今回ご紹介する一冊は、
松重 豊(まつしげ ゆたか) 著
『空洞のなかみ』です。
松重豊さんといえば、
渋い大人の雰囲気と
抜群の演技力が
魅力の俳優さんですね。
ドラマや映画に引っ張りだこで、
刑事役やちょっぴり怖めな役どころなど、
みなさんも出演作品を
いくつか思い浮かべることが
できると思います。
2020年は
『きょうの猫村さん』の実写ドラマ
で猫を演じ、
視聴者を笑顔にしてくれました。
そんな話題の俳優さんが
執筆された本ということで、
どんな内容なのか
とても気になりますね。
本作は12の短編小説
「愚者譫言(ぐしゃのうわごと)」と、
25のエッセイ
「演者戯言(えんじゃのざれごと)」
で構成されています。
エッセイに関しては、
『サンデー毎日』に
連載されていたもので、
こちらを書籍化しようという話から、
本の出版の計画が
進んでいたそうです。
本作を読んでみると、
テレビで見ているのとは
少し違った著者の一面が
垣間見えてきます。
話題作のあらすじや見どころを
ご紹介させていただきます。
目次
松重豊『空洞のなかみ』 愚者譫言
物書き松重豊、誕生!
軽妙洒脱な筆致で描かれる演者の心象風景。
連作短編小説12編+エッセイ25編を収録『孤独のグルメ』『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』『きょうの猫村さん』などさまざまな映画、ドラマで注目を集める著者の初の書籍。書き下ろし連作短編小説「愚者譫言(ぐしゃのうわごと)」と週刊誌「サンデー毎日」の連載エッセイ「演者戯言(えんじゃのざれごと)」の2種を収録。演者だからこそ描くことができた心象風景を、独自の軽妙洒脱な筆致で表現。「サンデー毎日」連載時から人気を呼んだ旭川在住のイラストレーターあべみちこによるイラストが彩りを添える。
12編の短編小説は、
すべて役者が主人公です。
「プロローグ」にて撮影で京都に
訪れた主人公は、
役者を辞めようかと
揺れ動いていました。
セリフでNGを連発し
落ち込んでいる中向かったのは、
京都のお寺です。
そこで出会った人からもらった言葉
が主人公の心に残りました。
「空っぽ」と「無」は違う。
空っぽの中に様々な役を
取り込んでいく役者の仕事を、
素敵に表した言葉です。
本作は、タイトル通り
「空っぽ」に沢山の物を
取り入れていく
著者のなかみを反映した作品
となっています。
第一話の「取調室」では、
主人公が突然取調室にいる場面
から始まります。
主人公の頭の中は
ぼんやりとしていて、
なぜ取調室にいるのかも
定かではありません。
そして衝撃の一言。
さて、私は今日、何を演じているのだろうか。
短編小説はすべて
このような始まりで、
今日が何の役なのか、
主人公の頭の中がぼんやりして
わかっていないのです。
第二話では裁判所、
第三話では酒場と
シチュエーションが変わりますが、
主人公のぼんやりした様子
は同じです。
はたして場面ごとの主人公は
同一人物なのか、
著者本人なのかわかりませんが、
きっと著者の経験が
反映されている部分が
沢山あるのではないかと思います。
松重豊さんて、
こんなにぼんやりしているの?
という衝撃と共に、
親近感を感じさせてくれる
不思議な感覚が魅力的です。
同時に、
忙しい中でセリフを覚えたり、
役を演じ分けるのは
相当な苦労なのだ
ということが伝わってきます。
そんな日々をおもしろく
書いてしまう松重豊さん。
とても素敵です。
ゆるくて独特な世界観に、
夢中になってしまうかもしれません。
松重豊『空洞のなかみ』 演者戯言
25編のエッセイでは、
食べ物のエピソードを
交えながら著者の青春時代や役者
として活躍し始めてからの
出来事が綴られています。
著者の初主演ドラマ
『孤独のグルメ』のファンという方は、
松重さん=グルメといった
印象が強いかもしれませんね。
お昼にカレーを食べたら
セリフが全部すっ飛んでしまった
エピソードや、
実は文字が女の子みたいな
「ぶりっ子文字」だという
衝撃の告白など、
著者の可愛らしいなかみが
沢山詰まっています。
食べ物以外にも、
肌がちょっと敏感な著者から
同じ悩みを持つ読者への
メッセージなどもあり、
楽しく読み進めることができます。
『孤独のグルメ』のスタッフの方々
とのエピソードもあり、
とても貴重なエッセイ
となっています。
松重豊『空洞のなかみ』 著者の「なかみ」が詰まった一冊
本作は、新型コロナウィルスの
影響で自粛生活となったなか、
俳優業がストップしてしまった
時期に執筆されたそうです。
輝かしく見える俳優さんの世界は、
想像以上の苦労があり、
様々な葛藤の中過ごされていた
ということが作品からわかりました。
人生経験豊富な著者ですが、
小説もエッセイも少し自虐的で
控えめなエピソードが多く、
クスッと笑わせてくれる内容
ばかりです。
ほっこり癒してもらえる作品なので、
あまり外出できない今、
おうちでじっくり読んでいただく
のもオススメです。
ぜひ俳優・松重豊さんの
「なかみ」を本書から
感じ取っていただきたいです。
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