなり異常なものなんですが、
それもきちんと手がかりを追えば
見抜けるようにできてます。
こういうものを書かれるとミステリ好きとしては、
探偵役には目をつぶっても、
評価したくなる。
その気持ち解るなあ、という感じ。
『メインテーマは殺人』はそんなお話です。
この記事を読んだ方はこちらもオススメです↓