今回ご紹介する一冊は、
西 加奈子 著
『さくら』です。
本作で描かれているのは
「家族」の物語です。
長谷川家という、
大阪のとある5人と1匹の家族。
物語の会話は関西弁が中心です。
西加奈子さんが
大阪府生まれなこともあり、
関西人の勢いや、
底なしのパワーが
「これでもか！」
と伝わってきて、
くすっと笑えるシーンも
てんこ盛りです。
とても仲の良い家族ですが、
人間誰しも「ダーク」
な一面を抱えているものです。
仲の良かった家族の形が、
少しずつ、
ほころびはじめていく。
家族一人一人が、
抱えている葛藤は、
どの登場人物にも
共感できる部分があります。
優しい言葉に胸が
スッキリ軽くなる！
かと思ったら、
まるで自分の悩みが
そのまま書かれているみたいで、
すごく切ない。
チクチク胸が痛むのに、
でもなぜかとても温かい。
そんな優しさを持った
本作の魅力を
お伝えさせていただきます。
目次
西加奈子『さくら』 家族集合
累計55万部突破! 2020年11月映画公開
スーパースターのような存在だった兄は、ある事故に巻き込まれ、自殺した。誰もが振り向く超美形の妹は、兄の死後、内に籠もった。母も過食と飲酒に溺れた。僕も実家を離れ東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた年老いた犬が一匹だけ――。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、何かに衝き動かされるように、年末年始を一緒に過ごしたいとせがむ恋人を置き去りにして、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏の余白に微弱な筆圧で書かれた家出した父からの手紙が握られていた――。
大学生の薫（かおる）のもとに、
家出をして音信不通
だった父から、
一通の手紙が届きます。
年末家に帰ることを告げる
突然の手紙でした。
東京で一人暮らしを
している薫は、
犬の「さくら」に
会いに行くからと
恋人との約束を放り出し、
故郷の大阪へと帰省します。
家出から帰ってきた父と、
いつも明るい大阪の
オバちゃんな母、
そして美人なのに
奇想天外な妹の美貴。
久しぶりに家族が
そろいました。
みんなに愛されていた
兄の一（はじめ）は、
もうこの世にはいません。
兄の死から、
変わってしまった家族の形。
長谷川家はいつも、
人気者で輝く兄を
中心に回っていました。
年末年始にぎこちなく
過ぎる家族の時間は、
もう元に戻ることは
ないのでしょうか。
妹が誕生した日のことや、
兄と遊んだ他愛もない
思い出たち。
故郷での懐かしい
記憶が蘇り、薫は、
もう会えない兄の記憶を
たどっていきます。
西加奈子『さくら』 レジェンドな兄と野生児な妹
薫は三人兄妹・真ん中っ子の
次男です。
人目をひく容姿をもつ
兄と妹とはちがい、
薫はいたって普通です。
一緒に歩いていると、
シカトされてしまう存在です。
兄は学校中のみならず
近所の女子からも大人気で、
男子からも人気者。
「はじめレジェンド」
なるものを巻き起こした
有名人です。
妹は超美人なのに、
グーで人を殴る喧嘩をしたり、
人前で平気でおならを
ぶちかましたりする
制御不能な女です。
いつも兄の一に
くっついていて、
一に近づく女子には
死んだカエルを
投げつけます。
この勢いある性格が、
インパクト強すぎで、
かなり笑えます。
薫は、目立つ兄と妹
に嫉妬したりはせず、
自分にしかできない家族
の中での役割を担っています。
兄や妹に負けないくらい
勉強やスポーツもできるのに、
決して「デキル男」の顔
をひけらかしたりしません。
家族を客観的に、
どこか深い目線で
見つめている薫からは、
家族一人一人への愛
が伝わってきます。
薫の視点から
描かれているからこそ、
この物語は、
家族みんなを輝かせている
のだと思います。
西加奈子『さくら』 さくら
人生終わるときには、
みんな平等なんじゃないか。
本作を読んでいると、
そんなふうに感じてきます。
悩んでいないように
見える人は、
もしかしたら誰よりも
悩んでいるかもしれない。
順調な人生にも、
突然の不幸が訪れたりします。
みんな当たり前のように
何かに悩んで、
ちょっぴり狂っている。
人間は抱えきれないくらい
悲しいことがあると、
どうにかしてバランスを
保とうとします。
兄に起こった不幸を
きっかけに、
美しかった母は、
酒を飲みまくり、
食べ続け、
どんどん太っていきます。
薫はガリ勉になり、
とにかくいろんなものを
暗記して、
片っ端から頭に
詰め込んでいきます。
美貴はますます
突拍子もないことをするし、
父は家出しました。
そんな狂ってる人間の中、
いつも変わらないのが、
愛犬のさくらでした。
心がひゅーっと
暗くなりそうなとき、
さくらの足音がする。
家族がぎこちなくても、
さくらが懸命に
しっぽをぶんぶん
振り続けている。
さくらはいつも、
家族みんなの救いに
なってくれる存在です。
そして、実は誰よりも
悩みを抱えている美貴を、
いつでも癒してくれる
存在でもあります。
どこにでもありそうな
家族の話が、
とんでもなく奥深く
描かれている。
きっと本作を読むと、
故郷に戻ったような、
懐かしくホッとした気分
に戻れます。
悩みや苦しみは
自分だけのものじゃないと、
ちょっと疲れたときに、
背中を後押ししてくれる
一冊になると思います。
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